《市場化テスト導入阻止情報》No.1=2010年2月14日

国立大学における公共サービスの改革と称して今、何が進められているのか

     国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

1月19日、内閣府官民競争入札等監理委員会(以下、監理委員会)事務局と内閣府公共サービス改革推進室(以下、推進室)は、それぞれの参事官の連名で各国立大学の財務担当理事あてに直接、「国立大学法人における公共サービスの改革状況に関する調査について」という依頼文書(資料1−1)を送付し、2月19日までに調査票に回答するよう求めている。調査内容は、施設管理運営業務の委託状況、図書館業務の委託状況、就職支援、キャリア支援に関する業務について、リメディアル教育(高等学校課程の補修教育に限る)について、となっている。同時に、監理委員会国立大学法人分科会は首都圏の7大学に対して意見聴取を現在実施している。この公共サービス改革と称する一連の策動は、国立大学に市場化テストの名のもと、包括的な民間委託を導入しようとするものであり、国立大学の運営そのものを根本から覆し、大学解体をもたらしかねない。

現在文部科学省において進められている国立大学法人の在り方の検証作業とならんで、第2期中期目標期間を控えた国立大学をめぐる状況は今や重大な局面を迎えている。そこで本事務局は市場化テスト導入阻止のために《市場化テスト導入阻止情報》を発行する。

1.出発点は小泉構造改革

2006年、当時の小泉内閣は構造改革推進の法制的保証として、2つの重大な法律を制定した。1つは行政改革推進法(『簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律』)
http://www.gyoukaku.go.jp/siryou/souron/pdf/0602_houritsu.pdf
であり、もう1つは市場化テスト法(公共サービス改革法)(『競争の導入による公共サービスの改革に関する法律』)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18HO051.html
である。行政改革推進法は行政改革推進本部、市場化テスト法は官民競争入札等監理委員会を設置し、それらの組織が強権的に行政改革を進める組織的保証を与えている。両法とも国立大学法人も対象とすることを条文中に明記している。

本事務局は、2006年3月5日に「行政改革推進法と結合して国立大学を解体へと導く市場化テスト法」との声明を発表し、法案の危険性を訴えた(《『行革推進法案』関連情報》No.13)。今、その危険性が現実のものとなろうとしている。
http://www.shutoken-net.jp/2006/03/060306_9jimukyoku.html

2.民主党政権下で急展開

市場化テスト法成立後2年を経た2008年7月28日に監理委員会の国立大学法人分科会は第1回会議を開き、国立大学法人に関する検討を開始した。
http://www5.cao.go.jp/koukyo/kanmin/kokudai/kokudai.html

その後、2009年7月10日に「平成21年度公共サービス改革基本方針」が麻生首相の下で閣議決定され、「国立大学法人については独立行政法人制度と別途の制度を創設した趣旨を踏まえ、業務の特性に配慮しつつ、経営効率化の観点から、既に他の国の行政機関等において官民競争入札等の対象とされ、質の維持向上及び経費の削減が期待される施設の管理・運営業務、内部管理業務、試験実施業務、医業未収金の徴収業務等について、官民競争入札等を含む民間活用の一層の推進を検討する。」とされている。
http://www5.cao.go.jp/koukyo/kihon/kihon.html

小泉構造改革への広範な批判を背景に政権交代をなしえたはずの民主党政権は、しかしながら市場化テストについては前政権の路線をそのまま引き継ぎ、何の批判的検討も行わないばかりか、むしろ加速させている。2009年12月10日 第55回監理委員会で仙石特命担当大臣は「公共サービスの見直しの進め方」という資料を配布し、11項目の指示を行った。
http://www5.cao.go.jp/koukyo/kanmin/kanmin.html

国立大学に対しては、[市場化テストの導入により効果が見込まれる分野]として「国立大学法人施設の管理運営」、[官と民の仕分けが十分できていない分野]として「国立大学法人の事務」を見直し対象とした。こうして、冒頭述べたように、1月19日、監理委員会事務局と推進室は連名で各国立大学に依頼文書を送付し、2月19日までに調査票を回答するように求めてきたのである。しかも同文書は、文科省も各大学長も経由せず、直接財務担当理事あてに送りつけられている。

3.今後の展開

監理委員会国立大学法人分科会は以下のスケジュールで首都圏7大学から「経営改善の取組状況及び施設管理運営業務、図書館運営業務の現状と課題について」意見聴取を現在実施中である。
http://www5.cao.go.jp/koukyo/kanmin/kokudai/kokudai.html
2月2日  14時〜15時 東京学芸大学
     15時半〜16時半 一橋大学
2月10日  14時半〜15時半 お茶の水女子大学
     15時半〜16時半 東京医科歯科大学
2月15日  14時半〜15時半 東京大学
     16時〜17時 東京工業大学
2月24日  14時〜15時 政策研究大学院大学

推進室は全国立大学における調査結果をとりまとめ、監理委員会による意見聴取を踏まえて3月中に内閣府HPに掲載し、さらに6月までに監理委員会は改革対象事業の選定と公共サービス改革基本方針をとりまとめるとしている。

4.暴走する内閣府の異様かつ不当な手法

市場化テストや民間委託については、法制定後の実態に基づいて全面的批判を行う予定であるが、ここでは暴走する内閣府の異様かつ不当な手法について指摘しておく。

第1に、1月19日依頼文書で“「国立大学法人が経営改革を進める中で経費節減による教育研究活動の充実を図る」ことに資するとの観点”を述べている。これは、“教育研究活動の充実のために経費削減を行うのだ”と言っているのに等しく、麻生内閣時代に制定された「平成21年度公共サービス改革基本方針」がいう“経営効率化の観点”さえも逆転させたきわめて乱暴な論理である。

第2に、運営費交付金削減下でやむを得ず行っている現在の民間委託と市場化テストならびに包括的複数年度民間委託とは質的に異なっている。にもかかわらず、調査票回答や意見聴取を通じて「まだ民間委託できるところがあるではないか」と迫りつつ、市場化テストならびに包括的複数年度民間委託という終着点に誘導するトリッキーな手法が採られている。

第3に、施設管理運営業務も図書館業務も大学における教育研究活動と切っても切れない不可分の関係にある。ところが内閣府は大学全体の問題から切り離し、サービスを受ける大学構成員からの意見聴取さえ行っていない。これは、市場化テスト法(公共サービス改革法)が第1条で“公共サービスの質の維持向上”を目的の一つとして最初に掲げながら、それはお題目に過ぎず、“経費の削減”が主目的であることによっている。

第4に、2でも述べたように、1月19日依頼文書は、各大学長を経由せず、直接財務担当理事あてに送りつけられている。これはアンケートの依頼を装った「事務連絡」の体裁をとっているものの、各国立大学の内部への直接の指揮であり、官であれ民であれ独立した組織間関係の原則を著しくかつ横暴に踏みにじるものである。行政改革推進法も市場化テスト法も国立大学法人を対象としているが、それは行政改革推進本部や監理委員会が、あるいはそれらを統括する内閣府が一理事を組織の長たる学長の承認なしに指揮できることを意味する訳では決してない。もしそのような指揮が許されるなら独裁国家である。以上のように内閣府が行っていることはほとんど暴走と呼ぶに相応しく、しかも独裁国家においてのみ可能となる手法であることを厳しく指摘しておく。

以上