新首都圏ネットワーク
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《『行革推進法案』関連情報》No.13=2006年3月5日

 本事務局は、3月1日開催の国大協総会に対して以下の文書を資料として提
出したので紹介する。

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   行政改革推進法と結合して国立大学を解体へと導く市場化テスト法

          2006年3月1日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク

小泉改革の総仕上げを遂行する法案として『競争の導入による公共サービスの改革に関する法律案』(以下、「市場化テスト法案」と略す)が既に2月10日国会に提出されている(本情報No.10参照)。3月10日閣議決定後国会に提出される行政改革推進法案(仮称)が人件費削減によって公的領域の縮減を強要するのに対して、市場化テスト法案は公的領域の一部に市場化を強制するものである。国立大学法人も実は市場化テスト法の対象である。もし適用されるならば、教育研究現場が利潤追求のための市場化テスト対象として蚕食され、業務の一体性が破壊されることは必至であろう。それは、教育・研究・診療等が教員・職員の協働によって一体的かつ相補的に進められているという大学の在り方そのものを解体し、転覆することへと繋がる。今こそ国立大学は一致してこの市場化テスト法に反対し、国立大学への適用を阻止しなければならないと考える。

1.市場化テスト法案の概要
全56条に及ぶ法案の概要は以下の通りである。
(1)趣旨(第1条関係)
国の行政機関等又は地方公共団体等が自ら実施する公共サービスに関し、その実施を民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から、これを見直し、民間事業者の創意と工夫が反映されることが期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札を付すことにより、公共サービスの質の向上及び経費の削減を図る改革を実施するため
(2)対象(第2条関係)
国の行政機関等=国の行政機関、独法、国立大学法人、大学共同利用機関法人、特殊法人
(3)国の行政機関等の責務(第4条関係)
公共サービスに関して見直しを行い、官民競争入札若しくは民間競争入札又は廃止の対象とする公共サービスを適切に選定するほか、国の行政機関等の関与その他の規制を必要最小限のものとすることにより、民間事業者の創意と工夫がその実施する公共サービスに適切に反映されるよう措置するとともに、当該公共サービスの適正かつ確実な実施を確保するために必要かつ適切な監督を行わなければならない
(4)官民競争入札等監理委員会等
・透明性、中立性及び公正性を確保するため、内閣府に置く
・国の行政機関等の長等に対し、必要な勧告をすることができる
・3年任期、非常勤、13名以内、内閣総理大臣任命

2.市場化テスト法案の危険な本質
(1)行政改革推進法とは相補的な関係にある
 行革推進法案が基本理念として「1.政府が実施する必要性の減少した事務及び事業を可能な限り民間にゆだねて民間の領域を拡大すること 2.行政機構の整理及び合理化等により、効率性を高めつつ、経費を抑制して国民負担の上昇を抑えること」(概要)を掲げていることに対応して、市場化サービス法案では、その趣旨を「国の行政機関等又は地方公共団体等が自ら実施する公共サービスに関し、その実施を民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から、これを見直し、民間事業者の創意と工夫が反映されることが期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札を付すことにより、公共サービスの質の向上及び経費の削減を図る改革を実施するため」(第1条)としている。両法は相補いながら、人件費削減を梃子とした公共サービスの解体とその市場化を目指しているのである。
(2)実施方法として政府の強権的指揮を明記している
市場化テスト法は、第4条で国立大学法人を含む国の行政機関等の責務を強要した上で、内閣総理大臣に「国の行政機関等の長と協議して公共サービス改革基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない」(第7条1項)とし、2項以下でその基本方針の内容を細かく規定している。そして、この基本方針の案の策定から公共サービス改革実施の全過程を監理する組織として、強大な権限を持った官民競争入札等監理委員会が内閣総理大臣の任命で設置されるのである(第37条)。
一方、行政改革推進法案でも「行政改革を総合的かつ集中的に推進するために、内閣に、行政改革推進本部(仮称)を置く」(概要)とされ、その所掌事務は「調整」と「監視」となっている。この行政改革推進本部の本部長は内閣総理大臣であり、5年間の時限ではあるが政府が直接指揮することが法案で明記されることとなろう。
(3)国立大学法人を含む国の行政機関等の組織の一部を丸ごと解体し、民間に移行させることが可能となる
「民間事業者の創意と工夫が反映されることが期待される一体の業務を選定して官民競争入札又は民間競争入札を付す」(第1条)ということは、"一体の業務"を担う組織を解体することを意味する。同法第31条ではこれに対処するために、退職手当法の特例措置を設けている。だがこれは任命権者が停止あるいは解体された組織の職員を退職させて民間に異動させることを容易にするために挿入されたと見るべきであろう。「任命権者又はその委任を受けた者の要請に応じ」という第31条の文言はそのことを強く示唆する。だが、一度停止・解体された組織に復帰できる保証はない。

