独行法反対首都圏ネットワーク


5/21設置形態検討特別委員会への要望書
2001.5.21 [he-forum 1946] 5/21設置形態検討特別委員会への要望書


                         2001年5月21日


国立大学協会

設置形態検討特別委員会 殿

 本日5月21日に開催される貴委員会において「中間まとめ案」を取りまとめると聞いております。5月7日専門委員会連絡会議の原案「国立大学法人化の枠組(検討案)」には長期的展望はなく、独立行政法人制度を微調整する詳細が多数書き込まれており、しかも、文部科学省や財界の意向を数多く取り込んでおり、大学独自の価値観を感じさせるものは序文の一部を除いてほとんど見いだすことができません。
  検討の大前提となる独立行政法人制度の持続性は、5月11日の小泉首相の発言を契機として期待できなくなりました。5月12日に文部科学省が民営化の検討を始めたという報道(1)があり、それを訂正するかのように行われた5月18日の文部科学大臣の記者会見(2)でも、独立行政法人化を優先する趣旨の発言に留まり、独立行政法人化後の民営化・公営化の可能性を否定したものではありませんでした。
  貴委員会の「中間まとめ」はこのような状況の変化に対応できるものとなっていません。法人化に関する中間まとめ案の決定を中断し、以下の作業を優先することを要望します。


【要望】国立大学の民営化・地方移管化が高等教育・学術研究体制に与える長期的影響について、総合的な調査検討を実施し、国立大学の民営化・地方移管化政策の意味・予想される影響について日本社会全体に向け説明すること。


【説明】政府が、独立行政法人化後に民営化・地方移管化の検討を始める意図があることが、公的に明確になったことにより、6月の国立大学協会総会の時点から、合意事項の前提となったことが大きく変化しました(註1)。状況がここに至っては、長期的展望なしに単に定員削減回避・民営化回避一途に進めてきた貴委員会の議論は、高等教育・学術政策体制の将来を左右する決定の準備として無効なものとなったことは明らかです。


  国立大学の民営化・地方移管化が日本の高等教育・学術研究体制にもたらす打撃は、同様の施策を断行したニュージーランドの例(3)を考えれば、想像を絶するものがあります。独立行政法人化後に(あるいは、独立行政法人化の具体的作業の過程で)民営化・地方移管化の検討が浮上する高い可能性があることが明らかになった今、独立行政法人化を容認する前にしなければならないことがあります。早急に、ニュージーランドの国立大学法人化が何をもたらしたかを国立大学協会として総合的に調査検討すると共に、日本社会に対し、国立大学民営化・地方移管化が日本社会と多くの人々に与えると予測される多様な影響について詳しく説明することです。それは、大学に求められているアカウンタビリティーの中でも最も重要な部類に属するものであると考えます。


  また、貴委員会での検討の中で民営化回避が最優先事項の一つとなっていますが、独立行政法人制度では民営化・地方移管化の検討が定期的に行われます。国立大学の民営化に反対しながら、なし崩し的な民営化を可能とする設置形態への変化を容認することは整合性に欠けており、学問と教育の場を代表する国立大学協会としてふさわしくないものと思います。


 なお、国立大学協会が独立行政法人化調査検討会議参加を決めて以降の、文部科学省の方針の変更には目に余るものがあります。特に長期的に高等教育・学術体制に関する政策を論じる場を設ける点が反古にされたことは象徴的なものです(註2)。長期的指針を欠く文部科学省に追随する議論を止め、貴委員会の設置目的(0)を尊重し、長期的展望に立った適切な決断に向けた準備を進められることを一国立大学教員として強く要望します。
辻下 徹


北海道大学大学院理学研究科

〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
TEL and FAX 011-706-3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst


(註1)5月11日の参議院本会議で首相が国立大学の民営化・地方 移管化の視点の重要性に言及した後、12日にNHKニュース速報(1)が、文部科学省が民営化についても具体的な検討を始めたと報じ、18日の文部科学大臣記者会見(2)では、今は独立行政法人化を優先させるという趣旨の発言に留め、独立行政法人化後の民営化・地方移管化の余地を文部科学省としては否定しておらず、NHKニュース速報の内容を公的に認めたことになった。


