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《『行革推進法案』関連情報》No.12=2006年3月3日

【議事録耽読】国立大学法人法案審議(衆議院、参議院 2003年)

文部科学省が閣議決定に基づいて中期目標・中期計画の変更原案・変更案を各国立
大学法人に示す脱法行為を、大学人と国会議員は黙過してはならない

2006年3月3日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局 評論員βω

はじめに

文部科学省高等教育局国立大学法人支援課は2月2日、社団法人国立大学協会と各国立大学法人代表者・事務担当責任者に対し、「総人件費改革の実行計画に関する情報提供について」と称する文書を送付した[1]。同文書は、「行政改革の重要方針」(平成17年12月24日閣議決定)にしたがって、各法人から「中期目標の変更原案」及び「中期計画の変更案」を、3月開催予定の国立大学法人評価委員会総会に間に合うように提出することを求め(文書上は「3月上旬に開催予定の国立大学法人評価委員会総会の意見を聴くことが考えられます」と表現されている)、中期目標・中期計画の変更原案・変更案まで「参考例」として例示している(文書上は「検討に資するための例を示されたいとのご要望もあることから、ご参考としてお示しすれば次のようなものが考えられます。」と表現されている)。

文科省のこのような措置はしかし、国立大学法人法案の国会審議に照らせば重大な脱法行為に他ならない。加えて、国会における文部科学大臣、副大臣、大臣官房総括審議官や高等教育局長などの政府参考人自らの言明にも反する。

論点は以下の3点である。

(1)文部科学省の、各国立大学法人の定員管理への関与の適否
(2)文部科学省の、各国立大学法人の中期目標原案と中期計画案の策定への関与の適否
(3)文部科学省の、各国立大学法人の組織運営への閣議決定を根拠にした関与の適否

これらの論点について、2003年の国立大学法人法案の国会審議を会議録にしたがって解答を導くことにする。なお、国会における国立大学法人をめぐる質疑は法人法案審議に限定されないが、法案に基づいて法人法制度自体を審議の対象としたこの期間の会議録のみを分析の対象とする。

以下では、「国会会議録検索システム」[2]から質疑を引用する。発言者の肩書きはいずれも当時のものである。引用者の判断により、適宜、赤文字に傍線を加えている。


(1)文部科学省の、各国立大学法人の定員管理への関与の適否

参議院における以下の質疑はこの問いへの答えとして十分である。

参議院文教科学委員会2003年7月1日

○畑野君枝君 (略)
 そこで伺いますけれども、この定数の問題でございます。職員定数の問題です。
 伺う前にちょっと確認しておきたいんですけれども、国立大学法人化というふうになっていくと国家公務員の
定数管理から外れるということになりますよね。定員削減計画の対象ではなくなるのではないかと思います
が、
文部科学省が各大学法人に対して教職員数を増やせとか減らせとか、こういう指示もなくなるわけです
ね。
ちょっと確認させてください。
○政府参考人(遠藤純一郎君) 
御指摘のように、基本的には定員管理ということはしないということでご
ざいます。

○畑野君枝君 そうすると、増やせとか減らせとかいうことももちろん言わないということですね。
○政府参考人(遠藤純一郎君) 大学の方からこういう学科を作りたいから定員を増やしてというようなこ
とでの、そのための運営交付金を措置をしてということでのことはあろうと思いますけれども、いわゆる

