学長コラム (電気通信大学長 梶谷 誠)
平成22年8月13日 第9号 国立大学の衰退は国を滅ぼす
政府は、平成23年度から3年間の「基礎的財政収支対象費」の歳出の大枠を71兆円に抑えることとし、そのために、年金や地方交付金等の例外を除いた一般歳出の概算要求を前年度比10%減とするよう各省に求めています。
文部科学省の予算に対してもこの基準がそのまま適用されると、国立大学の運営費(国立大学法人運営費交付金)も10%削減され、今後3年間で30%以上も削減(過去6年間で約6.7%削減されている)されることになり、国立大学の数を大幅に減らさざるを得なくなります。
巷では、国立大学の数は多すぎるから減らすべきであるという意見や、全て民営化(私立大学)してしまえばいいという意見すらあります。このような考え方は、世界的に見て極めて非常識です。国家を支える人材の育成は、国の将来に対する投資であり、公(国や州など)の最も重要な戦略的責務であるというのが世界の常識です。このことは、次に示すデータの例からも明らかです。
日本の高等教育の構造は世界の先進国に比して異常と言わざるをえません。日本の4年制大学の数は約770ですが、そのうち国立大学と公立大学の合計数は全大学数の約23%に過ぎず、私立大学が圧倒的に多いのです。学生数でも、国公立大学は約27%だけで、約73%が私立大学です。アメリカでは、全大学数の約24%が州立大学(国立大学はない)とほぼ日本と同じ割合ですが、学生数では約62%が州立大学の学生で、実質的に高等教育の過半を公が担っているのです。ヨーロッパに目を向けると、どの国も高等教育はほとんどが公の責任において実施されています。イギリスでは、164校ある大学のうち私立大学は1校だけです。フランスでは約14%に相当する私立大学がありますが、私立大学の規模は小さく、約98%の学生は国立大学の学生なのです。ドイツでもほぼ事情は同じです。私立大学の数は22%ありますが、学生数の約96%は州立大学(国立大学はない)に属しています。
さらに加えれば、高等教育機関に対する国等からの公的な財政支出は、2000年を100として2006年を比較すると、日本だけが減少しており、韓国143、イギリス138、アメリカ133などと大幅に増加させているのです。各国も財政にゆとりがあるわけですありません。日本のように、毎年減少させていく国は自ら崩壊の道を選んでいることになります。
もし、閣議決定された概算要求基準を高等教育への支出に適用するなら、上記のような世界の常識から考えても理解し難いことであり、将来の日本に対するどのような秘策に基づくのであるか、説明していただきたいと思います。日本が900兆円にも及ぶ借金を抱えて、財政に全く余裕がないことから、我慢せよということかもしれませんが、この900兆という借金を返せるような国に建て直すためには、人材育成に投資するしか道のないことは明らかなはずです。