(註2)昨年6月の国立大学協会総会合意事項の中で、「4 一国の高等教育政策は,国民,地域社会,人類社会の利益という視点から,長期的な展望のもとに議論されねばならず,それには,国際的動向をもふまえた恒常的な政策決定の機構が必要である。国立大学協会は,この際,科学技術基本計画に対応する学術文化基本計画の策定を課題とする議論の場の設定を強く訴えたい。」は、独立行政法人化問題を超えた唯一の内容であり、しかも、5月26日の文部大臣あいさつの最後にある「国際社会に向けて我が国独自の価値を発信していくために、個々の大学等の枠組みを超えて、我が国の高等教育や学術研究の在るべき姿を長期的な視点から展望し、学問分野のバランスや重点的に振興すべき領域などについて、国全体の視野から議論しうるような場を設けることを考えていきたいと思っております。」に呼応している。高等教育・学術研究政策形成の公的な場の設置への現実的可能性が生じたことが、国立大学協会総会の合意形成に不可欠な役割を果たしたことは明らかである。これに対する文部科学省の対応がわずか3回で廃止された「21世紀の大学を考える懇談会について 」でしかなかったとすれば、国立大学協会を調査検討会議に参加させるためのリップサービスではなかったかという疑念を拭い切れない。


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(0)昨年6月の国立大学協会総会合意事項


「2 教育,研究の質のさらなる向上によって,国民の利益の増進と,地域社会,人類社会の持続可能な発展に貢献することを目指し,その実現にふさわしい国立大学の設置形態を検討するために,副会長を正副委員長とする「設置形態検討特別委員会」を国立大学協会内部に新たに設置し,この委員会を中心に,文部省をはじめ,内外の各方面への政策提言を積極的に行う。」


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(1)NHKニュース速報「国立大学の民営化 検討に着手」[2001-05-12-10:42]http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/nethe1914.htm
 文部科学省は小泉総理大臣の「民間に任せられる仕事は民間に任せていく」という行政改革の方針を受けて、国立大学の民営化についても具体的な検討を始めることになりました。
  文部科学省は全国の九十九の国立大学を国の予算は使いながらも組織からは切り離す、いわゆる独立行政法人に移行する方針を決めていますが、大学関係者からは反対意見も出ています。
  小泉総理大臣はきのうの参議院本会議で、国立大学について「民営化できるところは民営化する。地方に譲れるべきものは地方に譲る。こういう視点が大事だ」と述べ、組織だけでなく、予算面でも切り離して独立採算で運営する方法も検討すべきだという考えを示しました。
  これを受けて文部科学省では、国立大学を民営化する場合の法律の整備などの検討を始めることになりました。
  国立大学のなかには、少子化で大学間の競争が激しくなることを見越して、大学同士の統合によって運営基盤の強化を模索する動きが出ていて、今後、こうした課題と合わせて民営化の議論が行われる見通しです。


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(2) 文部科学大臣5/18記者会見


○読売新聞ニュース速報[2001-05-18-18:01]

首相の国立大民営化発言は一般論…文科相が見解
「遠山文部科学相は18日の記者会見で、小泉首相が14日の衆院予算委員会で国立大学の民営化に言及したことについて「『民間でできることは民間で、地方に移せるものは地方に』という一般論として話したと思う。今は国立大学の独立行政法人化が鋭意検討されている」と述べた。これは、2003年度をめどに導入する方向で調整を進めている独立行政法人化を優先させる考えを示したものだ。


○共同通信ニュース速報[2001-05-18-10:41]

「国立大民営化」は一般論 文部科学相
「遠山敦子文部科学相は十八日、閣議後の会見で、小泉純一郎首相が参院本会議で国立大学の民営化に「賛成だ」と発言したことについて「民間でできることは民間で、地方に移せるものは地方にという一般論でおっしゃった。(改革に)聖域はないということとのかかわりでお話になったと思う」と述べ、あくまでも一般論との見方を強調した。
 その上で「国立大の独立行政法人の問題は検討会議で検討しているので、私としてはその結果を待ちたい」と、文部科学省としては独立行政法人化を進める考えを示した。(了)」
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(3)独立行政法人国立環境研究所長 大井 玄/東京大学教授 大塚 柳太郎

「 ニュ−ジ−ランドの行政改革と高等教育および科学研究への影響予備調査
報告」http://www.ac-net.org/doc/00c/nz.shtml


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