までのようなことはないというように思います。


法人化によって国立大学法人が定員管理の対象にはならない、と述べているのは政府参考人だけではない。

衆議院文部科学委員会2003年5月14日

○鎌田委員 (略)
 それで、具体に質問していきますけれども、大学における学術研究、これは研究者個人、その研究者個人
のまず常識に疑問を抱くところ、それから独創的な発想、そして果敢なチャレンジャー精神、そういうとこ
ろから始まっていくんだ、第一歩はそこから始まるんだという認識は持っていただけますでしょうか。
○遠藤政府参考人 大学の研究の基本だと思います。
○鎌田委員 それが基本だというふうに今文科省の方でお認めになりましたけれども、それが基本だとする
と、先ほど来、中期目標、中期計画を大臣が策定するという文言に皆様どうしても気持ちが行きますけれど
も、そういうものが学術研究だということに対して、そもそも、中期目標を立てて、中期計画を立てて、そ
してそれがそのとおりいっているか毎年評価をされていくというそのシステム自体が、私は、果たして大学
における学術研究、教育というものになじむのかどうかということ、そこのところを非常に強く疑問を持っ
ております。
 ぜひ大臣、いや、なじむんですよ、あるいはなじんでいくんですよでも結構ですけれども、その疑問を払
拭するだけの御説明をいただけますでしょうか。
○遠山国務大臣 この問題につきましては、これまでの御質問に対してもるるお答えをしてまいりました。
 今回の改正の大きな理念といいますものは、日本の大学、その骨格部分でもあります国立大学について、
教育研究というものをより活性化していただく。そのためには、これは長い間の議論の末法人化というよう
なことを、委員御自身も、長い間、そういうものが大学にとってはむしろ適していて、そして
国の行政組織の
一つであるという存在から法人という独立性を持った組織形態にしていくことでより活性化される
という信
念のもとにやっているわけでございます。
 同時に、国立大学として存続するということでございましたならば、これは、国がしっかりと財政措置を
しなくてはならない。その財政措置をする際において、国として、各大学が原案をつくってくる、そうした目
標というものを前提とし、これを十分尊重し、配慮をしながら、それを一緒に考え、そして定めていく。そ
れについては、国としては責任を持って対応していく、そういう関係になるわけでございます。
 各大学が原案をつくる際に、そこにおいて、私は、濶達な議論が各大学においてなされ、原案が作成され
てくるものだと思います。そして、
一たんその目標というものが定められた後は、六年間という長い間、こ
れは、各大学がその目標に向かって真剣に教育研究あるいは大学運営というものをされていくわけでござい
まして、そのことに目を注げば、これまで毎年毎年、予算要求の際に細々としたところまで要求をし、そし
て費目間の流用もできず、あるいは定員管理についてもさまざまな制約のあった事柄から比べれば、私は、
これは、大学が本当に自主性を発揮して、そして国民の期待にこたえていく、それにふさわしい制度になる
と思います。

 それぞれの大学の取り組みというものがこれから問われてくるわけでございますけれども、私は、新しい
制度をつくる際に、さまざまな角度からの御議論というものはもちろん重要だと思いますけれども、そこで
何をねらっているのか、そのねらっていることが本当にそれで達成できるのかという角度から真剣な検討を
経てつくるというのが新しい制度だと考えておりまして、その意味で、私どもとしましては、今回の提案い
たしました法案というものは、十分な検討を私どもとしてはして、そして御提案を申し上げている考えでご
ざいます。


遠山大臣自らが、法人化によって国の行政組織から独立性を持った組織形態になることを通じて、定員管理から解放されると述べているのである。

同趣旨の、河村副大臣の答弁は紙幅上、割愛する[3]。

文部科学省は法人化後、国立大学法人の定員管理に関与しないと述べたのが、国立大学法人法案の審議の際に表明した姿勢だった。


(2)文部科学省の、各国立大学法人の中期目標原案と中期計画案の策定への関与の適否

政府答弁は美辞に満ちている。

参議院本会議2003年5月23日

○国務大臣(遠山敦子君) (略)
 初めに、中期目標についてのお尋ねでありますが、
国立大学の法人化は、国の財政措置を前提としつつ、
日常的な規制を撤廃し、各大学の裁量を大幅に拡大し、大学の活性化を図るものであります。

 このように、大学の裁量を拡大する中で、国が財政措置等の面で責任ある対応をするためには、中期目標な
ど運営の基本方針に限定して一定の関与が必要であります。その際、
中期目標は、大臣が一方的に定めるの
ではなく、あらかじめ大学の意見を聴いて、それに配慮することなどを規定することにより、大学の自主性、
自律性を十分担保する内容となっております。

 次に、中期計画についてのお尋ねでありますが、中期計画は中期目標の実現を図るために各大学の責任で
作成されるものでありますが、その実施を確実なものとするため、財政措置の責務を負う文部科学大臣の認
可を受けることとしたものであります。また、
中期計画の変更命令は、予測し難い事情の変化など真にやむ
を得ない場合にのみ行われるものでありまして、大学の自主性、自律性を損なうことはないと考えておりま
す。
(略)


遠山大臣は、大学の意見を聴き、配慮して自主性、自律性を十分担保した中期目標を策定する、と述べた。また中期計画の変更命令は「予測し難い事情の変化」など真にやむをえない場合にのみ行われる、と述べた。

