大学分科会(第95回)平成23年2月21日 における鈴木文部科学副大臣の挨拶と審議要請

大学分科会(第95回)平成23年2月21日 における鈴木文部科学副大臣の挨拶と審議要請

【鈴木副大臣】 文部科学副大臣の鈴木寛です。この度は皆様方,大変お忙しいところ,第6期の大学分科会委員にご就任をご快諾いただきましたことを心から御礼を申し上げたいと思います。

 この大学分科会は,我が国の大学政策に関する重要な諮問機関です。元気のある日本をつくり直していくトリガーとエンジンは,いずれも大学にあると思います。大学政策を語ることは,とりもなおさず,日本の再生を語ることとほぼ同義であると思っています。

 昨年は,「大学の年にしたい」と申し上げて,第5期大学分科会委員を含む大学人や経済界の皆様方の大変なご尽力をいただいて,何とかこの6年間で減らし続けてきた大学予算について,平成23年度の予算案は対前年度で531億円増ができました。しかし,減らし続けてきたピークの6年前に比べると,まだ低い水準にある状況です。

 諸外国では,韓国,イギリス,アメリカなど,この10年間,大学に対する投資を大幅に増やしてきており,この大学予算について,数%戻したというオーダーでは全く足りません。中国も大きく増やしています。アメリカでは,高等教育に対する公財政支出は対GDP比の1.0%です。我が国は0.5%にすぎません。アメリカと伍していくためには,少なくとも対GDP比1.0%の公財政支出レベルに上げないと,前提条件がそろわないと思っています。GDP実額は,日本はアメリカの3分の1ですから,大まかに申し上げると,アメリカの6分の1しか大学に公財政を投入していない,こういうことです。

 さらに申し上げれば,民間企業から大学への拠出は,アメリカはGDP比で申し上げると1.05ですが,我が国は残念ながら0.24です。つまり,民間から大学に対する資金提供といいますか,リソースの配分は実額にすると12分の1という状況です。

 そのわりには,高パフォーマンスを上げているとは思いますが,これをどうやって増やしていくかを去年1年間,大学関係者の皆さんと議論し,一緒に社会に対する説得を続けました。そうしたこともあり,来年度の予算案では,文教科学費が公共事業費を上回り,まさにコンクリートから人へという予算配分構造を戦後初めて変えることとなりました。文部科学省予算は国土交通省をはるかに上回ることになったわけですが,国際的に申し上げると,我々の目標は0.5を1.0にしていくことであり,0.24を1.0にしていくことだと思っています。

 そのためには,我が国はなかなか厳しい財政状況ですが,すべての国民や実業界の方から,ここにつぎ込むことこそが日本が復活する唯一かつ最良の道であるという国民的理解を得ることには,残念ながら至っていないことを痛感した1年です。

 したがいまして,この第6期は,戦後以来の大学政策の大きな転換期だと思いますし,そのことが知の時代になった我が国の浮沈を握ることにもつながると思います。この知価社会においては,大学のつくり出す知恵と人材が大事です。大学がしっかりしないとだめだということについての国民の理解,実業界の皆様の理解を得るためにどうしたらいいのかを一緒に考えていきたいと思います。

 実業界の方に,今の大学で実社会に通用する人材を養成していこうと思うかとアンケートをとると,大変まだまだ期待にこたえられていないといった意見があることは事実ですし,大いに頑張っている大学もありますが,相対としてはまだまだ努力していただくべき改善点があると思います。同時に,努力をいただいていても,発信が足りなかったということもあると感じています。

 一方で,この国の社会にもう一度学問が大事だといった認識を深めていただくこともしていかなければいけません。つまり,そうした好循環を生んでいくことが大事ではないかと思っています。

 今回,そういった意味で,日本の大学を何とかしようという大変強いお気持を持っていただいて,大学を見守っていただいている実業界の方々にも委員にお入りいただいて,ここで非常に建設的な対話と提案と発信がなされることが好循環をつくる源だと思っており,ぜひそうした第6期にしていただきたいと思います。

 まず第1に,そうした実社会からの声にこたえていくためにも,大学の教育で,どういう人材を育てているのかといった教育の質の保障と向上,それが何をしているのかについて,しっかりと世の中に説明をしていく,こういったことを早急に実施する必要があると思います。これは財務省にも言われていますが,とにかく予算を増やさないと,我々政府が何を申し上げても説得的ではないので,今年は大学のそうした予算を増やそうということで,財務省を説得してきましたが,そのことが世の中に対してプラスになっているといった兆しがなければ,来年もう1回議論し直させてもらうと言われています。ここについてはまさに大学が劇的に変わった,変わり始めたという大きな改革とメッセージを出していくことが肝要です。

 そういった中で第2に,機能別分化と大学間連携の推進をこれまでも言っておりますが,改めて大学のそれぞれのミッションを再認識する必要があります。率直に申し上げて,この6年間で相当厳しい大学経営を迫られる中で,このミッションとそれに対する選択と集中のプランニングは,少なくとも効率性の追求ということでは,乾いた雑巾になりかかっているといいますか,なっていると思います。

