法曹養成 改革の「理念」を忘れずに『西日本新聞』社説2011年9月26日付

『西日本新聞』社説2011年9月26日付

法曹養成 改革の「理念」を忘れずに

 やはり、事態は深刻と言わざるを得ない。法科大学院の修了者を対象にした今年の新司法試験合格者が、昨年より11人少ない2063人にとどまった。

 政府は2002年に「合格者を10年ごろに年3千人に増やす」と閣議決定していたが、昨年に続き目標に遠く及ばなかった。司法制度改革による法曹(裁判官、検察官、弁護士)人口拡大計画は、形骸化がはっきりしたのではないか。

 一連の司法改革は「国民に頼りがいのある司法」を掲げ、法曹を「国民の社会生活上の医師」と位置付けた。高い理想の下、社会で司法の果たす役割が大きくなり、一般的な訴訟活動だけでなく、弁護士資格を持って企業や役所で働くなど活動領域も広がるとして、法曹人口の大幅増加が計画されたのである。

 だがいまでは、法曹の需要は伸びていないとして、日本弁護士連合会は合格者の抑制を主張する。一方で、合格者がもくろみ通り増えていないのは「法曹の質を保つため」(法務省)という。

 一体、適正な法曹人口はどのくらいなのか。司法試験合格者を年間3千人とした政府計画が妥当なのか。現状を検証したうえで、見直す時期にきている。

 もちろん、「市民に身近な司法」を実現するための司法改革は継続すべきだ。そのためには、法曹養成制度の柱である法科大学院の改革が不可欠だろう。

 実際、74校が乱立し、質の高い教員や学生の確保がままならない。新司法試験の合格率は伸び悩み、今年は23・5%と過去最低を更新した。大学院がスタートした04年度に7万2800人いた志願者が本年度は2万2927人に減った。試験の合格率低迷が大学院の志願者減につながる悪循環に陥っているのだ。

 このため、文部科学省は来年度から、司法試験合格率など一定の基準を満たさない大学院の補助金を減らす方針だ。再編を一気に促す狙いとみられる。法科大学院をめぐっては、すでに姫路独協大が募集を停止した。桐蔭横浜大と大宮法科大学院3大の統合も決まっている。今後、一層の再編統合は避けられないだろう。

 しかし、それだけでは不十分である。大学院の教育の質向上が欠かせない。実社会で活躍する多様な法曹を養成するのが司法改革の理念だったはずだ。再編を改革に生かさなければならない。

 学生の成績評価が甘い-などとして、中央教育審議会の特別委員会は昨年1月、13校に「重点的な改善」を求めたが、1年後の今年1月、なお8校の改善が進んでいないと認定した。厳しい判定だが、実績を挙げているかどうかで大学院の二極化も鮮明になっている。各大学院は真剣に改善策を探ってほしい。

 新司法試験自体の見直しも必要だ。知識偏重の旧試験とさほど変わらないとの指摘がある。試験の内容が実社会で役立つ法曹を育てるようになっているのか。法務省を中心に検討を急ぐべきだ。

 改革の「理念」を忘れてはならない。

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