参議院文教科学委員会2003年5月29日

○国務大臣(遠山敦子君) 今のことは先ほどの経緯をじっくりお聞きいただければ十分回答になっている
わけでございますけれども、大きな国の方針の中で、民営化か独立行政法人化かという中で、独立行政法人の
大きな傘の下で国立大学法人という独自性を持った法人を作ろうということでできているわけでございまし
て、国立大学が、国の意思で設置をし国費を投入するというところから、一番その骨格となる部分の決定者
は、決定者自体は文部科学大臣となっておりますが、三十条の中に、正にお触れになりました三十条の中に、
それは
中期目標を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、国立大学法人の意見を聴き、当
該意見に配慮するとともに評価委員会の意見を聴かなければならない。評価委員会につきましては先ほど言
いましたように実質、そうですね、行政組織としての公務員がやるということではないわけですし、それか
ら、国立大学法人の意見を聴き、あるいは尊重しということでございますから、実際的には私は大学が定め
る、あるいは大学の原案というものをベースにして決めていくわけでございまして、大学ないし大学法人の
意図というものが生かされていくわけでございます。

 
私の今言っております実際的にはというところを是非とも将来にわたって記録に残しておいていただきた
いと思うわけでございます。

 しかも、この法人法の、国立大学法人法の第三条におきまして、これは他の法律にはないわけで、独法に
は、他の独立行政法人関連の法律には絶対ない条文でございますが、国は、この法律の適用に当たっては、国
立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならないという大前提の下、三
条でございます、書いてあるわけでございまして、私は今御懸念の点は当たらないというふうに思います。
○鈴木寛君 実際的にとおっしゃるんだったらそのとおり書けばいいということを私は申し上げているんで
すよ。法律を作るというのはそういうことですよね。要するに、これ未来永劫この条文をその時々の当事者
が参照をして、よりその法文に忠実に大学行政をやっていこう、あるいは国立大学を運営をやっていこうと。
そのときに一番立ち返るところが法文でありますから、そうすると法文をきちっと直せばいいわけでありまし
て、法文が残るんですから。それを答弁でどうのこうのと言う、おっしゃるんだったら、真意がそこにある
んだったらそのとおり書いたらいいんじゃないですかということを私は申し上げているわけでございます。
 ちょっと確認をしたいんですけれども、これ、独法というのは元々国が中期目標を作って、そしてその独
法が中期計画を作って認可すると、こういうスキームになっていますね。一点確認したいんですが、独法が
そうだから国立大学法人をそうしたのではないですよね。要するに、国立大学法人というものの、独法がど
うであれ、そのこととは全く切り離して今回の国立大学法人法の策定に当たって国が目標を作り、そして計
画を認可するというフレームワークがやっぱり正しいと、これは独法の議論に引っ張られたものではないと
いうことだけちょっと確認させてください。
○政府参考人(遠藤純一郎君) 先ほど来から大臣が御答弁申し上げておりますように、
大学改革の一環と
して検討され
、こういう国立大学法人の制度ができたと。委員も御指摘のように、大学を法人化し、自由な
裁量に基づきまして自主性、そして教育研究を大いに伸ばしていきたい
と、こういうことでございまして、
その際に独法、これは御案内のように国が必要な事務事業を、効率化という観点も入りますけれども、きち
んと財政措置をしながら法人化をすると、こういうスキームでございますので、そのスキームを活用しなが
ら、これも御答弁何度も申し上げておりますように、大学という特性、この特性に配慮してその特性が生か
されるようにということでございまして、したがいまして、法人化をし、国が財政措置をする、しかしやは
り財政措置をする以上国が責任は持たなくちゃならない。
 その接点をどうするかという際に、
目標、計画という、やっぱりそのスキームというのは目標、計画があ
り、それで事後的な評価と。そのスキームというのは、基本的にはよろしいけれども、ただそのままではやは
り大学にとってふさわしくないと、こういうことで目標について条文に書いてございますように大学から出
していただいて、それを配慮するという形、そしてこれを実現するためには財政措置、したがいまして、そ
の計画、中期計画に沿ってこれを実現するわけでございますから、そういう意味でやはりそれを認可という
形にさせていただいた
と、こういうことでございまして、そして全般的に大学に配慮、特性に配慮しなけれ
ばいけないという三条を設けさせていただいたと、こんなような形になると思います。


