『読売新聞』鳥取版2010年11月1日付
医療専門職 確保に躍起
病院単独の対策に限界
都市部への偏在や慢性的な不足が指摘される医師、看護師だけでなく、臨床工学技士や診療放射線技師といった様々な専門職の確保に、県内の医療機関が頭を悩ませている。地元に養成機関がなく、学生にキャリアアップのための都会志向が強いことなどが要因だ。大がかりな採用キャンペーンに乗り出し、一定の成果を挙げた病院もあるが、「地域全体で対応を考える必要がある」との指摘も出ている。(桑田睦子)
「かなりの投資だったが、有為な人材を集めることができた。病院の雰囲気を生で感じてもらえたのが良かったかな」。鳥取大病院の早川幸子・病院長特別補佐は胸をなで下ろす。
同病院は8月、初の全職種合同説明会を鳥取大米子キャンパスで開催。研修医と看護師のほか、▽臨床工学技士▽診療放射線技師▽薬剤師▽臨床検査技師▽理学療法士▽作業療法士▽言語聴覚士▽管理栄養士――の8職種で人材を募った。
東北、九州の学生を含む計82人が参加した説明会では、職種ごとに現役スタッフが体験談を交えて業務内容を説明、職場見学も受け入れた。「この病院で働く具体的なイメージを持てた」と好評で、特に8職種は、その後の採用試験を通じて来年度の採用予定数をすべて確保できたという。
■ □
鳥取大病院の求人活動は昨年まで、各職種でばらばらに行われていた。だが、人工透析・人工心肺など高度医療機器の操作・保守を担う臨床工学技士は、計画数の13人に5人足らず、薬剤師も毎年、2人程度の中途退職者を埋められない。なぜか――。
臨床工学技士や診療放射線技師は県内に養成機関がない。県臨床工学技士会によると、県外の大学や専門学校の卒業予定者は、就職後の技量向上を念頭に症例の多い大都市圏の病院を志向しがちという。
同様に養成機関のない薬剤師は、2006年度に薬学部が6年制となった影響で10、11年度は新卒者が出ないことも人材不足に拍車をかけている。
そこで鳥取大病院は今年2月、院内横断のプロジェクトチームを作り、合同説明会に向けて民間企業並みの募集作戦を展開した。
各職種のスタッフが写真入りで登場するパンフレットを作り、全国の大学や専門学校に送った。大阪や岡山の駅構内にポスターを張り、地元ではテレビCMも放映。広報担当者は「トータルで数百万円をかけた」と打ち明ける。
■ □
だが、採用数が少ない病院は、こうした打開策を打ちづらいのが現状だ。
智頭病院(智頭町)は、言語障害やのみ込みのリハビリを担う言語聴覚士が08年から不在。診療放射線技師も定年退職者を再雇用して人員を確保している。どちらも応募がない状況が続くが、寺谷和幸・事務次長は「募集枠は各1人で、費用対効果を考えると、病院単独で大々的な宣伝はできない」とこぼす。
県立厚生病院(倉吉市)も臨床工学技士が1人足りないが、国米洋一・事務局副局長は「都会の学生に目を向けてもらう妙案がない」と頭を抱える。
県は理学・作業療法士と言語聴覚士を目指す学生向けの奨学金制度を設けており、今年度は80人が利用している。受給した1・5倍の期間、県内医療機関に勤務すれば返済が免除される好条件だが、それでも定着率は7割程度という。
鳥取大病院の早川・病院長特別補佐は「就職後のキャリアアップの具体的な道筋を示すなど各医療機関の努力も不可欠だが、今後は病院や自治体が連携し、県内の医療現場でのやりがいをアピールすることも必要では」と話している。