 しかしながら,人材育成の面でどのように付加価値をつくっていくかについては,非常に縮小均衡といいますか,縮小再生産の方向に来ていることもあって,なかなか付加価値を創造する方向に向かっていない。したがって,大学は変わっていないととられてしまうのではないかと思います。

 したがって,そうした単独での努力はしていただいてきたと思っていますが,今後は,更にコラボレーションをしていただいて,持ち得る資源を集めることで,攻めの大学改革につなげていただきたい。その意味では,この大学間の連携,戦略的連携が大変大事になっていくのではないかと思っています。

 3点目は,大学の組織・経営基盤の強化についてです。経営基盤の強化は,まさに基盤的経費をしっかりと確保するということで,もちろん我々の仕事が一番大きいわけです。

 国立大学については,基盤的経費の削減はストップをすることができました。それから,私立大学については,私学助成金に加え,今回,国会に提案をしている学校法人に対する寄附の税額控除という制度をつくりました。これは寄附文化の醸成等がありますから,来年度から直ちにこれで寄附が増えるといった甘いものでないことはわかりますが,健全な私学経営ということになりますと,やはり民間からの寄附を集めていくことが極めて基盤的経費の確保ということでは大事になってこようかと思います。

 その際に,これまで我が国の税制にはなかった所得控除ではなく,税額控除という措置を今回導入させていただいたのも,まさにそういった思いで,私立大学振興について,この点を今年のエポックとして我々も取り組んできたところです。

 税務当局からは,大学は既に法人税において相当な優遇をされているにもかかわらず,加えて寄附の税額控除はいかがなものかという極めて強い反対がありました。しかし,そこは大学がまさに日本の再生の原点であり,我が国の高等教育人材育成の7割から8割は私立大学が担ってきているという実態にかんがみて,私立大学が安定的な財政基盤を確保することが極めて重要だといった説得の結果,今回の税額控除の対象に私立に対する寄附税制ということになった経緯も理解をいただきたいと思います。

 そういった中で,もちろん公財政支出を増やしていきたいと思いますが,この財政状況でここを回復していくことは極めて難しいわけです。

 やはり,広く社会から理解され支持される大学というガバナンスをつくり出していただいて,そうしたことに強化をしていただくことしかないと思います。そういう意味で申し上げますと,文部科学副大臣が言うのもいかがかと思いますが,私は私立大学でも教鞭をとらせていただきましたし,国立大学でも教鞭をとっていた経験上,これまでの政権交代前の大学運営は,どちらかというと文部科学省の顔色をうかがう大学経営だったと思います。

 そうしたことから脱して,まさに真のステークホルダーとコミュニケーションを深めていただきたい。そのときに,真のステークホルダーは当然学生やその保護者ということはありますが,例えば高校も真のステークホルダーにきちっと入れていただきたいと思いますし,何よりも,高等教育機関を卒業した学生の9割の方はビジネスの現場で働かれるわけでありまして,それ以外にも病院,学校や教育機関など,まさに実社会で仕事をされるわけです。そうした方々を含めて真のステークホルダーだと思っていまして,そういうステークホルダーとの充実したコミュニケーションを不断に続けて,大学のミッションや目指すべきものについての理解を得て,様々なヒントやアドバイス,協力を獲得するという好循環をつくっていきたい。経済同友会や経団連においても,非常に真摯にそうしたリーダーシップをとって,すばらしい議論と提言が出ています。そういう意味で,非常に好機だと思っていまして,そういうことを審議いただきたいと思っています。

 最後に一言だけ申し上げますが,この前,PISAの調査を行いました。結果を見てみますと,新聞ではいろいろと言われていますが,15歳の5月ぐらいに調査をしていますので,高校1年生の5月ぐらいですが,PISA調査で数学的リテラシーがレベル5以上の人材が我が国は1学年25万人輩出しています。アメリカは40万人で日本は25万人です。引き続き先進国において,クリエイティブを潜在的に持った人材が15歳では25万人いるということです。これを高校,大学で花開かせるのか,そこをしぼませるのかということが我が国の今の課題だと思います。

 もちろん,初等中等教育において,様々な課題がありますが,初等中等教育については,既にかなり積極的な教育改革が進んでいると思います。10年前ぐらいからかなり動き始めていて,地域の方々が一緒になっていい小学校や中学校をつくるという実践はあります。そういった成果があってこの25万人が出ていると思います。もちろん,レベル1以下が多いということは別途,公教育をしっかりとしなければいけない点ですが,この25万人をはじめとするそれぞれの人材が持っている資質を開花させる高校や大学が必要です。高校は,結局は大学の入学者選考に相当影響されますから,高校改革の命運を大学が担っていると申し上げていいかと思いますし,実社会と大学がコラボレートして,社会に通用する,世界に通用する創造的な人材を育成することが求められています。

 少し話が長くなりましたが,いかに私が大学に,あるいは高等教育機関に期待をしているかということでご容赦をいただいて,第6期の大学分科会の先生方の支援と協力をお願い申し上げ,私のあいさつとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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