第2部=選択の背景(1)源流/次世代技術、東北で再び 『河北新報』2010年1月31日付

『河北新報』2010年1月31日付

第2部=選択の背景(1)源流/次世代技術、東北で再び

1月22日午後、仙台市青葉区の東北大片平キャンパスに、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長の姿があった。

「自動車(製造)を始めたときから大変、お世話になった。最近は関係が少し薄れたが、昔のように指導してほしい」

豊田名誉会長は井上明久総長ら大学幹部に切り出した。東北大との産学連携を深めたいという、トヨタグループとしての意思表示だった。

東北大は実学尊重を掲げる。世界トップレベルの車メーカーとの共同研究は、大学の実力アップにつながり得る。井上総長は「東北に自動車産業が集積しつつある。大学としても貢献したい」と大きくうなずいた。

<熱いアプローチ>

グループのセントラル自動車(神奈川県相模原市)が2007年、宮城県移転を発表して以降、トヨタは東北大に熱い視線を送り続ける。特定の大学に対し異例ともいえるアプローチをする背景に、世界首位を争うまでに成長したトヨタへの東北大の貢献があった。

1937年、トヨタの前身のトヨタ自動車工業が設立されるのと同時に東北帝大工学部の抜山四郎、成瀬政男の両教授(いずれも故人)が研究顧問に就任。エンジンと歯車の専門家として助言し、国産車の技術確立に貢献した。

特に抜山教授の弟子の故棚沢泰教授は多くの教え子をトヨタに送り込んだほか、技術開発を意欲的に指導した。豊田名誉会長も東北大大学院在籍時の47~49年、棚沢教授に師事した。

こうした経緯はセントラルの移転先選定の際も有利に働いた。宮城に決まった理由をあるトヨタ元幹部は「活躍した社員に東北大OBが多く、東北に親しみを感じる土壌が社内にあった」と話す。

<双方鍛えられる>

国内メーカーは、成長とともに研究開発に潤沢な資金を投入した。一方、東北大で自動車分野を得意とする研究者は減り、トヨタとの関係も次第に薄れていったという。

それでもトヨタが東北大との連携を望むのは、次世代車の研究開発をめぐり世界のメーカーとの競争が激化しているためだ。東北大は金属素材や電子制御など次世代車で重要な分野を得意とする。トヨタが東北や、東北大との関係強化に動くのは自然な流れだった。

東北大も「産業界の動向が把握でき、研究方針を決める参考にもなる。一緒に問題点の解決に取り組めば双方が鍛えられる」(内山勝工学研究科長)と連携に期待する。

トヨタの発展を支えた東北大。ハイブリッド車など車が大きく変わろうとする今、日本の基幹産業の興亡を左右する産学連携の営みが東北で再び始まる。

トヨタは東北を「国内第3の拠点」と位置付け、セントラルの宮城県移転などグループ工場の集積を進めている。国内の新たな拠点として東北を選んだ背景を探り、そこから導き出される将来像を展望する。

(自動車産業取材班)=5回続き、11面に特集

◎メモ/東北大とトヨタの共同研究

東北大大学院工学研究科は、トヨタグループの関東自動車工業と、溶接や塗装ラインの効率化などを共同研究している。多元物質科学研究所は2002年、トヨタなどが出資する豊田中央研究所と包括的研究契約を結び、燃料電池や自動車用触媒の開発研究に取り組んでいる。

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