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シリーズ《国立大学法人制度:1年半後の現状》

首都圏ネット事務局です。

 現在、国立大学法人による昨年度剰余金の今年度繰り入れ申請に対して、財
務省がいまだ承認を与えていないという情報があります。これについては、申
請承認の取引材料の一つとして、入学料の値上げを文科省に迫っているとの観
測も流れています。

 こうした現状を考慮すれば、引き続き、入学料問題は喫緊の課題であると考
えます。以下に国立大学入学料問題に関する立法および行政資料を提示し、簡
潔な分析を付け加えた、評論員による分析を掲載いたします。詳細は、
http://www.shutoken-net.jpをご覧下さい。

【国立大学入学料問題立法行政資料分析】 分析編  《資料編はこちら》

2005年12月7日 ηρ, βω

目次
1. 法令、施行規則、省令
2. 国会議事録
 2−1. 入学料の内訳と性格
 2−2. 入学料の国際比較
 2−3. 入学料と奨学金
3. 政府審議会文書
 3−1. 財政制度(等)審議会
 3−2. 中央教育審議会
まとめ
補 平成16年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)

1. 法令、施行規則、省令

国立大学法人法(資料1−1.)はその第二十二条4項において、また同施行規則(資料1−2.)はその第三条において、文部科学省令による授業料その他の費用の定めを述べている。国立大学等の授業料その他の費用に関する省令(資料1−3.)はその第二条において、「授業料の年額」、「入学料」及び「入学等に係る検定料」の標準額を定めている。

ただし、「授業料」、「入学料」、「検定料」のいずれも、その性格や使途が法、省令で規定されていない。ここに授業料等の範囲を任意に拡張し、これを増額させる論拠となる。

授業料等を学生から徴収すると定めるのは省令であって法自体は授業料等の徴収についての根拠を直接記述してはいない。換言すれば、省令のみが授業料等の徴収の有無とその徴収額とを決定する根拠となっている。つまり、授業料等の制定と徴収額の設定とは行政の裁量に基づくものとなる。

最近では、2005年度の授業料標準額を15000円の値上げとした省令改正が、2005年度一般会計予算が成立した後、年度の改まる前日の2005年3月31日であった。政府、大学の周知義務や学生・保護者との信頼関係の醸成の観点からも大いに問題となったことは記憶に新しい。これも行政の裁量に他ならない。

2. 国会議事録

2−1. 入学料の内訳と性格

私立大学では学生から、授業料、入学料、施設整備費のほかに、教育充実費や、実験実習費などを徴収する(資料2−1−1.、補)。現在、大学の授業料、入学料、施設設備費等は消費税非課税として措置されていると説明されているが(国税庁のサイト内、http://www.taxanser.nta.go.jp/phone/6233.htm)、複数の名目で徴収される費用の目的や使途を負担者に明確に示すことは法人にとって最低限の責務である。国立大学についても、法と省令にこれらが明記されていない以上、国権の最高機関である立法府においてこれらを明らかにすることは、法と行政によって目的や使途の不明な費用を負担者に強いないために必要な作業とならざるを得ない。

入学料に問題を限定するならば、その性格は国会質疑においてしばしばとり上げられてきた。政府答弁では、入学料の性格として大学の国立、私立を問わず、

・「入学するしないのときの契約」(資料2−1−2.)、
・「基本的に国立大学の入学料につきましては入学許可の際に徴収するわけでございまして、その学生が当該大学の学生としての地位を取得することについて徴収する、こういう建前になっておるわけでございます。」(資料2−1−3.)、
・「その納付金の中で、例えば入学料というような、入学手続、準備のための諸経費に要する手数料、それと同時に、入学の意思を確認するための予約金的な性格を持っているもの、ないしは一種の手付金的な性格を有するもの」、「私ども、国立大学、国立学校の場合も、入学金あるいは授業料というのは徴収してございますので、その場合の入学金としましては、入学手続、準備に必要な諸経費のほかに、今おっしゃいましたような、予約金的な性格あるいは手付金的な性格を帯びているものと理解してございます。」(資料2−1−4.)、
・「国立大学の入学料についてでありますが、学生として大学という施設を利用し得る地位を取得するに当たっては、その入学に際して一括して支払われるお金である、同時に、入学に伴って必要な手続、準備のための諸経費に要する手数料としての性格をあわせ持つ」(資料2−1−6.)、
・「学生納付金、前納金のうち、含まれております入学金、入学料につきましては、入学し得る地位への対価の性格もある」(資料2−1−7.)

といった説明によって、入学料とそれ以外の費用との差別が述べられてきた。その設定額の根拠としては

・「従来から、教育の機会均等の理念を踏まえ、私立大学の水準や社会経済情勢等を総合的に勘案して設定をしてきている」(資料2−1−5.)

