『朝日新聞』2010年8月8日付
長崎大が平和研究機関設置へ 被爆地からの発信強化
長崎大学が、非軍事分野での国際平和貢献活動のあり方を研究し、人材育成も進める「平和構築研究センター」(仮称)の設置に向けて動き出した。来年3月までに構想を固めることにしている。長崎で初の公的な平和研究機関として、被爆地からの発信強化をめざす。
検討委員会を7月に発足させた。委員会のメンバーによると、同大の教授たちに加え、長崎市の田上富久市長や黒川智夫・長崎原爆資料館長、核廃絶運動に取り組むNGO関係者らを学外委員に迎えた。
もう一つの被爆地の広島には広島大の平和科学研究センターや広島市立大の広島平和研究所があり、北東アジアの核軍縮問題や国連平和維持活動(PKO)に関する研究などが進められてきた。これに対し、長崎大では非軍事分野に的を絞る方針だ。これまでの委員会の論議で、医療、民生、教育分野などの支援活動の研究や、これらの活動に携わる人材の育成に力を入れるという方向性が示された。
同大の前身の一つの長崎医科大学は爆心地から約500メートルにあり、永井隆博士(1908~51)をはじめ、教職員や学生らが被爆者救護に奔走した。長崎大の原爆後障害医療研究施設(原研)は旧ソ連・チェルノブイリ原発事故の被曝(ひばく)者への医療支援や共同研究にも取り組んでいる。そうした蓄積を生かした研究をすることも構想している。
長崎ではこれまで私立大学や市民団体の平和研究機関が情報発信機能を担ってきた。しかし、今年3月には在野の「長崎平和研究所」が財政難などで閉所。「核なき世界」への期待が高まる中、新しい時代に即した平和研究機関の必要性が指摘されていた。(枝松佑樹)