遠藤参考人は、国立大学の法人化は大学改革の一環として大学の自由な裁量に基づいて自主性と教育研究を伸ばすために、スキームとして、目標、計画と事後的な評価を導入する、と述べた。大学が目標を実現するために大学が出す案文に配慮し、財政措置を施すと述べていたのである。

参議院文教科学委員会2003年6月5日

○国務大臣(遠山敦子君) (略)
 それから、国立大学法人の意見、原案を事前にちゃんと聴取しなさいと法律上書いてあるわけですね。
さらには、国立大学法人の意見、原案へ十分配慮しなさい。これだけのことを条件にした上で、しかし国
のお金を投入する。したがって、その中期目標を大学の原案の上に評価委員会の意見も聴いて、様々
なことを配慮した上で決めるということは、文部科学大臣といいますか、国が責任を持ってその機関にお
ける財政措置をするということなんですね。むしろ、責任を取るということであるわけでございます。
 しかも、先ほどのような幾つかの配慮すべき事項があるということは、その中期目標の実際上の作成
主体といいますものは、言わば国立大学法人とも解されるわけですね。原案を作り、それに配慮しよう、
全体の教育研究の質を、特質をちゃんと踏まえろということでございますから、それは国立大学とも、国
立大学法人が実際上作成主体になるとも解されるものでありますけれども、他方、高等教育全体の在り
方あるいは財政上の観点などから文部科学大臣もかかわって、両者が十分に意思疎通を図りながら
協力をして中期目標を形成していくわけでございます。
 これは、例えばそれぞれの大学がどうぞお定めなさいといって、仮にその決定という権限を文部科学
大臣が負うことでなければ、それぞれの大学が、例えば巨大な研究施設を作りたいと言ってくる、ある
いは大きな移転事業をやりたい、そのようなことを認めるということは、それは国が責任を負えないとい
うことになるわけですね。
 そういうことではなくて、
大きな枠組みとして、国の財政上の観点からあるいは高等教育全体の在り
方から、それは一つの大学でやるのがいいのか、あるいはいろんな大学が共同してやるのがいいのか
、国際的な共同研究の情勢はどうなっているのかなど様々な幅広い角度から包括的に考えて、そして
決定をしていくということでございます。

 しかも、その中期目標の作成に当たっては、大学の教育研究や運営に関して高い識見を有する方々
によって構成される国立大学法人評価委員会の協力を得るということにしているわけでございまして、
それらの意見を十分に踏まえた上で決定をしていくということでございます。


現在進行している事態は何か。閣議決定に国立大学法人が従うよう、中期目標の変更原案と中期計画の変更案を各大学法人に作成することを求めているのである。「実際的には」(遠山大臣)、文部科学省高等教育局国立大学法人支援課の原案にしたがって各大学法人から文部科学省へこれらの変更原案・変更案を提出することを大学に求めているのが「情報提供」だった。「行政組織としての公務員」(遠山大臣)の指示に従って作られる「大学の原案というものをベースにして決めていく」(遠山大臣)事態が進行しているのである。「大きな枠組みとして、国の財政上の観点から」(遠山大臣)文部科学省が各大学法人に求める中期目標の変更は、「高等教育全体の在り方」(遠山大臣)、大学共同、国際共同などが例示されているに過ぎない。逆に、いま文部科学省が各大学法人に求めているのは、閣議決定に従った「総人件費改革」であって、「さまざまな幅広い角度から包括的に考えて、そして決定をしていく」(遠山大臣)プロセスからは程遠い。「参考例」まで示してできた各大学法人の原案を文部科学省自らが「配慮」するのも当然である。ここで述べられる「配慮」の動機は閣議決定の実践であって大学の自主性の尊重は擬態に過ぎない。

参議院文教科学委員会2003年6月26日

○国務大臣(遠山敦子君) (略)
 今後、法案をお認めいただけた際には、中期目標、中期計画の原案はあくまで法人である各大学が
主体的に検討すべきものでありますので、法案に関する国会審議の状況を踏まえ、大学に対して改め
て必要な情報や資料を適切に提供することといたします。


現実には、「情報提供」各大学法人に求める主体的な検討は、平成21年度までの人件費の削減のパーセンテージのみに許されているに過ぎない。一方、国会での答弁には「必要な情報や資料」(遠山大臣)との言辞に「閣議決定の実行のため」という修飾語はない。

