『信濃毎日新聞』社説2010年11月8日付
奨学金制度 社会の支援広く厚く
大学や大学院の学費を補う奨学金制度は、学生の頼みの綱だ。その柱が、独立行政法人日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金である。およそ118万人が利用している。
奨学金は原則として卒業後に返す「貸与型」。この返還が滞る人が、年々増える傾向にある。2008年度の未返済額は過去最高の723億円に上った。
奨学金の原資には、政府の貸付などのほか、返還金も充てられる。延滞は見過ごせない。文部科学省は先ごろ、機構に対し回収の強化を求めた。
所得があるにもかかわらず返さない悪質なケースについては、厳しい対応もやむを得ない。ただ、返還が滞っている人の多くは、不況で就職がままならず「返したくても返せない」状況にある。こうした実態をくみとり、制度のあり方を見直すときにきている。
機構の奨学金は、成績や親の所得に応じ、無利子と利子付きの2種類がある。大学生の場合、支給額はいずれも月3万円から。卒業後に原則、最大20年で返還する。
機構が08年度に半年以上延滞した人を調査したところ、その理由のトップは「低所得」だった。
年収300万円未満の人が8割を超え、100万円を切る人も4割弱いる。正社員は3割ほど。派遣社員やアルバイトが最も多く、6人に1人は無職だ。若者を取り巻く雇用の現実である。
機構は返還猶予のほか、新たに月々の返還額を軽くする制度も始める。きめ細かな減免策が要る。
文科省は無利子の利用者枠を広げるため、来年度予算の概算要求に事業費を盛った。当然である。これまでは枠が狭すぎて、やむなく利子付きに回る学生がいた。
より根本の策として、返還が不要の「給付型」奨学金の創設に踏み切るべきだ。経済的に苦しい家庭の子が勉強に打ち込むには、給付型が大きな助けとなる。
欧米では給付型を拡充しているのに対し、日本は立ち遅れている。川端達夫前文科相は6月に創設を検討する考えを示したものの、その後具体化していない。
民間の力にも期待したい。