科学技術予算―国の基盤、ゆえに精査を 『朝日新聞』社説 2009年11月27日付

『朝日新聞』社説 2009年11月27日付

科学技術予算―国の基盤、ゆえに精査を

科学技術の予算が、いつになく世間の目を集めている。 

行政刷新会議の「事業仕分け」によって、関係予算が軒並み減らされたり廃止されたりし、科学界から一斉に悲鳴や反発の声が上がったからだ。ノーベル賞受賞者たちがずらりと並んで声明を発表する異例の一幕もあった。 

この分野の予算は、日本の将来にとって重要との位置づけから、緊縮財政の下でも例外的に伸びてきた。 

ところが一転、厳しい財政状況を反映して来年度予算では27年ぶりにマイナスに転じることが確実なうえ、「聖域」なしの削減もつきつけられた。 

科学界が危機感を抱く背景には、欧米やアジア諸国が予算を増やして科学技術の競争力を高めようとしていることや、基礎研究や人材育成の場である大学がすでに、予算の削減でその力が弱ってきていることがある。 

予算をいかに効果的に使って、日本の力を伸ばしていくか、改めて知恵を絞るべきときだ。 

今回の仕分けは、あまりに一方的との批判も強いが、意味もあった。一つは、予算を求める側には本来、その必要性をきちんと説明する責任があると示したことだ。 

また、いったん始まったらまず見直されることのなかった既存の計画にも大胆に切り込んだこともある。 

たとえば、宇宙開発委員会で経済性や将来性に厳しい指摘が出たのに、自民党の一部議員の主張で続いていたGXロケットを「見送り」とした。 

国立大学の法人化の是非が問われ、各省ばらばらの研究費の配分態勢にも注文がついた。もっともな指摘だ。 

一方で、感染症研究の国際ネットワークや、ウイルスなどの実験材料のバンクなど、地味だが継続が大切な分野への目配りを欠いた仕分けもある。

今後の本格的な予算案づくりは、仕分け作業での指摘も生かしつつ、何より長期的な視点で進める必要がある。 

日本の強みを生かし、人々に恩恵をもたらす科学技術を発展させるには、どこに力を入れるのか、どう人材を育てていくのか。鳩山内閣は専門家の意見をしっかり聞き、さすが理系政権といわれるような構想を練ってほしい。 

大型の計画では不断の検証も欠かせない。今回、次世代スーパーコンピューターは「見直し」とされた。スパコンが重要なことは間違いないが、一部の参加企業が撤退したのに当初の計画のままでよいのか、などが問われた。 

82年から約10年続いた第五世代コンピューター計画の失敗について内閣府の研究所が検証結果をまとめたのは、なんと昨年のことだ。計画の遂行には常に柔軟な見直しが欠かせない。 

必要なところに必要な資金を投じる。国民が納得できる、そんな科学技術支援策を探りたい。

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