震災アピール文の原案、添削教室状態に 国立大学協会『朝日新聞』2011年6月23日付

『朝日新聞』2011年6月23日付

震災アピール文の原案、添削教室状態に 国立大学協会

 全国の86国立大学などでつくる国立大学協会の総会が6月22日、開かれた。東日本大震災のあと初の開催。国立大学の今後の役割や機能のあり方をまとめた「国立大学の機能強化 国民への約束」の中間まとめが公表された。同時に、大震災について、国立大学の決意を示すアピール文も発表した。しかし、アピール文をめぐっては、総会で各学長から次々と原案に注文がついて、まるで作文添削教室のような状態になった。

 当初配られたアピールの原案は「東日本大震災からの復興支援と日本再生に向けて」というタイトルのA4判1枚。横書き32字で13行。このうち2段落目を紹介すると次のような文案だった。「国立大学は、本日の総会で『国立大学の機能強化 国民への約束』(中間まとめ)を承認し、各国立大学がそれぞれの特色を生かして震災復興と日本再生に全力で取り組むと同時に、全大学が緊密に連携・共同して、より大きく、より広範囲に、より効果的に役割を果たすことのできる『有機的な連携共同システム』として、わが国が直面している困難な課題に取り組む覚悟です」。さらに、最後の段落を「国立大学は(略)実効ある活動を全力で展開することを改めて確認します」としめくくっていた。

 これを浜田純一国大協会長(東大総長)が各学長に承認をもとめたところ、次々と意見が出始めた。「外向きの文章なので、最後は『展開する』でしめたほうがいい」「国立大学と、各国立大学と全大学との使い分けをきちんとして文章を整理すべきだ」「タイトルが長い」「2段落目のワン・センテンスが長い。途中で区切るといい」。ほかの意見もあったが、浜田会長らが一つ一つ答えていき、公開された総会のなかでは、30分間というもっとも長く活発な意見が出た場面だった。

 その結果、最終的に手直ししたアピールのタイトルは、「東日本大震災からの復興と再生に向けて」と短くなった。2段落目も次のようになった。「国立大学は、各大学がそれぞれの特色を生かして震災復興と新たな日本の構築に全力を尽くすとともに、全大学が緊密に連携・共同して、より大きく、より広範囲に、より効果的に役割を果たすことのできる『有機的な連携共同システム』として、わが国が直面している困難な課題に総力を挙げて取り組みます」。最後の段落の末尾も「全力で展開します」に変わった。

 確かに、アピールにとって文章は命のようなもの。大切なのはよくわかる。意見は一つ一つ取り出せば、ごもっとも。前後を比較すれば、文章は少しすっきりした。少し読みやすくなった。センテンスも少し短くなった。決意が少し伝わりやすくなった。

 しかし、意見を出すなら、3カ月たっていま現在に出すことの妥当性や、自己責任の省察、政府への主張や批判、社会で暮らしている人や被災地への人への呼びかけを盛り込むよう求めるなど、根本からアピール文を問い直すこともできたのではないだろうか。どうせなら、文章の添削ではなく、深い議論を聞きたかった。もともと、このアピールの原案は事前に各学長に配られていたというから、なおさらだ。

 同時に公表された、国民への約束という副題のついた「国立大学の機能強化」の中間まとめは、本体部分はA4判で9ページ。特別につくった委員会がまとめた。こちらは、「大震災と国立大学の責務」の項目のなかで、「研究を継続的に展開し人材育成を推進するための総合的な体制の整備が不十分だったこともあり、『知の共同体』として国立大学がその力を存分に発揮しえなかった。このことを、国立大学として痛恨の思いで受けとめている」と述べている。さらに、国立大学として強化すべき機能として、「卓越した教育の実現と人材育成」「学術研究の強力な推進」「地域振興の中核拠点としての貢献」「積極的な国際交流と国際貢献活動の推進」をあげている。また、機能強化のための国立大学としての方策を5項目、機能強化を実現するための政府の役割を5項目、それぞれ書き込んだ。

 かなり練られた中身だが、国立大学といっても、単科大学から、研究拠点大学、地域貢献を期待されている地方の拠点大学まで、さまざまある。最大公約数のように、すべての国立大学に通用するものになっているので、総花的、無難な内容で、いまの国大協の限界を感じさせる。結局、機能をどう強化するかは、各大学それぞれの自己努力に委ねられていく。

 むしろ、「国立大学『協会』の機能強化」というテーマで、国大協としての組織改革や社会への約束、政府への注文も、今後のリポートとしてまとめられないか期待したい。

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