『朝日新聞』滋賀版2010年4月12付
滋賀大の佐和隆光学長に聞く
さわ・たかみつ 米スタンフォード大研究員を経て京都大教授、同大経済研究所所長などを歴任。著書に「グリーン資本主義」など。67歳。
滋賀大の新学長に今月、経済学者の佐和隆光氏が就任した。専門の計量経済学の分野で世界的な業績を残す一方、近年は環境経済学の研究を進め、多くの著書を出している。世界の抱える環境問題や滋賀でめざす教育について聞いた。(高久潤)
――どのような大学を目指しますか。
「環境問題を重視する滋賀県の大学として、環境問題の研究を滋賀大の『顔』にしたい。一言で環境といっても、研究する分野は経済学や自然科学など多岐にわたる。滋賀大には教育学部があるが、環境教育の必要性は高い。世界的にも関心の高い環境問題と滋賀という地の利を生かした戦略を打ち出していきたい」
「大学とは大学でしか学べないことを学ぶ場であるとの認識を強調したい。例えば英国のオックスフォード大やケンブリッジ大で人気のある学科は歴史学科だ。大学の4年間で歴史的なものの見方を身につけ、実学はオン・ザ・ジョブ・トレーニングで、というのが英国式の考え方。教養に満ちあふれた専門的職業人を養成する場にしたい」
――1997年の京都議定書の採択から、2020年に90年比で温室効果ガスを25%削減するという「鳩山イニシアチブ」まで、環境政策の流れをどうみますか。
「京都議定書は、温室効果ガスの削減を先進国に義務づけたという点で画期的だ。20世紀は経済発展・成長の世紀。電力と石油を使って発展した世紀の終わりになって、20世紀のシンボルとも言うべき二酸化炭素の排出削減、すなわち従来型の経済成長との決別を決意したことは意義深い」
「その後の大きな転換点は07年。アル・ゴア(元米副大統領)が『不都合な真実』を世に問い、この年に公表された『気候変動に関する政府間パネル』の第4次評価報告書には、大気中の温室効果ガス濃度の上昇が気候変動の原因であることを『Very likely』、つまり90%以上の確度でそうだと言明した」
「日本でも07年、当時の安倍首相が2050年までに世界の排出量を半減すべきだとする安倍イニシアチブを公表。福田政権下では『50年までにわが国の排出量を60~80%削減』を閣議決定した。鳩山イニシアチブは、長期目標達成のための必要な経過点とみなすべきだ」
――とはいえ、産業界をはじめ、目標達成の実現性や手段のあり方に異論も相次いでいます。
「世界的にどういう枠組みになるかわからないが、私は『先進国には厳しい義務を課せ』という考えだ。先進国の技術で新興国・途上国の温室効果ガスを削減し、それを先進国の削減分にカウントしないと、義務を果たせないようにする。新興国にも義務を課すことにすれば、二国間交渉で先進国は目標を達成しやすくなる」
――滋賀県は2030年に温室効果ガスを90年比で半減することを掲げています。自治体レベルのこうした動きをどう評価しますか。
「自治体からのボトムアップが国を動かすことを期待したい。気候変動問題に関する国際交渉の役割は国が担う。だが、国は産業界からの反発を懸念する。そうしたなか、滋賀をはじめとする自治体の動きが続けば、経済団体も声高に反対するわけにはいかない。国の温室効果ガスの削減対策を前進させるには、下からの突き上げが不可欠だ」