大学秋入学 検討の価値は大いにある『西日本新聞』社説2011年7月22日付

『西日本新聞』社説2011年7月22日付

大学秋入学 検討の価値は大いにある

 東京大が入学時期を春から秋へ移行する検討を始めた-というニュースが波紋を生んでいる。仮に東大が「秋入学」に踏み出せば他の大学に波及し、全国に広がる可能性があるからだ。大学関係者ならずとも無関心ではいられまい。

 秋入学が一般的な海外の大学に足並みをそろえることで、外国人留学生の受け入れや日本人学生の海外留学をしやすくし、国際化を進めるのが狙いという。

 確かに、主要な国で春入学・春卒業なのは日本と韓国ぐらいだ。東大は留学生の受け入れや送り出し状況が世界的に見て劣っており、危機感がある。入学時期を世界標準に合わせる意義は理解できるし、検討する価値は大いにあろう。

 経済のグローバル化が進み、経済活動や研究開発などを支える「知の領域」のグローバル化は著しい。そうした役割を担う人材育成に向け、大学はいま国際的な大競争にさらされているのだ。

 国際化の効用は人材交流が進むことである。優秀な学生や研究者が集まれば、研究水準や日本人学生の質も向上しそうだ。内向きとされる若者の海外留学が活発になることも期待できるだろう。

 東大は年内にも課題を整理した後、具体的論議に入る。入試の時期は現行のまま変えない方針で、入学時期を秋に一本化する案のほか、春と併存する案、卒業は春のままで修学期間を延長する案なども話し合うという。幅広く議論を重ね、説得力ある方策を打ち出してほしい。

 政府は2020年をめどに外国人留学生を30万人受け入れる計画を掲げ、それを実現するために、文部科学省が09年、「国際化拠点整備事業(グローバル30)」の拠点校13大学を選んだ。選ばれたのは東大、京都大など旧帝大を中心に7国立大と、関東・関西の6私立大だ。

 九州では唯一、九州大が選ばれ、例えば20年度末の外国人留学生数の目標を3900人(昨年実績は約1700人)にしている。こうした目標を達成するのは並大抵ではなく、大学の国際化は東大だけの問題ではない。秋入学は13大学が連携して検討してもいいのではないか。

 秋入学は1980年代、臨時教育審議会で議論され、最近では2007年に教育再生会議が提言した。これを受け、翌08年度から学長の裁量で秋入学は可能になったが、なかなか浸透していない。

 理由は「入学は春」という日本社会に根強い季節感だけではない。高校卒業後はどうするのか、大卒後の就職はどうなるのか、など課題があるからである。

 英国には大学入学を一定期間遅らす「ギャップイヤー」制度があり、多くの若者は留学やボランティアに励む。東大も秋入学までの間、合格者がそんな経験を積むことを想定している。企業や官公庁の採用も、いま主流の一括採用方式が大きく変わる契機になるかもしれない。

 無論、秋入学問題は大学のみで完結はしない。教育界や経済界を巻き込んだ議論も同時に進める必要がある。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com