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学長クーデターの横行か 佐賀大学 豊島耕一 いつもの,日本人の好きな「非常時」が来たようだ.メディアも「生き残り」を 喧伝している.「危機感がない」と言われるのを恐れて多くの人は「狼が来るぞ」 という類の言説に反論することを怠る.もちろん個々の大学の存続は重要な問題だ. しかし「大学」という文化,概念の「生き残り」こそが,わが国全体としては最重 要課題であるということを忘れていないだろうか. 私学高等教育研究所主幹の喜多村和之氏は,「大学は生まれ変われるか」(中公 新書,2002年3月刊)という本の中で,「学問の自由とその制度化としての自治を 喪失した大学は,もはや大学の名に値しない.仮に大学の形態は保ち,生き残りは 保てたとしても,それはもはや大学ではないと著者は考える」と述べている. 今日の大学人に最も欠けているのは,まさにこのような危機感である.これが「法 人法」の安易な国会通過を許してしまったのではないか. しかし,事態はあたかも「戦時中」の雰囲気が復活したかのような方向へ進んで いる.「東大総長の所信表明」*なるものが公表され,24日に「信任投票」**が行 われるそうである.この「所信」の中には喜多村氏のような意味での危機感は全く 見られない. この所信が出されるに至った詳しい背景は全く知らないが,文面から判断する限 り独裁政権が求める信任投票に似ている.必要な権限の付与はよしとしよう.しか しその範囲については「相当包括的な授権」などという言葉で全く曖昧にしか定義 されていない.これでは「敬愛される将軍様になりたい」と言うのとあまり変わら ない. 権限の強化が行われるならば同時にそれとのバランス,すなわち権限に対する チェック機能,例えばリコール制のようなものが必要だが,それが示されなていな いのも+,独裁政権樹立の疑いを持たせる.少なくとも,大学運営の原則をその構成 員による民主主義を基盤とするのであれば,構成員によるチェックは不可欠である. そうではなく,会社と同様の,経営陣によるトップダウンに切り替えようとするの であれば,経営陣の中だけでのチェックでいいのかも知れない.「トップダウンか ボトムアップかという議論は意味がない」などとごまかすのではなく,どちらの原 則を取ろうとしているのか,明白にすべきであろう.さもなければこれはまさしく クーデターとなるであろう. * http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030716toudaisutyou.html ** http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030716yomiuri.html +「所信」の中に,「勿論、総長についても法人全体の管理運営能力の観点から評 価がなされ、解任の手続きをとることが学内的にできることは周知の通りです。」 とあるが,東大の方によるとこの意味は不明とのこと. 840-8502 佐賀市本庄町1 佐賀大学理工学部 豊島耕一 toyo@cc.saga-u.ac.jp http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp 職場電話/ファクス 0952-28-8845 |