国会審議における政府答弁を踏まえるならば、現在文部科学省自らが進行させている事態を認めるものとはなっていない。文部科学省の裁量によって法案審議の制約を突破した事態が進行しているのである。


(3)文部科学省の、各国立大学法人の組織運営への閣議決定を根拠にした関与の適否

今日進行している事態に、実は既視感を覚えているという大学人が居るに違いない。会議録から長文を引用する。閣議決定の実行と国会審議との優劣にかかわる重要な質疑が交わされている。

参議院文教科学委員会2003年6月5日

○西岡武夫君 委員長のお許しをいただき、また山本委員のお時間を若干いただきまして、冒頭に、先ほど
文部科学省の方から御答弁がありました点でどうも私としては聞き捨てならない文言がありましたので、大
臣にお尋ねをいたします。
 この法案が今これだけ真剣に審議をされている最中であります。しかも、国立大学を抜本的に、改正と私
は思いませんけれども、これだけの大きな改革をやる審議が国会で行われている最中に、既に文部科学省と
しては、この法律が成立をしたということを前提とした移行のための経費をお使いになったり、あるいは新
しい会計システムの研究等々いろいろな研究を進めておられると。もしも進めておられるとするならば、当
然この審議の場に、新しい、文部科学省が今考えておられる独立行政法人という新しいシステムの傘の中に、
私は、傘の中にあると思うんですけれども、その国立大学法人の全容をすべて明らかにして、そして審議が
進められるべきであると思いますけれども、この二点について、どうも先ほどの文部科学省の御説明は国会
審議を無視しているんじゃないかと。もう法案は当然通るんだと。与党の皆さん方が多数だから通るんだと
お考えになるのかもしれませんけれども、先般の私の質問でも申し上げましたように、衆議院における審議
も十分行われていないままに参議院にこれが、法案が来てしまったと。これで日本の将来のことが本当に文
部科学大臣が責任が持てるのかと。国会の審議を何とお心得になっておられるのか、お尋ねをいたします。
○国務大臣(遠山敦子君) この国立大学の法人化のことにつきましては、今正に国会において御審議をい
ただいているところでございます。しかし、これは突然私の方で出してきたということではございませんで、
既に政府として昨年六月に国立大学の法人化を平成十六年度を目途に開始すると閣議決定をいたしておりま
す。閣議のメンバーであります私といたしましては、そのことを踏まえてそれに必要な準備を整えるという
ことでございます。もちろん、その法律の成立を待ってすべて始めるという、そういう言い方もあろうかと
思いますけれども、
閣議決定をされて、しかも平成十六年度からは実施に移すという段階で、例えば今法律
が成立してそれに必要な経費を十分に準備するということができますでしょうか。私としては、そのことに
ついて閣僚の一人として必要な準備を並行してやっているということでございます。

 しかし、それは内部的な、この法律が本当に成立をして、整然とそれからいろんなことが動いてまいると
思いますけれども、言わば足踏みといいますか準備段階でございまして、そのことについて、ここにおいて
整然とした形でお示しをする、それこそ、それこそ国会軽視ということになると思います。
○西岡武夫君 
今の大臣の御答弁は極めておかしいと思いますね。閣議決定をなされたからやるのが当然だ
と。じゃ、国会を何とお心得になっているんですか。どっちが大事ですか。