3.市場化テスト法先行実施としての「指定管理者制度」
2003年地方自治法が、「改正」され、同法244条の施設の管理が株式会社を含む指定管理者制度に変更された。これは地方自治体における市場化テスト法先行実施である。指定管理者制度は直ちに長崎歴史文化博物館に適用され民間業者が指定管理者となっている(資料1)。こうした文化芸術の分野への「市場化テスト」適用の動きに対しては多くの文化人・研究者が反対の声をあげている(資料2)が、上記のように国立大学法人が市場化テスト法案の対象として明記されている(第2条)。同法に反対し、その国立大学法人適用を阻止することは緊急の課題である。


資料1 日本学術会議ニュース・メール** No.9 ** 2005/12/28

■ 学術・芸術資料保全体制検討委員会の設置(報告)

12月22日の第6回幹事会において、課題別委員会として「学術・芸術資料保全体制検討委員会」の設置が提案され、以下のとおり承認されました。
(1)提案者:略
(2)委員会設置の必要性・期待される効果等
日本における「学術・芸術資料」(文化財を含む、以下同)は、その重要性に応じて、国や地方公共団体による保護(文化財としての指定など)や公的機関施設における収集・保存・管理・公開が図られてきた。すなわち、教育委員会、図書館、博物館(美術館などを含む)、公文書館において専門職員(図書館司書、学芸員など)が資料に関する管理業務(保護、保存・研究・活用)を行っている。学術・芸術資料の管理業務を公的機関施設が対象別に保障する制度は、現行制度に問題は含みつつも、我が国の文化行政の見識といっていい。しかし現在、この見識はその足許で崩れかけている。
2003 年、国は改革路線の一貫として、地方自治体による公の施設の管理運営に、自治体の判断によって民間業者からNPO までの参加を認めさせる法改正を行った(指定管理者制度 地方自
治法244 条の2 平成15 年法律第81 号)。対象施設には図書館、博物館、公文書館が含まれており、これにより自治体によっては専門職員まで民間に委託するところが現れた(2005 年11 月3 日開館の長崎歴史文化博物
館(長崎県と長崎市が合同で建設)では民間の業者が指定管理者となり学芸員をも採用)。効率化で改善される部分も多いが、実物資料の管理をも改革の潮流に放すことは、あまりに無謀である。安易な民営化で、学術・芸術の礎である無二の実物を将来にわたって守ることができるのだろうか。
国レベルでも、2005 年11 月14 日に総務省政策評価・独立行政法人評価委員会より文部科学大臣に、所管の5法人(国立特殊教育総合研究所、国立国語研究所、国立美術館、国立博物館、文化財研究所)の事務・業務改廃について勧告の方向性が示された。これに先立ち平山郁夫・高階秀爾氏ら文化関係者が同大臣にあて「効率性追求による文化芸術の衰退を危惧する」とのアピールを提出、その危険性に警鐘を鳴らしたことは記憶に新しい。
公的施設の運営及び民間委託が、その収益性向上と効率的活用を重視するあまり、人間文化の継承と創造に等しく役割を果たすはずの基礎的文化資源や管理業務を切り捨てさせ、それ本来の社会的役割を見失わせつつある事実を指摘したい。例えば、学術文化図書よりベストセラー本の大量購入(図書館)、見た目の豪華な文物への偏重(博物館)、地元作家より中央ないし国際的人気作家への傾斜(美術館)などである。効率化優先の圧力は、学術研究の世界、市民レベルの文化活動の世界、広く教育の世界などに影響を及ぼしつつあり、早急にしかるべき手を打つ必要がある。もとより、現況下において文化行政の改革、民活導入を否定するものではないが、学術・芸術資料の根幹にかかわる問題に限り、その導入に当たっては、方法・政策・対象について専門家や関係者による議論が尽くされるべきである。有効な提言のできる場は日本学術会議をおいてない。

資料2 「効率性追求による文化芸術の衰退を危惧する」