《医風堂々 秋大医学部の挑戦5》 診療と並行し先進医療研究 『読売新聞』秋田版2011年5月9日付

『読売新聞』秋田版2011年5月9日付

《医風堂々 秋大医学部の挑戦5》 診療と並行し先進医療研究

 「秋田に大学病院があって本当に良かった。大学病院で人工内耳に出会えたからこそ、今の自分があると思っています」。潟上市の舘岡麗子さん(69)が笑顔で語った。

 舘岡さんは、50歳代半ばで急激に聴力が衰え、他人の言葉がほとんど聞き取れなくなった。補聴器もたいした効果がなく、地元の病院では「もう希望は持てない」と言われた。

 わらにもすがる思いで秋田大病院を訪れ、内耳に埋め込んだ電極で神経を刺激して聴力を戻す人工内耳を知った。2002年、同大病院で初となる人工内耳手術を受け、術後のリハビリで会話もスムーズに。「社会参加できるのが何よりうれしい」と話す。

 舘岡さん以降、二十数件に上る人工内耳手術をはじめ、県内では同大病院だけが行っている高度な手術や治療は少なくない。

 整形外科では1993年、脊髄損傷などでマヒのある患者の手足に電極を埋め込み、運動を可能にする機能的電気刺激(FES)という治療で、同大病院として初めて高度先進医療の承認を受けた。以来、FESの研究に力を入れ、ここ数年は、電極を埋め込まず手足の表面から電気刺激を与える外国製器具に着目し、必要な手続きを経て国内で初めて使用を始めた。

 同器具は昨年12月、薬事承認され、各地の病院にも広まりつつある。同科の島田洋一教授は「簡便で安全性が高く、高齢者でも自宅で使用できる。患者さんの社会生活復帰や自立の一助になる」と期待する。

 人工内耳やFESのようにすでに実用化されている治療法とは別に、同大病院では、新たな治療法などの研究発表の場として、年1回程度、院内で「先進医療コンペ」も開催し、研究の活性化を図っている。

 今年1月のコンペには約10人が参加し、その一人で産婦人科の河村和弘講師(40)は、自身が客員教授を務める米スタンフォード大学との共同研究について報告した。

 河村講師らは、卵子のもとになる「原始卵胞」を活性化させる手法を開発。この手法を生かせば、がんを患った女性が、治療前に凍結保存した卵巣を放射線・化学療法後に体内に戻し、妊娠を図る場合、従来の方法に比べて非常にわずかな卵巣の断片を体に戻すだけで成熟した卵子を育てられることになり、移植した卵巣からのがん再発のリスクを抑えられるという。

 実際の治療で活用するため、国や関係学会の許可などを得る手続き中。河村講師は「技術、設備、人員などすべてにおいて、大学病院でなければできないことは多い」とし、「診療をしっかりやりつつ、研究にも力を入れ、医療の発展に貢献したい」と話す。

 「当院の使命として、県内の医療機関で群を抜いた存在でなければならない」。秋田大病院の茆原(ちはら)順一病院長はそう強調し、「充実した教育と研究をベースにした臨床を実現し、大学病院としての底力を発揮していく」と誓った。(佐藤直信)

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