と述べられているにすぎない。

なお、私立大学に入学しなかった合格者からの入学金の徴収の妥当性を問う質問(資料2−1−4.)で、授業料とは性格の異なる入学料についても、消費者契約法の見地から、その一定程度を大学側の損害額とし、それを控除した額の入学しなかった合格者に対する返還の妥当性を、司法判断にもゆだねつつ認める政府答弁が記録されている。この考え方を国立大学にも適用し、質問者は以下のようにしてこの部分の質問をまとめている。

・「そうすると、入学金、国立大学の場合は二十数万円取られますよね。そうすると、やはりこれもひょっとして、司法が判断することでしょうが、今の幾つかの性格でそれぞれやはり金額を積み上げてきたものであると。となれば、入学の手続、準備の諸経費に要する費用あるいは手数料、その部分がこのぐらいである、それからいわば予約金的性格のものがこの部分であるというふうな分け方になってきたときに、その損害というのは、やはりそれぞれ個別に算定されてくる可能性は出てきますよね。これは国立大学の場合ですよ。それはありますね。では、うんとおっしゃったんで、結構であります。」

この質問は文部科学省が国立大学の入学料について、その性格についての答弁とは別に、その積算根拠を示しておらず、しかも質問者も一緒になってこれを司法判断にゆだねてしまっていることを明らかにしている。つまり、入学金は積算根拠の不明瞭なまま入学者から徴収しているがその内訳は司法判断にゆだねる、こう述べながら文部科学省は標準額を設定していることになる。

2−2. 入学料の国際比較

国会における政府答弁では、

・「ヨーロッパ、ドイツ、フランスは大学の授業料はただです。入学金はありません。イギリスもそうです。ただ、イギリスは少し今度から取ろうかと言っているようです。アメリカと日本だけです、非常に高い授業料を取るのは。」(資料2−2−1.)、
・「アメリカ、イギリス、フランス、ドイツともに入学料は取っておりません。授業料ですが、アメリカの州立総合大学で平均四十四万六千円、それからイギリスでは十九万三千円、フランスにつきましては授業料という形ではなくて登録料という形で一万三千円、それからドイツにつきましては、一般には無償でございますが、一部の州で十二万円程度の授業料を取っているということがあると理解しております。」(資料2−2−2.)、
・「時間の関係で入学金だけで申しますと、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、いずれも入学金は取っておりません。韓国では入学金を、我が国と同じように入学金を取っておると、こういうことでございます。」(資料2−2−3.)、

と、入学料制度が日本や韓国など限られた国のものであることを重ねて述べている。

・「大学におきまして入学金徴収するかどうか、あるいは徴収する場合にどの程度とするかということにつきましては、各国の大学制度あるいはその歴史的発展の経緯によるところが大きいと、こう考えておりまして、我が国の国立大学につきましては、大学教育を受ける者に一定の負担を求めるという考え方から、明治以来、入学金を徴収をしてきておるわけでございます。」(資料2−2−2.)、

という答弁が、日本固有の入学料制度の出自を述べていることになる。ただしこの答弁は、日本の異常に高額な授業料も歴史的経緯によって説明する、という意思をも意味していることになる。私立大学の多いアメリカ、イギリスにおいても入学料がないという答弁は、国立大学に限らず私立大学においても日本の学生は大学に入学するために、国際的に見て異常に高額な「諸経費」「予約金」「手付金」を払わされる制度に基づいて「一定の負担」を余儀なくされていることを明らかにしている。文部科学省による入学料の設定の際に「総合的に勘案」される「社会経済情勢等」に、国際的見地は含まれていない。

2−3. 入学料と奨学金

積算根拠が不明瞭で、国際的にも異常な入学料を含めた学生納付金の負担のために、学生と保護者は奨学金をはじめとする融資制度に依存している。このような事態にもかかわらず国会では、日本育英会への政府出資額の増額による入学料の貸与制度の設立を求める質問(資料2−3−1.)に対して、答弁は国民生活金融公庫による教育ローンの活用を求める、といった質問と答弁双方の異常な事態が展開されてきた(同様な質疑は、資料2−3−2.から2−3−6.を参照)。日本育英会の入学時増額貸与奨学金制度が平成15年度に、国民生活金融公庫の融資を受けられない学生・保護者を対象として新設された(資料2−3−7.)が、入学料はあくまで原則として奨学金の対象とならず、しかも融資制度による負担を文部科学省が学生と保護者に引き続き求める構造となっている。入学料の調達を金融市場の需要とする発想を文部科学省は維持している。入学時増額貸与奨学金制度は、恩恵的な入学料免除制度(資料2−3−8.)と並んで、異常制度中の異常制度と指摘せざるを得ない。

