国大協総会は法案廃案の立場を表明すべきである

 200369日  独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 

はじめに

 国大協定例総会は610日〜11日の日程で行われる。これは、国大協の歴史上、もっとも重要な総会のひとつとなるであろう。

 われわれは、すでに530日の国大協理事会に向けて、理事会のなすべきことを提言したが、その後の状況を踏まえ、ここであらためて国大協総会への訴えとしたい。

 「国立大学法人法案」および関連5法案は、516日の衆議院文部科学委員会において、審議不十分のまま委員長「職権」によって採決が強行された。しかし、この過程で法案の問題点が次々と明らかになり、現在、審議が行われている参議院文教科学委員会においても、多くの論点が示されている。

 529日の参議院文教科学委員会では、鈴木寛(民主)、林紀子(共産)、西岡武夫(国連)の野党3氏は、それぞれ法案反対の立場から鋭い追及を行った。鈴木氏は法案の構造的問題点を、林氏は労働安全衛生法対応準備が来年4月には終了しない点を、西岡氏はこれまでの大学改革の流れのなかで確認されてきた事柄が無視されている点を、具体的に提示した。特に西岡氏は質問開始の冒頭に徹底審議を要求し、委員長は「審議には十分時間をとりたい」と表明した。
今後、法案の逐条検討を含めた厳密な審議が求められている。

 65日の審議においても、文科省が、国会審議が行われているにもかかわらず、法案成立を既成事実とみなし、予算措置を伴う法人移行準備を進めている点に批判が集中した。この過程で、閣議決定を優先する遠山大臣の答弁のために、議事が中断し、大臣は発言の撤回に追い込まれた。また、大臣は「独立行政法人化という議論を海外にいたときに聞きまして、愕然といたしまして、それは国立大学の本質論にもとると、大使公邸の中で地団太を踏んだことがあります」と発言し、自ら独立行政法人と国立大学は相容れないことを認めるに至った。さらに、大臣は独立行政法人通則法の準用は「わずか」であると事実に反する発言を行っている。


一、法案をめぐる国大協執行部の対応は異常である

 この「国立大学法人法案」に対して、最大の当事者であるべき国大協は、この間、何を検討し、いかなる対応を行ってきたのであろうか。
 224日に開かれた理事会では、法案への対応をめぐって活発な議論があり、多数の疑問が出された。その結果、長尾会長から、「法案が国会に提出された段階でその内容を検討し、国大協として表明すべきことがあれば内容をはっきり示して、理事会で承認を得て発表するなり、あるいは臨時総会を開催して議論することも視野に入れて対応を検討する」(理事会議事概要)と総括されることになった。

 それにも関わらず、国大協は、228日の法案閣議決定以降、現在に至るまで、法案に対する見解を一切明らかにしていない。執行部は臨時総会を求める声に耳を貸さず、最終報告以降の一連の過程の中でも最も重要な時期に、法案の真摯な検討を行っていない。

 それどころか、57日には法人化特別委員会の石委員長の名で、各大学あてに「国立大学法人制度運用等に関する要請事項等について(検討案)」なる依頼文書を送付した。この文書は、法案成立を前提とし、法人化以降に適用される諸法律について適用の「配慮」を求めるなど、違法・脱法的行為を国大協が率先して求めるという、信じがたい内容の文書であると言わねばならない。

 しかしこの文書については、514日の国会審議において、大石厚生労働省安全衛生部長が、「労働安全衛生法が適用になれば、免除ということは、何らかの法定事項がない限りはそういうことはない」と答弁しており、国大協が求める「配慮」は不可能であることが明白となっている。

 515日に提出された各大学の回答を見れば(首都圏ネット65日付「国立大学の圧倒的多数は、法案に反対している―5.15回答書の公開に寄せて」 http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030605syutokenseimei.htm参照)、実質的に国立大学法人法案によっては実現されえない項目が列挙されており、同時に20044月に適法的に法人に移行することは不可能であることが示されている。


二、執行部は、国大協の立場を僭称している

 こうした状況の下で、国大協における議論を踏まえることなく、執行部は法案賛成の立場を勝手に表明している。衆院の参考人質疑では牟田第3常置委員会委員長が、63日の参院参考人質疑では、佐々木第8常置委員会委員長(理事)と松尾副会長が、法案賛成の立場で発言した。また、石副会長は『朝日新聞』および『日本経済新聞』(67日付朝刊)の双方で、法案賛成を表明し、法案が審議中であるにもかかわらず、あたかも法人化が決定したかのように議論の誘導を繰り返している。

