『信濃毎日新聞』社説2010年12月28日付
科学研究予算 基礎と地方にも重きを
大学の研究者らに対する科学研究費補助金(科研費)の大幅増額が来年度予算案に盛り込まれた。
研究進展のバネにしてほしい。だが、これだけで日本の大学の科学研究を十分伸ばせるか、疑問が残る。
科研費は、研究者から応募のあった研究提案を専門家らが審査して助成を決める「競争的資金」の一つである。
菅直人首相は「日本が成長するには科学技術が必要」として予算拡充に意欲を示した。その表れが今回の科研費の大幅増だ。
研究者らからは不満もある。科研費は個別の研究プロジェクトへの助成であり、大学の研究・教育を全体的に向上させる効果はそれほど大きくないとの理由だ。
国立大の主な財源である運営費交付金は、法人化されてから毎年1%減らされ、6年間で計830億円減った。その結果、教職員の削減が急速に進んでいる。
大学が研究者に配分する「校費」(研究費)も減った。校費は、科研費のように用途が限定されず使いやすい。科研費など競争的資金は東大など旧帝大に集中しがちだ。信大など地方国立大の関係者は、人員削減と校費減少に強い危機感を持っている。
来年度予算案では、運営費交付金は10年度比0・5%減だが、大型実験機器購入などができる補助金を創設した。この結果国立大の予算は実質横ばいとなり、基盤的経費削減に歯止めがかかったと文部科学省は説明している。
日本の科学研究水準は心もとない。論文が他の研究者に引用される度数は米英など上位5カ国に水をあけられ、韓国と中国に追い上げられている。科学技術予算が諸外国より少ないことが一因だ。国立大の経費削減が研究の時間や意欲をそいでいる面もある。
限られた財源の中で、研究の水準を高め、それを支える裾野を広げることが求められる。
そのために、基礎的研究にも力を入れたい。長い目でみれば大きな成果をもたらす。一昨年ノーベル化学賞に輝いた下村脩さんのクラゲの研究が、いい例だ。
ものになるかどうか分からない段階の研究を支えてきたのが各大学の校費だ。それを削って競争的な科研費だけを増額させても、科学の裾野は広がりにくい。
基礎科学や地方大学の科学研究を活性化させるためには、研究費の配分方式を見直すことが望ましい。地方大学の特性に応じた研究が進展してこそ、日本全体の科学が強くなる。