○国務大臣(遠山敦子君) 閣議決定をされて、そして政府の方針として平成十六年度から国立大学法人化と
いうことを目指してやれということでございまして、現にそれをやるかどうかは国会の場でお決めになるこ
とでございます。しかし、例えば、例えば平成十六年度からということで、何もしないでこの成立を待って
事柄を急に急ぐということになりましたら、それこそ日本の大学は大混乱になります。
 私は、西岡委員というのは大変尊敬をいたしておりますし、正に国立大学を愛しておられる典型だと思い
ますけれども、そのことと私どもが真剣に取り組んで、正に今は国立大学法人法の成立に向けて全力を傾けて、
何か月間も二十四時間体制でみんなやっているわけでございますけれども、それは正に国会での御審議を尊
重するからでございます。同時に、しかし大学に対しては不安を抱かすということがないように必要な準備
というものはやっていくということでございます。必要が、もし、もしこれが通らなければそれは必要がな
くなるわけでございましょう。
 私は、委員の御指摘はある意味では正鵠をついた御質問かもしれませんけれども、かつて文部大臣をおや
りになりました方の御意見とは思えないわけでございます。
○西岡武夫君 今の大臣のお言葉は、これはお取り消しをいただきたいと思います。私が申し上げているの
は、閣議決定を盾にして国会での審議を愚弄するものだと思いますね。お取り消しをいただきたい。
 私が申し上げているのは、閣議決定をして、何月、何年の何月からやるから、ここで国会の審議は早くやっ
てもらいたい、それを前提として、じゃなぜ法案が、私は反対ですけれども、万が一、与党の皆さん方もこ
れを本当にいいと思ってやっているとは到底思えないんですけれども、万々が一通ったとして、通ってから
十分な時間を掛けてからスタートさせるべきじゃありませんか。
 今の大臣のお言葉はおかしいじゃないですか。取り消してください。
○国務大臣(遠山敦子君) 私の考え方は先ほど申したとおりでございます。これは是非とも理事会におい
てしっかりと御議論をいただきたいと思います。
○西岡武夫君 大臣、大臣を、私、西岡武夫が文部大臣をかつてやった言葉とは思えないという言葉は取り
消してください。
○国務大臣(遠山敦子君) その点につきましては取り消させていただきます。申し訳ございませんでした。
○山本正和君 これは大臣がどういう立場で言っておられるか、一生懸命に取り組んでこられた経過から分
かりますけれども、だけれども、
三権分立といいますけれども、国権の最高機関たる国会なんですよ。国権
の最高機関たる国会がまだ決定していないことを、閣議決定があるからといって、閣議決定を優先して発動
するようなその考え方が間違っているというわけなんですよ。

 いいですか、国権の最高機関なんですよ、国会というところは。国会が決まるまでは駄目なんです。だか
ら、閣議決定というのは国権の最高機関たる国会の決定を何とか得たいと、そういう願望も含めての閣議決
定なんですね。閣議決定が最高決定じゃないんですから、そこは間違えないようにしていただきたい、ここ
は。ちょっと今のところは、役所に長い間おられたから、役所というところはこれはいやでも応でも閣議決
定を大事にするのは当たり前だからそれは分かりますけれども、そうじゃないんですから。
 国会は最高の機関なんです。国権の最高機関なんです。その最高機関が決定していないことを、閣議決定が
こうありますので、決定していませんけれどもかくかくいたしますというそのことは駄目なんですよ。それ
は率直にお取り消しください。
○国務大臣(遠山敦子君) 私は、行政を進める行き方としまして、その方向を目指して準備をするという
ことでございまして、私は並行しつつ少しずつ準備をしていくというのは当然の作業ではないかと思います。
そのことにおいてこの法案自体の御審議を、法案自体の御審議を妨げるようなことは一切いたしていないわ
けでございます。
○山本正和君 ちょっと整理をして、大臣もちょっともう一遍御自分がおっしゃったことを後で速記録見ても
ろうたら分かりますから。今のような形で、要するにこの法案が通過した場合にどういうことが必要かとい
うことのための準備をするということと、閣議決定がありますので、したがって国会の決定がまだされてい
ませんけれどもかくかくしかじかのことを進めますということは意味が違うんですから。ですから、そこの
ところをもう一遍速記録を十分見ていただいて、私はこの問題を取り消していただきたい。
 要するに、国会の決定前ですけれども閣議決定があるのでかくかくいたしておりますと、それはもう重大
な事柄なんですよ、その言葉は。そこはひとつ是非取り消してもらわなきゃいけない。分かるでしょう、意味。
○国務大臣(遠山敦子君) おっしゃる趣旨は分かります。ただ、その法案を出して、ただ私どもの考えで、
政策決定はそれぞれの省がやりますから、大臣の政策決定の上に法案を出して、それを待って成立を待つ、
そしてそのために準備する、それはいいとおっしゃるわけでございますが、それに加えて私としては閣議決
定というものもあるという意味で申し上げているわけでございます。山本委員が政策の大きな転換というこ
とで、それに対する準備が必要ということでおっしゃるとすれば、それは同じことではないかと思います。
 私の言い方がやや閣議決定があったから、だからというふうにもし取られたといたしましたら、それは違
います。私どもとしては、その準備を進めるということは、各国立大学が戸惑いなくスムースに新しい法人
に移っていただくために必要最小限のことをやるというのは私どもの義務と思うわけでございます。
 しかし、それは、法案そのものの御審議はこちらにお願いをしているわけでございまして、そのことにお
いて、私は、西岡委員の御議論について申し上げたのが私の考え方でございます。
○山本正和君 それでは、ひとつ是非休憩していただいて、理事会で協議していただきたいと思いますけれ
ども。
 ただ、もう一遍、大臣、言われる言葉の中で、ひょっとしたら間違って受け止められるかもしれないので、
あえて老婆心、老爺心で言いますけれども、問題は、法案を提出したら、提出した場合の成立に備えて様々
な準備するというのは、役所としてやるのは当然のことなんですね。閣議決定があろうとなかろうと関係な
いことなんですね。いいですか。
 ところが、先ほどの御発言は、本法案がここで審議中であるにもかかわらず、閣議決定があるので云々と
いうことを言われたので、それはもう重大なる国会に対する、国会の審議に対する、侮辱とまでは言いませ
んけれども、適当な言葉じゃない、そういう言葉を使うのは。そういう意味で言っているので、そこは本来
からいえば取り消すべきなんですよ。私はそう思いますよ。何も言わずに、閣議決定という部分は取り消し
ますと、こう言われれば済む話なんです。要するに、法案が成立した場合に備えて準備をいたしております
ということならば、それ以上のことではない、何も。その辺は間違えないようにしてください。
○国務大臣(遠山敦子君) 法案が成立することを目指して着々と準備をさせていただいております。
 それについて、先ほど申しました、閣議決定を引用して、私としてはむしろそれは、そのことを正当化す
る一つとして申し上げましたけれども、もしそれが十分でない、あるいは意に反するということであります
れば、私といたしましては、その分については取り消すこともやむを得ないと思います。
○委員長(大野つや子君) 速記を止めてください。
   〔午後三時二分速記中止〕
   〔午後三時十九分速記開始〕
○委員長(大野つや子君) 速記を起こしてください。
○山本正和君 
先ほど、大臣から、国会のいわゆる権限とかの、そういうふうなことについての誤解を招く
ような部分があった場合には閣議決定云々の部分については、その部分を取り消すことには別にやぶさかで
はないと、こういう御発言がありましたけれども、これは事実上、閣議決定云々という部分については取り
消されると、こういうふうに受け止めてよろしゅうございますか。

