先端研究助成 科学技術を政争の具にするな 『読売新聞』社説 2009年9月6日付

『読売新聞』社説 2009年9月6日付

先端研究助成 科学技術を政争の具にするな

科学技術は、日進月歩だ。先端分野ではなおさらで、激しい国際競争に勝つには、立ち止まっている間はない。

政府の総合科学技術会議が、総額2700億円の「先端研究助成基金」を配分する研究者30人を決めた。研究開発に速やかに着手できるよう、政府は手続きを急ぐべきだ。

この基金は今年度の補正予算で創設された。厳しい経済状況の下で、未来の成長の種、日本の科学技術力を底上げする原動力、となる研究開発を後押しする。

1人の研究者に3~5年で30億~150億円と、かつてない巨額研究費を投じる点が特長だ。従来は最高でも、一つの研究テーマに年間3億円程度だった。

30人のリストには、日本を代表する科学者がずらり並ぶ。

例えば、京都大学の山中伸弥教授は、病気などで傷んだ組織や臓器を再生させる次世代の医療の主役と目される「iPS細胞」(新型万能細胞)を作った。助成金でまだ基礎レベルにあるiPS細胞の技術を、一気に、実用化の一歩手前まで近づけるという。

ノーベル化学賞受賞者の田中耕一さん(島津製作所)も、リストに入った。新たな化学分析装置の開発に挑む。がんの早期発見、アルツハイマー病の早期診断などに役立てることを目標に掲げる。

純然たる基礎研究もある。宇宙分野で、従来の観測では捉(とら)えることができない「暗黒物質」の正体を解明する研究などだ。

研究開発では思い通り成果が出ないことが多々ある。だが、厳しい財政状況下の助成金だ。選ばれた研究者は、期待に応えるべく全力をあげてもらいたい。

政府も、予算の適切な利用や研究の進捗(しんちょく)に、しっかり目配りする必要がある。特に今回は、新たな試みとして、経費の使途などで自由度を広げている。その効果を含め、事後の評価が大切だ。

ひとつ心配なのは、民主党から政権交代直前の研究者選定に異論が出ていることだ。同党は「凍結もあり得る」と言う。

だが、国会審議で民主党も賛成して創設された制度のはずだ。その上、このまま事務手続きを進めても、予算支出は早くて11月末となる。遅いくらいだ。

日本の未来が科学技術力に立脚するしかないことに、与野党で異論はないはずだ。しかも民主党の鳩山代表は、戦後初の理系出身の首相となる。制度の微修正はあるかもしれないが、科学技術を政争の具とすることは戒めたい。

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