大学関連予算、6年ぶり増額『朝日新聞』2011年1月17日付

『朝日新聞』2011年1月17日付

大学関連予算、6年ぶり増額

 2011年度の政府予算案で、文部科学省の大学関連の主要予算が6年ぶりに前年度より増額された。自民党政権時代からの減額傾向に歯止めがかかったが、財務省から示された一部の予算計上の「条件」は、「大学改革の推進」。財政難のもと、大学界からも「大学自身が改革姿勢や研究成果を示せないと納税者の理解が得られない」との声がでている。(井上裕一、三島あずさ)

■研究費補助金は過去最高

 昨年12月27日、国立大学協会の浜田純一会長(東大総長)が高木義明文科相を訪ねた。政府予算案の閣議決定の3日後だ。「予算案にご尽力いただきありがとうございました」と感謝の言葉を並べた。

 予算案では国立大の運営費交付金や私立大への補助金、研究費補助金などの大学関連の主要予算が1兆7923億円に上り、前年度と比べ531億円増えた。

 予算額を押し上げたのが、研究費の大幅増だ。理系出身の菅直人首相の指示で、大学の研究者らを支援する科学研究費補助金が前年度比633億円増の2633億円と、過去最高に。毎年約1%ずつ削られていた国立大の運営費交付金も1兆1528億円が計上され、前年度比58億円(0.5%)減と削減幅が縮小。国立大の設備費を支援する教育研究特別整備費58億円が新たに計上されたことで、「大学の基盤的な予算の減少を食い止められた」(文科省)。

 大学関連事業を巡っては昨年の政府の事業仕分けで厳しい判定が相次いだが、既存事業の継続を中心に予算計上が認められた。特に目立ったのが、大学の国際化を支援する事業だ。仕分けで「いったん廃止」とされた国際化拠点整備事業は、大学間や産業界との連携を重視するよう内容を変更し、名称も変えて前年度とほぼ同水準の29億円を計上。新たに海外の学生との双方向交流の推進や、アジア・米国の大学との連携支援にも各22億円計上された。

 昨夏ごろから大学予算が削減されるとの観測が広がり、国公私立の大学団体は一斉に反発。大学の学長らもそれぞれの地元選出の国会議員に予算確保を求めて働きかけたほか、文科省関連の予算に対して研究者や学生らから約28万件のパブリックコメントが寄せられたことも功を奏したとの見方がある。

 大学現場でも評価する声があがる。筑波大の国際担当、塩尻和子副学長は国際化拠点整備事業が継続されることに「政府を見直した。大学間の連携を強め、国際化への取り組みを一層強力なものにしたい」と話す。

■「改革推進」の条件付きで

 ただし、手放しでは喜べない。新設された国立大の教育研究特別整備費の計上を巡っては、財務省からこんな条件が出された。

 「大学における機能別分化・連携の推進、教育の質保証、組織の見直しを含めた大学改革を強力に進めること」

 大学進学率が上昇し、就職も難しくなるなか、教育の質の向上や、社会のニーズに応じた人材養成が大学の課題となっている。どこも同じような大学を目指すのではなく、各大学が特色を明確にし、教育や研究における大学間の連携を進めるべきだ――。

 財務省の「条件」にはこうした狙いが込められているとされ、1年以内をめどに改革の方策を打ち出すことが求められた。多額の国費の支出に際して期限を区切って注文をつけられた形だ。

 事業仕分けで「薄く広く予算が配分され、メリハリがない」と指摘された教育改革の支援事業なども、新規事業は認められなかった。科学研究費補助金の大幅増も、菅首相の「鶴の一声」に頼った結果だ。予算の効率的な活用に向けて文科省や大学が改革に取り組み、国民への説明を尽くさなければ、予算は再び減額される可能性がある。

 研究費の予算増について、名古屋大の研究・国際企画担当で理学博士の渡辺芳人副総長は「科学技術に関する大学の役割や基礎研究の重要性が十分に認識された結果であり、重要な一歩」と歓迎しつつ、「研究成果の発信、特に一般の人たちにも分かりやすい情報発信は、我々の重い宿題」と気を引き締める。財務省から大学改革の条件がついたことも、「多様化する学生に対応するための教員の意識改革や、各大学がそれぞれの『ミッション』を明確に示すこと、国内外の大学との連携なども、重要な課題と受け止めている」と話す。

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