政策コンテスト:AB評価6割強…かすむ政治主導『毎日新聞』2010年12月1日付

『毎日新聞』2010年12月1日付

政策コンテスト:AB評価6割強…かすむ政治主導

 政府は1日、11年度予算で各省が政策を競い合う「政策コンテスト」の評価会議(議長・玄葉光一郎国家戦略担当相)を開き、189事業の評価結果を決定した。対象は「元気な日本復活特別枠」向けに各省が要望した事業で、A~Dの4段階評価のうち最高ランクのA判定には防衛省の「在日米軍駐留経費負担」(思いやり予算)など41事業を選定。B判定だった78事業を含めて全体の6割強が高い評価を受けた一方、予算化が困難なD判定は27事業にとどまった。【谷川貴史、坂井隆之、高橋昌紀】

 「(要望事業について)パブリックコメント(意見公募)や公開ヒアリングを行い、国民の前で予算編成を進めてきた。今回の評価に沿って、メリハリのきいた予算配分をしていきたい」。評価会議で玄葉氏はコンテストの意義を強調した。

 コンテストでA、Bの評価を受けた119事業のうち82事業は、政府が6月にまとめた「新成長戦略」や民主党マニフェスト(政権公約)の関連事業。特に成長戦略関係が多い経済産業省では、要望した30事業のうち20事業は、要望額がほぼ予算化されるA判定で、玄葉氏は「予算の重点化、組み替えが実現する」と胸を張った。

 だが、「政策決定の透明化」や「政治主導での大胆な予算組み替え」といった理念を掲げながらも、コンテストの判定は根拠があいまいで評価の甘いものも目立った。

 例えばマニフェストの主要施策の「高速道路無料化」だ。国土交通省は10年度に着手した無料化実験について、11年度に対象区間を拡大することを要望したが、9~10月に実施したパブリックコメントでは、全体の8割強が渋滞増加などへの懸念から「必要な事業と思わない」。11月中旬の公開ヒアリングでも「国民の支持が集まっていない」などの指摘が相次いだ。

 このため評価会議はヒアリング後にまとめた素案で「高速無料化」をC判定としていたが、最終結論は1ランク上のB。文部科学省の「小学1、2年生での35人学級の実現」もヒアリングで「児童数が減る中で、教職員を増やすのか」と批判され、素案はC判定だったが、最終的にBに「格上げ」された。

 平野達男副内閣相は評価会議後の会見で「高速無料化の実験事業は来年度も続ける以上はC、Dではない」と説明。35人学級は「(要望額に現行の40人学級に必要な教職員の人件費も含まれ)今の教職員分は予算を付けざるを得ない。定数増は財政当局と文科省の議論に委ねる」と政策判断を事実上、先送りする考えを示した。格上げの背景には事業拡充を求める各省や与党への配慮があるとみられ、評価プロセスに不明朗さが残った。

 一方、防衛省の思いやり予算には、当初から「あえて削れない事業をコンテストに持ち込み、予算獲得を目指す作戦」などの批判が続出。結局、日米同盟の重要性の観点からA判定になり、要望が全額認められる公算だが、特別枠の狙いにそぐわない結論となった。

 ◇予算化は難航必至

 コンテストの結果を受け、財務省は「特別枠」の財源を各省に配分するための本格的な査定作業に移る。各省の要望が総額2.9兆円に達したのに対し、現在確保できている財源は1.3兆円程度に過ぎないため、コンテストでどれだけふるいにかけられるかが焦点だったが、高評価のA、B判定だけでも要望額は計2.3兆円。判定をどこまで予算額に反映させるかの基準も明確ではなく、絞り込み作業は難航必至だ。

 特別枠は、各省庁が概算要求段階で歳出を10年度予算比で1割以上削減し、浮いた分のうち「1兆円を相当程度上回る額」を財源に充てる。政府は、現在確保できている1.3兆円に加え、特別枠向け以外の予算要求をさらに削り込んで、特別枠の規模を2兆円に近づけたい考え。それでも、国債費を除く歳出を71兆円以下に抑える政府目標達成のためには、要望を1兆円前後絞り込まなければいけない計算だ。

 だが、「民間に任せるべきだ」「緊急性が高くない」などの理由でD判定が付いた事業の要望額はわずか312億円にとどまる。要望額の削減・見直しが必要なB、C判定の事業についても削減幅は明記せず、要望する官庁側に交渉の余地を残した。どの事業をどれだけ削るかの判断は、ほとんど財務省と要望側官庁の折衝に先送りされたのが実情だ。

 菅直人首相は1日、首相官邸で記者団に「雇用と成長を重視して(自分が最終的に)判断する」と強調したが、要望側官庁の抵抗は必至。求心力低下が著しい首相がどこまで指導力を発揮できるかは不透明で、財源の手当てができないまま特別枠が膨らむ恐れも否定できない。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com