 このような国大協執行部の発言は、いつ国大協の正規の機関で承認され、また、国大協のどのような決定を踏まえたものであろうか。法案は調査検討会議の最終報告からさえも、大幅に変更されたものであり、国大協としては法案に対してまだ何らの態度表明も行っていないのである。

 国大協執行部の態度は、透明性をもった議論を徹底的に避け、意見を取りまとめる正当な手続きを踏まない、という点で国大協の立場を僭称したものであり、厳しく糾弾されなければならない。


三、国会審議で明らかにされた法案の諸問題

 衆参両院における審議では、法案について政府の説明が破綻している点や、違法・脱法的行為なしには来年4月に法人化をスタートさせることは不可能であることが、次々と明らかにされている。

 法人化移行後に適用される、労働安全衛生法や労働基準法について、516日の衆議院文科委員会で、文科省の河村副大臣は、後に修正したものの、来年4月の法人化スタートに間に合わない場合は、「補正予算を組んででも対応する」とまで発言した。また、施設改修などの具体的な計画や資料について、萩原文教施設部長は、「今日、調査を開始し」「今月中には報告できるようにしたい」と述べた。法案が国会で審議中にもかかわらず、法人への移行費用の概算すら文科省は把握していなかったのである。

 一方、『文教速報』(2003.5.23)によれば、文教施設部の舌津計画課長が、全国経理部課長会議において、労働安全衛生法への対策は追加財政支援なしで緊急に改善を行え、という内容の指示をしていおり、財政措置は取られないことが明らかとなった。だが、一時は補正予算を口にしたほどの大規模な経費を、個々の大学の、しかも今年度予算で対応できるはずはない。

 また、文科省は28日になって、衆議院文部科学委員会の要求によって、昨年10月に判明した、国立大学・高専の不備のある実験室計13562室のうち、これまで改善されたのは1082室にすぎないこと、今年度中に306億円で残りを改善することなどを発表した(「国立大学等における安全衛生管理の改善対策について」)。しかし、29日の参議院文教科学委員会の質疑において、この対策には重大な問題点があることが判明した。

 第1に、「不備のある実験室計13562室」という調査結果は、有害な化学物質等や実験機械・器具等を取り扱う実験室に限定されており、労働安全衛生法が要求する屋内外のすべての施設整備の調査はまだ行われていない疑いが極めて強い。

 第2に、306億円という改善に必要な経費の算出も、単に各大学事務局からの報告を集計したものであって、教育研究現場の現状とは大きくかけ離れている可能性が高い。例えば、文科省答弁では東大での必要経費は約27億円とされているものの、林参院議員の調査によれば、東大工学部のみで17億円を優に超えるという。また、名古屋大学では必要経費は51億円に達すると試算している。

 つまり、この「改善対策」では、20044月までに労働安全衛生法に対応する状況にまで大学の施設を改善することはできないのである。しかも、306億円のうち文科省が補助するのは160億円に過ぎず、残りは各大学で負担せよ、というのである。このため、例えば東大では、間接経費のうち6分の1を部局から吸い上げる計画を立てざるをえない事態になっている。しかし、これでもなお労働衛生安全法の要求する水準には到底到達しない。

 また516日の衆議院文部科学委員会で、遠山文科大臣は、来年4月までに対策が終わらない場合、法人法を凍結するか、という民主党鳩山議員の追及に対し、国立大学は「現在でも人事院規則に違反している」と答えている。自ら法律違反の現状とその放置を認めたこの発言は、文科大臣としての責任が問われる重大な問題発言であり、閣僚としての適性を疑わざるを得ない。


四、急速に広がる法案への批判、与党からも疑問の声

 こうした中で、各大学の教授会からは、法案に対する批判的な決議や見解、慎重審議を求める声が次々と上がっている。これまでに発表されたものを以下に列挙する。

東京外国語大学外国語学部教授会、地域文化研究科教授会(03/3/20)
山形大学理学部教授会(03/4/14)
東京大学大学院理学系研究科・理学部(03/4/15)
山形大学人文学部教授会(03/4/16)
一橋大学社会学研究科教授会(03/4/16)
千葉大学理学部教授会(03/5/6)
千葉大学文学部教授会(03/5/8)
金沢大学経済学部教授会(03/5/15)
東京大学大学院工学系研究科(03/5/15)
金沢大学理学部見解(03/5/22)
東京大学総合文化研究科・教養学部(03/5/26)
北海道大学理学部教授会(03/6/5)