一方、平成16年度で日本学生支援機構の奨学金は、貸与年額が、無利子奨学金で五十三万円から七十六万円、有利子の奨学金では三十六万から百二十万円である(資料2−3−9.)。学生納付金は、国立大学で授業料五十二万円、入学料約二十八万円、計八十万円。私立大学では、授業料の平均が八十一万円で、入学料の平均が二十八万円で、合計百九万円。文部科学省は、無利子・有利子奨学金の同時貸与や入学時増額貸与奨学金制度によって、「奨学金全体で見れば、授業料等の支払に対応できるようになっているんじゃないかと考えております。」(資料2−3−9.)と答弁しているが、数字から見える実態は、実質的には「奨学金全体を使って入学料と授業料の支払にしか対応できない」のである。質問者も「入学金と授業料を払ったらパア」と感想を述べている。

法人化された国立大学の授業料の標準額が値上げされた平成17年度、無利子奨学金の貸与月額も増額された(資料2−3−10.)。標準額の値上げが年額15000円に対し、貸与月額の増額は1000円、年額12000円である。増額されたとされる奨学金の受給者にとっても結局、標準額の値上げに連動した各大学の授業料値上げは負担増となっているのである。

3. 政府審議会文書

 3−1. 財政制度(等)審議会

財務(大蔵)省の財政制度等審議会(財政制度審議会)は、国立大学の学生納付金の値上げを、受益者負担の適正化、私立大学との格差等を論拠に繰り返し執拗に政府に求めてきた(資料3−1−1.から3−1−7.)。

この数年の間で入学料の値上げが行われた平成12年度及び14年度の予算案の作成を控えた、その前年度初冬の時期には、同審議会は必ず、私立大学における施設設備(または施設整備)費を論拠とした学生納付金の値上げを求めている。

平成12年度:国立大学の授業料等の学生納付金については、受益者負担の適正化及び自己財源の充実の観点から、私立大学との格差の実態(私立大学においては、施設設備費も徴している)を踏まえ、これを是正していく必要がある。(資料3−1−1.)

平成14年度:受益者負担の徹底と自己財源充実の観点から、授業料等の学生納付金について引上げを図る必要がある。特に、平成14 年度予算においては、国立大学等の施設整備が喫緊の課題となっている一方で、多くの私立大学が徴収している施設整備費について国立大学ではこれまで徴収してこなかったこと等を踏まえ、学生納付金の思い切った増額や学校財産処分収入等の一層の確保に努める必要がある。(資料3−1−2.)

しかし国会質疑を踏まえるならば、入学料と施設設備(または施設整備)費の性格は異なり、施設整備を論拠にした入学料の値上げは容認されない。「自己財源充実」を目的としての、手続き「諸経費」、「手付金」、「予約金」とされる入学料の値上げはなおさらのことである。

一方、授業料が値上げされた平成15年度及び17年度については、平成15年度予算に向けた建議においては学生納付金に言及されることのないまま値上げとなっている。また、概算要求時に盛り込まれていなかった授業料の標準額値上げが導入された平成17年度予算については、同審議会は

平成17年度:受益者負担の徹底、私立大学との格差是正及び各大学における自己収入確保の努力を支援する観点から、運営費交付金算定の基礎となる学生納付金の標準額を適切に改定する必要がある。(資料3−1−5.)

と学生納付金標準額の値上げによる運営費交付金削減を求めている。

従来は、当該年度予算によってその翌年度入学者の学生納付金を決定するものとなっていた。したがって、例えば平成12年度の入学者に対する入学料値上げは平成11年度予算で既に確定しており、平成12年度予算に対して入学料について同審議会が求める値上げは、既に成立、施行されている予算を追認する文章となっている。この慣行が崩れたのが平成17年度予算による平成17年度入学者に対する授業料標準額の値上げであった。大学では学則改定によって学生納付金の徴収期間を新年度内へとずらし、予算成立を待って徴収することとした。したがって平成18年度予算における学生納付金の値上げに対しても対応できる仕組みが大学には出来上がっている。

しかし、同審議会の平成18年度予算への建議では、学生納付金への言及は

平成18年度:また、受益者負担の徹底、私立大学との格差是正などの観点から、各大学の自己収入確保の努力を一層強化するべきである。

と、従前とは明らかに異なる文章となっている。まず学生納付金という単語そのものが直接表出しない。したがって、同年は隔年で値上げされてきた入学料の値上げの年に当たるにもかかわらず、同審議会の上の文章は、従来述べてきた私立大学の施設設備費を引き合いに出しての学生納付金の値上げも求めていない。国立大学の入学料が私立大学の入学料平均額を上回っている今日、入学料の値上げを求めるためには施設設備費を引き合いに出すことが入学料値上げの簡便な口実となるにもかかわらずである。

