国立大学の圧倒的多数は、法案に反対している

5.15回答書の公開に寄せて―

 

 

        200365

 独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局

 

 

  国立大学協会法人化特別委員会(石弘光委員長)は、57日に「国立大学法人制度運用等に関する要請事項等について(検討案)」という依頼文書を各国立大学長あてに送付した。これは515日を期限として各大学にアンケートへの回答を求めたものであった。

 

  われわれは、「国立大学は違法・脱法行為と悪法制定の共犯者となるのか」

(http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/web030509syutkenseimei.htm)の中で、
(1)この文書は、国立大学の法人化が適法的には行いえないことを国大協自らが示したものであること、
(2)文書に記載された「要請」内容は、国立大学法人法案とはまったく相容れないものであること、
(3)したがって、国大協は実質的には法案の廃案を求める他ないこと、を明らかにした。

 

  このたびわれわれは、515日の締切までに寄せられた各大学の加除修正形式の回答(文書A) および6大学から寄せられた「要請事項等」の全体に関わる意見書(文書B)を入手した。これらの文書は、522日の法人化特別委員会で議論に付されたと考えられる。以下、これらの文書を公開し、合わせてそこに示されている基本的論点を示すことにする。

 

  一、特別委員会の要請事項等(検討案)は、先に述べた(1)(3)の性格を持つものである。

これに対する各大学の回答は、未整理な点、種々雑多な主張も含まれているが、それらは法案が有する根本的矛盾をストレートに反映したものである。文書Aで意見を述べていない大学も、特別委員会の「要請事項等」は必要だとしている点で、実質的に法案の矛盾を指摘しているとみられる。

 

  また、文書Bを見れば、この間の法人化特別委員会の対応に対して、根本的な疑問が投げかけられていることが分かる。何より、特別委員会がこれらの疑問に対して不誠実な対応を取っていることが問題である。

 

 

  二、各大学からの意見で特徴的なものを指摘しておこう。

 

○政令・省令の内容が何ら決まっていないことに対する不満が大きい。これは法案の骨格をなすものを、政令・省令という形態で行政の全面的裁量に委ねて良いのか、という問題である。

 

○法案の文言について、「最終報告」の段階に戻すべき、との意見が多い。

 

○各種法令の適用については、経費確保が行われなければ法の適用は無理であるとの意見が多い。脱法行為を要望することは不適切であるとの批判も出ている。

 

○非常勤講師の雇用、裁量労働制、事業場の扱い、建築基準法、都市計画法、雇用保険法の適用、債権のみなし消滅、法人登記、不動産登記など未解決の問題がきわめて多いことが指摘されている。

 

○「幹部職員」を文部科学省人事で動かしていることへの不満が見られる。

 

○法人化に関わる移行経費が莫大なものに達することが指摘されている。たとえば、労働安全衛生法対応、財務会計システム、管理運営経費、役員の執務スペース整備のための経費、知的財産取得維持システムの経費、土壌汚染改善経費、理事に関する経費、採用試験実施経費、役員の人件費・会議費、境界確定経費などが列挙されている。

 

○法人化後も経常経費として莫大な金額が必要であることが指摘されている。たとえば、賠償金の支払い、学校災害共済掛金、振込み手数料、採用試験実施経費、修繕経費、特許申請とその維持・管理費用、システムの導入と維持経費、課外活動中の事故による賠償金、訴訟費用、入試業務にかかる賠償金、顧問弁護士費用などである。

 

○看護師の定員措置については現在は違法状態であるとの指摘がある(2:1看護に必要な定員措置がなされていないこと)

 

○非常勤職員の雇用の問題について、国が雇用主として責任ある対応をすべきとの意見が出されている。

 

○公財政支出を先進国なみにすること、地域の均衡ある発展を求める声も多い。

 

○地方国立大学や単科大学からは運営費交付金の算定方法・基準について強い懸念が出されている。また、病院の診療収入を運営費交付金の算定から除外するよう求める声もある。

 

○現在の国立大学にすでに存在している格差(大学間・地域間)がさらに拡大し、不平等を生むことへの批判が強い。

 

○法案の根本的な制度に合致しない要求が出されている。たとえば、剰余金の扱いなど。

 

○中期目標・中期計画に関しては、大学の意見を「尊重」すべきこと、基本的な目標に限定すべきとの意見が出ている。

 

○評価に関しては、評価の基準、評価委員会の構成、大学評価・学位授与機構の評価方針などがことごとく不明確であること、意見申立て制度を作ること、総務省の評価を限定的なものにすること、評価のための評価にならないこと、などが指摘されている。

 

  三、これらの意見をつぶさに検討するならば、国立大学法人法案とはまったく相容れない要請を含んだ5月7日付「検討案」に加えて、さらに同法案では実現できないことがらが各大学から数多く提出されているとみるべきである。すなわち、「検討案」への同意ならびに加除修正という形式をとって、圧倒的多数の国立大学が法案への反対意思を表明していると判断される。国大協は自らが行った依頼への回答を踏まえて、法案に多くの問題点が含まれているということを国会に対して率直に述べることが必要である。

 
既報( http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/030603syutjouhyo.htm
の通り、国大協執行部は、6月10日〜11日の定例総会では法案に関わる問題点を何ら議論せず、法案成立を待って臨時総会を開催するという驚くべき方針を取っている。本来、国大協は国立大学の将来に責任を持つ主体であるはずである。法案が国会で議論されている時に、国大協執行部は、当事者たる国大協が自らの考えを国民と国会に明確にしないままであるという現状をどう考えるのか。今まさに国大協の鼎の軽重が問われていると言わねばならない。このような決定的な時期に、真剣な議論を重ねることなく不誠実な対応に終始するなら、国立大学は将来にわたって国民の信頼を得ることはできないであろう。定例総会における真摯な対応を求める所以である。

 
【資料】

  文書A:加除修正形式回答

    文書B:意見書形式回答