 これらの教授会の見解は、それぞれ法案に対する評価の内容にこそ差はあるものの、法案への批判・疑義・来年4月からの法人化移行の困難さを指摘する点で、ほぼ共通している。

 また、大学人の社会的発言も続いている。以下に若干の例をあげておこう。南塚信吾(千葉大学教授)「国立大学 法人化、存在意義揺らす」『日本経済新聞』(412)、藤原正彦(お茶の水女子大学教授) 「文科官僚の過剰介入に潜む学問の危機」『産経新聞』(510)、田端博邦(東京大学教授)「審議足りぬ国立大法人法案」『毎日新聞』(525)、佐和隆光(京都大学教授)「国立大法人化 大学を「ソビエト化」させるな」『朝日新聞』(527)、長谷川眞理子(早稲田大学教授)「学問殺す国立大学法人化」『朝日新聞』(61)、岡田知弘(京都大学教授)「国立大学法人法案 国策にこびた研究・教育へ」『東京新聞』(67)

 この間の多くの署名運動の結果や数回にわたる意見広告を見れば、国大協執行部の見解が大学人の多数の意見を反映していないことはもはや明らかであろう。

 一方、与党である保守新党の熊谷代表は、513日の定例記者会見で国立大学法人化法案を取り上げ、「・・・結果としてこれら大学の自治や学問研究の自立を損ない、官僚支配になってしまうのではないか」と述べている。また、「特にこれをこのままやると、天下り三倍増計画のような結果になってしまうのではないだろうかと。現場の委員の意見等や、各党の議論に参加している方々の話なども聞くと、皆さん、そういう感じを多少なりとも持っているようです」とも述べ、「百年に一度の大失敗」となるのではないかと危惧を表明している。
 さらに、文科省の若手官僚の中からも、この法人化法案に対する批判の声があがっていると聞く。
 

五、国大協が取るべき態度 ― 総会で「国立大学法人法案」に反対の意思決       定を

 

 以上にみたように、法案について検討すればするほど、国の統制強化の問題や天下り問題、財政措置や評価の不透明さ、など、問題点が次々と明らかになっている。なにより、来年4月の法人化は、もはや不可能であることが明白となっている。

 このように、違法・脱法的行為なしには法人移行が不可能となっている現状を踏まえて、国大協として法案に対する態度を決定することが、何よりも求められていよう。国大協総会は、少なくとも以下の諸点を検討し、国大協として必要な対応を早急に取るべきである。

総会で法案に関する真摯な議論を行い、その結果を広く公開すべきである。

総会に提案する予定の「法人化に関する総括的な見解」を速やかに公表し、全ての国立大学で検討できる措置を取るべきである。

『文教速報』(2003.5.23)および国会審議で明らかにされた、文科省の姿勢(労働安全衛生対策費用を各大学に押しつけ、文科省としの責任を棚上げにしている問題)について、国大協として抗議すべきである。

現在、法案が国会で審議中にも関わらす、国大協が法案成立を前提とした議論を行うことは許されない。それは、国民に対する大学としての責任の放棄であるだけでなく、行政府に過度に依存し、国会の立法権を侵すことにもなる。


 むしろ、高等教育と学問研究に責任を負うべき国大協として、「国立大学法人法案」に対する反対の姿勢を総会で明確にするとともに、法案を審議中の国会に対し、早急に以下の点に関する要請を行うべきであろう。

法案には、「学問の自由」「大学の自治」の観点からみて、再検討すべき点がきわめて多いこと。

来年4月の法人移行は、国立大学の現状からして不可能であること。

衆参両院の審議で明らかにされた法案の問題点、法人への移行過程の適法性などについて、今後も多面的かつ慎重な審議を行うこと。

国会の会期内に審議が尽くされない場合には、結論を急がず、会期にとらわれることなく審議を継続すべきであること。

教育は「国家百年の計」であることに鑑み、この法案で与野党の意見が二分される状況は、教育研究の将来を考えても好ましくないこと、大学改革という問題については、少なくとも大多数の国会議員が賛成できる内容が必要であること、を国会に対して要望すること。