○国務大臣(遠山敦子君) 
私の不十分な発言によりましてお時間を取りまして誠に申し訳ないと思います。
今おっしゃいましたように、閣議決定というくだりにつきましては取り消させていただきます。


この緊迫した質疑は、閣議決定が国会を超越してはならない、という日本国憲法のイロハを大臣に教示するプロセスである。以後の審議でも遠山大臣は繰り返し、

参議院文教科学委員会2003年6月26日

○国務大臣(遠山敦子君) (略)
 また、各大学におきましては、法案が国会で成立した場合に備えて様々な準備が進められてきましたが、

案の国会提出以前の段階から文部科学省名義の資料が示されたことにより、文部科学省による指示があった
と受け止められて法律に基づく中期目標、中期計画そのものの作成が進められてきたとの指摘や、その結果
として、国会における審議の尊重という観点から問題だとの指摘を受けたことについては、誠に遺憾であり、
深くおわびをいたします。
(略)

 

参議院文教科学委員会2003年7月1日

○国務大臣(遠山敦子君) 一連の私の答弁につきまして御注意をいただきました。委員会審議におきまし
ては
国会における審議の重要性を十分認識してまいりたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。(略)


と述べざるを得なかったのである。

法の成立に先行し、閣議決定を根拠にした施策が国会軽視として批判され、大臣が詫びるという醜態を天下にさらした文部科学省が、二年半の時を超え、行政組織ではなくなった国立大学法人に対して、改めて同一の施策を行っているのである。適否を論じるまでもない。

まとめにかえて

「情報提供」に基づいた中期目標変更原案と中期計画変更案とを策定する愚挙を、各大学法人は進めてはならない。文部科学省の脱法行為の共同正犯となってはならない。

大学人と国会議員は、大学の自主性と、国権の最高機関としての国会の防衛のために、このような文部科学省の行為を黙過してはならない。

国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局は、行政改革推進法案自体に反対である。今後も必要な批判と告発を進めていく。

[1] http://www.shutoken-net.jp/2006/02/060203_6jimukyoku.html
[2] http://kokkai.ndl.go.jp/
[3] 衆議院文部科学委員会2003年4月16日、佐藤委員への答弁