ただし同審議会と予算編成担当者との間で、隔年、交互に授業料と入学料を値上げするとの暗黙の了解に基づいて平成18年度入学料標準額の値上げが策定されている可能性が残っている。

3−2. 中央教育審議会

受益者負担主義を明言し、隔年交互の授業料・入学料値上げの発端となった答申(資料3−2−1.)は、今日の授業料、入学料の異常なまでの高騰を、文面上は予期してはいない。中央教育審議会は、国立大学の今日の高額費に対し、これを抑制するための施策を提示せねばならない。にもかかわらず、以来約30年を経て学生納付金が暴騰した後に2005年に発表した答申(資料3−2−2.)においてさえ、

高等教育の費用負担は,その直接的受益性に着目して,これまで家計に多くを依存してきている。現在では,国公私立を問わず学生納付金が国際的に見てもかなり高額化しており,これ以上の家計負担となれば,個人の受益の程度との見合いで高等教育を受ける機会を断念する場合が生じ,実質的に学習機会が保障されないおそれがある。

と、受益者負担主義の、学生と保護者による過度な負担による瓦解を懸念するに過ぎないのである。GDPに対する公財政支出の低さを繰り返し述べながら、その向上のための具体策は述べず、

○ 高等教育機関の財源として,学生納付金や国・地方公共団体からの支援だけではなく,民間企業や個人等からの寄附金・委託費や附属病院収入・事業収入等の自主財源も確保し,財源を多様化することが望まれる。国はそのような努力を積極的に支援すべきである。

と謳い、高等教育機関の財源の筆頭は学生納付金であり、強調されるのは自主財源の確保と多様化である。

まとめ

日本の国立大学の入学料は、文部科学省令が標準額を設定するとともに徴収方法も定めている。またその性格は、入学手続きに関わる諸経費と手付金、予約金的な性格を有するとされている。だがその積算根拠は行政自らが内訳とともに明示しておらず、学生と保護者に対して不明朗な負担となっている。また入学料制度自体が国際的に見ても特異な制度である。奨学金によって学生が自立した勉学生活を送る上で、授業料とあわせて過度な負担を強いるのみならず、奨学金とは別の融資制度による入学料負担を、行政が学生と保護者に求めるという事態にある。財政制度等審議会は、学生納付金の更なる増額を執拗に求めているが、その根拠は中央教育審議会の答申である。入学手続きに関わる諸経費、手付金、予約金の高騰の理由を説明しないまま入学料の値上げを繰り返すならば、それは受益者負担主義とさえ呼べない。

いま、2006年度予算案策定をめぐり、国立大学の入学料に施設設備を目的とした費用を上乗せして徴収しようとする政府動向が伝わる。このような意向は財政制度(等)審議会が繰り返してきた要望に他ならない。そしてこの要望は省令の改定によって容易に実現できるよう、法は行政の裁量を認める構成をとっている。しかし、国会審議における不十分な質疑によっても、入学料への施設設備費の上乗せは入学料の範囲を逸脱するものと言わざるを得ない。私立大学よりも高額な国立大学の入学料を更に値上げする方策として持ち出された施設設備費を、文部科学省はどのようにして学生と保護者から徴収する手立てを講じるというのか。入学料への支離滅裂な上乗せを、論理を超越して実施するか、「施設設備費」を「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」で新たな「その他の費用」の一つとして設けて実施するか、いずれかの形態として現れざるを得ない。

だが、文部科学省が限定的にせよ認める、学生と保護者の負担の重さと、GDPに対する公財政支出の低さという高等教育財政の実態は、学生納付金、とりわけ入学料の値下げこそが日本のこの問題を打開する適切な解法であり原動力となることを常に示している。奨学金の増額と抱き合わせにした施設設備費の実質的徴収は、結局は学生支援を看板にした財源を施設設備費に還流させる、つまり高等教育予算として支出の奨学金増額と収入の学生納付金とがバランスするように構成させる詐欺的措置に他ならないばかりか、さらにこの収入でバランスさせるために学生納付金負担を金融市場の一部として拡張させつつ学生と保護者の消費生活をも萎縮させる、教育行政とは異質な経済政策となる。

以上

補 平成16年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)

平成15年度から16年度にかけての、私立大学の初年度学生納付金平均額は約500円の値上がりとなった(その間の国立大学の初年度学生納付金の値上げはない)。平均で、入学料は約3500円の値下げ、授業料は約1万500円の値上げ、施設設備費が約2100円の値上げである。

また値上げ校数の比率を見ると、私立大学のうち、授業料で約1割、入学料で約1%、施設設備費で約5%の大学のみが値上げを実施したに過ぎない。