新卒者の就職活動 「一発勝負」の不安解消策探れ『愛媛新聞』社説2010年08月19日付

『愛媛新聞』社説2010年08月19日付

新卒者の就職活動 「一発勝負」の不安解消策探れ

今春卒業の大学生約54万1千人の就職率が下落幅で過去最大となった。学部卒のうち進学も就職もしていない人は約8万7千人に達する。

折からの不況や国際競争の激化を受け、企業が採用を厳選する姿勢が強まっている。加えて、卒業時に新卒として採用されなかった場合に安定した正規雇用に就くことが難しいのが現状だ。見通しのつかない就職戦線に、立ち向かう学生の不安感は増すばかりだろう。

若者全体の失業率も高い。先ごろ公表された「経済財政白書」によれば、1年以上就職できていない長期失業者の割合が顕著だ。

新卒者を含む若者層の雇用改善は喫緊の課題である。若い人が希望をもてない社会では活力も生じない。菅直人首相は省庁横断的取り組みに言及したが、政府あげて打開策を打ち出してもらいたい。

とりわけ、卒業時の一度のチャンスで結果を出すことを迫る「新卒一括採用」の見直しは急務だ。

失敗が許されないプレッシャーから、就職活動の開始時期を3年の夏に前倒しする傾向が強まり、大学教育にも影響が及んでいる。しかし早期に内定をとれるわけではなく就職活動の長期化が学生を精神的に疲弊させている。

労力に見合った効果が望めない就職・採用のあり方に、学生も企業も大学も、徒労感を感じていよう。

企業側は、既卒者の排除は「差別」であると認識して新卒にこだわらない採用を模索するべきだ。時期や対象者が多様化して挑戦の機会が増えることは、若者の不安を解消する一つの道筋となる。

新卒一括採用は、人手不足で雇用拡大が望める高度成長期には有効であったろう。長期雇用を前提に企業内訓練が可能だったことから、対象者の経験や教育の成果よりも新卒であることに価値を置いた採用方法がとられた。

そうした前提が崩れて正規雇用の枠が縮小しているうえに、大卒者数の急増という新たな事態が起きている。現状をふまえた就職・採用のあり方を、関係者が協働して探らねばならない。

大学教育の質の向上を審議していた日本学術会議は、職種別採用など専門性が実際の仕事に直結する採用方法を提言している。就職活動については前倒しを抑制しつつ、就業体験など企業との接点は早い時期に行うよう促した。

大学側には既卒者支援の継続を求めたい。職業能力形成の視点にたったキャリア教育は教育界全体が真正面から取り組むべき課題だろう。

雇用システムや社会の意識を変えるのは容易ではない。が、職につけない大量の若者の存在は社会の損失だとの認識で、改善を進めたい。

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