「地球」の農・食・環境問題解決に向けた農学からの要望 平成21年12月 1日 全国農学系学部長会議

http://www.nougaku.jp/buchokaigi/seimei/seimei2009.htm

平成21年12月 1日

内閣総理大臣 鳩山 由紀夫 殿

全国農学系学部長会議

「地球」の農・食・環境問題解決に向けた農学からの要望

平成22年度予算に向けて行われた「事業仕分け」は、限定した範囲内ではあるものの、国民の前で予算要求内容を議論する契機を作った点を大きく評価することはできますが、その結果について多くの問題点を残したことも事実です。全国農学系学部長会議は、以下のような点から、平成22年度予算に対して、農学や環境の立場から要望するものであります。

私たち人類は、「地球」に共生する多くの生命の連鎖の中で生きています。食は私たちの生命の糧であり、農はこれを保障する人類共通の営みです。自然を敬い、感謝し、生命を尊ぶ民族の文化と力の源です。農林水産業が滅びて栄えた国はありません。担い手の高齢化と後継者不足、米の生産調整による耕作放棄地の拡大が、先進国に例を見ない食料自給率の低下を日本にもたらしています。美しい田園とそこに生活する人々を失うことは、この国に息づいてきた文化、伝統や生き方を失うことです。二酸化炭素排出量の増大による人為的な地球温暖化も、農林水産業と直結した人類が直面する最大の問題です。

農学は、こうした諸問題を解決し、健全で力強い農林水産業を再生するための技術開発と人材育成に加えて、政策につながる提言を世に発する責任を負っています。農学の使命は、こうした「地球」の農と食と環境の再生に確たる根拠を与える学術の振興です。世界の持続的食料生産と地球環境保全に資する農林水産関連分野の基礎と応用の研究を進め、その果実を世界に届ける必要があります。しかし、我が国の科学技術政策においては農学がそれに相応しい地位を与えられているとは言えません。

全国農学系学部長会議は、直面する農・食・環境問題の解決に果たすべき農学の役割と社会的責任を認識し、農林水産業の再生による地域社会の活性化及び生物資源の高度利用による新たな生物産業の創成に向けた農学の課題に挑戦します。こうした農学の課題に取り組むために、平成22年度予算に対して、農学や環境の立場から、以下の点を要望いたします。

1) 大学等の高等教育経費はOECD加盟国の中で最低レベルにある。これ以上、大学の運営費交付金等の高等教育予算を削減するのではなく、むしろ増額すべきである。

2) 科学技術政策関連予算や教育関係予算に対して、中長期の視点を欠いた「費用対効果」の議論になりがちな「事業仕分け」は適切ではなく,日本の目指すべき科学技術立国への戦略的計画の立場から関連予算を議論すべきである。

3) 「地球」の農・食・環境の再生に向けて、「世界的な視野で考え,地域に根ざして活動できる」人材を育成することが急務である。このため、アジアをはじめとする海外の大学や研究機関との連携を強め、留学生教育に積極的に取り組むための予算増額を強く要望する。

4) さらに、農学教育研究の振興や次世代のリーダー育成に向けた以下の農学関連課題に対して、予算増額を強く要望する。
○ 食料増産につながる技術革新と農耕地の新たな利用法の開発
○ 生物多様性の確保と生物資源に内在する生命力の活用技術の開発
○ 食品の安全性確保に向けた技術開発と食育による食・健康知識の普及
○ 高付加価値商品を生産・流通する新規生物産業の創成に向けた技術開発
○ 地域に蓄積された隠れた知識(暗黙知)の発掘と活用のネットワーク作り・人材育成
○ 農・食・環境問題を総合的に解決するための他の学術領域との連携・協同

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