2010年8月3日
−教育・研究開発力充実と高等教育に対する公的投資の拡充を−(共同声明)
北陸地区国立大学連合
金沢大学長 中 村 信 一
富山大学長 西 頭 德三
福井大学長 福 田 優
北陸先端科学技術大学院大学長 片 山 卓 也
国家財政建て直しの中長期的戦略として、「第三の道」、すなわち、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的実現に主眼を置く「新成長戦略」が閣議決定(6月18日)されました。そこでは、「強い人材」すなわち将来にわたって付加価値を創出し、持続可能な成長を担う若年層や知的創造性(知恵)(ソフトパワー)の育成は、成長の原動力である、とされています。
自然資源に乏しい我が国がグローバルな競争に勝つには、知識基盤社会の構築とそれによる科学技術立国にあるとされています。そのためには、優れた技術の開発と高い技術を生み出す人材の育成が欠かせず、その実現は高等教育による以外にありません。「強い人材」の育成は大学、特に国立大学に求められています。
現在の我が国の知的基盤と科学技術は、いま活躍している研究者・技術者「強い人材」が受けた教育の成果であり、これは彼らを育成した教員「強い人材」と、教育の機会を整えた行政(財政)あってのものです。そして、現在教育を受けている人材(学生)は、成長して次世代の「強い人材」を育てる人材となります。このように、「強い人材」の育成は、人材を育成する側と育成される側の連続性の上にあります。連続性が一旦断ち切られると、将来の人材育成に空白の期間を生じさせることとなり、教育と通じたその回復には長い時間がかかります。
国立大学における教育・研究の根幹となる教職員の人件費と教育に必要な経費の多くは、国立大学法人運営費交付金により賄われています。しかし、「政策的経費は一律10%削減」という概算要求組替え基準が7月27日に閣議決定されました。先の「財政運営戦略」(平成22年6月22日閣議決定)に基づく約71兆円の「歳出の大枠」を堅持し、機械的に政策的経費の一部である国立大学法人運営費交付金の削減を3年間続けると、3年間で今年度当初比30%の削減となります。
国立大学の現状に当てはめると、10%削減・30%削減は、学科・学部単位の削減を招きかねません。学科・学部の廃止は、景気が回復基調に戻ればまた設置し直せばよいというような、単純なことではありません。一旦断ち切られた人材育成の連環を元に戻すには数十年という年月が必要です。この失われる年月の間の人的損失とそれに基づく経済的損失は予測できません。
「強い人材」の育成による「新成長戦略」に基づき、安心・安全な社会の実現という国家の未来を描く上で、国立大学をどの様に位置づけるかは、国家経営の上で重大な選択といえます。今般の閣議決定の「政策的経費は一律10%削減」を国立大学法人運営費交付金に課すことは、日本の未来に致命的なことになるものと危惧し、「新成長戦略」に基づき、長期的な観点から予算配分が行われるよう強く要望します。