教員養成6年制―まず教職大学院の拡充を 『朝日新聞』社説 2009年10月27日付

『朝日新聞』社説 2009年10月27日付

教員養成6年制―まず教職大学院の拡充を

先生の力量をどう向上させるか。これからの学校に求められる先生像とは何か。鳩山政権の教育施策の柱の一つ「教員改革」議論が動き出した。 

文部科学省は、小中高などの教員養成期間を6年に延ばし、大学院で修士課程をおさめることを条件とする制度の検討を始めた。教育実習にも1年をかけるという。自公政権下で今春から導入されたものの、効果が疑問視されていた教員免許更新制は、来年度限りで廃止する方針だ。 

先生に降りかかる問題は複雑化し、必要な知識や技量は高度になっている。専門性と実践力を兼ね備えた修士の先生を増やすことには賛成したい。ただ一足飛びに教員免許の要件とするには課題が多すぎないか。 

免許取得に6年もかかると、教員志望者が減る恐れがある。大学院まで出ても採用されるかどうかわからないからだ。学費も重荷になるだろう。 

6年間続けて理論を深めるだけでは、すぐに現場で役立つとは限らない。実践力をつけるために実習に1年もかけられれば理想的だが、受け入れる現場の負担は並大抵ではない。 

まずは大卒で免許を取って現場へ出て、何年か経験を積んだのち、また大学院で学ばせるような制度の方が現実的であり、効果的かも知れない。

昨年から、授業づくりや学校運営のリーダーを育てる場として「教職大学院」が始まった。大学新卒者が進んだり、希望する現職教員が休職して通ったりしている。全国に24校、院生はまだ1300人足らずだ。 

この教職大学院の拡充から始めてみてはどうか。修了者の採用や待遇、現職教員の入学については各教育委員会が配慮する。奨学金を用意する、といった支援策も必要になろう。 

学校現場では「やる気の20代、行動力の30代、企画力の40代、まとめ役の50代」という。経験年数に応じて課題も変わる。教員養成は採用や研修のあり方とも一体で考えたい。社会人経験者をはじめ多彩な先生を学校に引き寄せる工夫もしてほしい。 

同時に、教える環境の充実も議論するべきだろう。 

現役の先生たちからは、日々雑務に追われる嘆きが聞こえる。そのゆとりのなさが指導力低下につながっている面もある。大学院に入ることを含め、先生たちが勉強する余裕を持つためにも教員の数を増やす必要がある。 

不適格教師排除の議論から始まった免許更新制のように、先生の尻をたたくだけでは教育の質は高まらない。せっかく指導力をつけても、現場に余裕や裁量の余地がなければ生かせない。 

情熱を持った優秀な若者が先生をめざして競う。子どもとともに先生も、のびのびと学び、教えられる。そんな改革を目指したい。

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