緊 急 声 明

 「第1常置委員会アンケート」=「特例措置1月政治決着」への準備を各大学学長は拒否すべきである 

1999年12月1日
独立行政法人反対首都圏ネットワーク事務局


1.「第1常置委員会アンケート」は「特例措置1月政治決着」強行のために仕組まれたスケジュールの一環

 国立大学協会(国大協)第1常置委員会は、各大学長に対して、“国立大学の独立行政法人化が行われる事態になった場合、大学の特性からどうしても譲歩できない点を2点程に絞り、12月2日頃までに提出するよう依頼文書(以下、「第1常置委員会アンケート」と略す)を発送した。このアンケートは12月上旬に開かれる第1常置委員会で意見集約として整理されることになっている。
 しかし、これは現時点での意見分布を調べるというような単純なものではない。12月17日頃に行われる国大協執行部と文部省との特例措置に関する協議、来年1月のセンター試験直後に開催される国大協臨時総会、というスケジュールが既に設定されていることをみれば、この「第1常置委員会アンケート」の実施が、“特例措置等の具体的な方向について、国立大学協会をはじめ関係者の意見を聴きながら検討を進め、平成12年度のできるだけ早い時期までには結論を得たい”(11月18日国立大学長懇談会における佐々木文部省高等教育局長)という文部省スケジュールにあわせたものであることは明白であろう。即ち、これは文部省とタイアップして早期に特例措置問題での妥協を図ろうとする国大協執行部の「1月政治決着路線」の一環なのである。


2.「第1常置委員会アンケート」は何をもたらすか

 そもそもこの「第1常置委員会アンケート」なるものの実施は、各大学さらには全国理学部長会議のような大学横断組織から出されている独立行政法人化への反対・疑念・懸念の声、6月と11月の2度にわたる国大協定期総会と9月の臨時総会での議論の流れから見て、明らかに異常である。周知のように、この間、提出された議論は、独立行政法人の根本に関わる問題である。11月定例総会においても“国立大学の独立行政法人化が行われる事態になった場合、大学の特性からどうしても譲歩できない点は何か”というような「条件闘争」の議論がなされている訳ではないにもかかわらず、総会後になって突然、しかも依頼後わずか1週間で回答せよという依頼がなされている。しかも、各大学における議論に時間を保証しない異例のアンケートなのである。
 こうした異常・異例なアンケート依頼の背景にあるのは、先に示したような国大協執行部の「1月政治決着路線」である。すなわち、“「さまざまな反応のすべてにこたえるべきではない。研究や教育の水準を高めるようないくつもの保障を打ち出すことが必要だ」として、主要な問題に限って早急に検討を進める”という11月18日国大協総会後の記者会見における蓮實会長発言(『東京新聞』11月19日)に見られるように、独立行政法人に対する全面的な批判を回避し、問題を限定した上で、なおかつ若干の「緩和措置」による妥協を行うとするものである。
 だが、この路線は、9月7日の第1常置委員会中間報告が文部省に取り込まれ、何ら現実的保証のない「特例措置」という形で9月20日の文部省「検討の方向」の中に出現したことの繰り返しである。国大協執行部がそれを反省せず同じ誤りを犯すとすればあまりに無責任であるし、知っていて今回の「第1常置委員会アンケート」を実施するのであれば、それは全国の国立大学に対する裏切りであるという謗りを免れまい。


3.11.18蓮實会長談話にみる論理的混乱と妥協開始の合理化

 国大協執行部による「1月政治決着路線」の基礎は蓮實会長談話(以下、「談話」)によって表現されている。この「談話」を特徴付けるものは、論理的混乱と妥協開始合理化のまわりくどい表現である。
 まず論理的混乱をいくつか指摘しておこう。「設計図の不備」を指摘することが「問題の所在を隠蔽する振る舞い」としているが、これは混乱というより倒錯したと言うべき議論である。また、「設計図の不備に対する肯定や否定の表明」という表現があるが、「設計図の不備に対する肯定」など論理的にありえない。設計図が不備であるならば、その否定しかない。実際、「談話」でも、「設計図としての通則法の問題点が明らかになった」と述べている。否定しているのである。しかも、これを理由にして、「事態は賛成反対をとなえる以前の段階にとどまっている」と言うに至っては、倒錯も極まれりである。「設計図の不備」が明らかになった以上、通則法による独立行政法人化を拒否し、議論を白紙に戻すことを要求するのが論理の帰結と言うべきである。

 だが、問題は「談話」の政治的本質にある。
 第1に、『東京新聞』11月19日付報道の見出しがいみじくも指摘しているように、「談話」の中心は、「国立大独法化賛否表明せず」なのである。先に指摘した論理的混乱は、実は、この「賛否表明せず」方針を合理化するために発生している。
 第2に、独立行政法人化を強要する文部省との妥協へのゴーサインを含んでいることである。例えば、「設計図の不備に対する肯定や否定の表明など、二義的な意味しか持ちえない」として、独立行政法人化の本質的議論を避け、誰もが口の上では反対しない財政環境の改善にすべての議論を流し込もうとしている。その上で、賛否を表明しないで、「文部省をはじめ関係省庁等との真摯な意見交換が行われねばならないのは当然」とすることによって、国大協としての反対態度を事実上棚上げし、文部省との妥協をはかることを合理化しているのである。


4.「第1常置委員会アンケート」による「1月政治決着」路線の準備を拒否すべきである

 国立大学の独立行政法人化を危惧する声は、かってない規模で拡がっている。全国の大学教職員組合をはじめ、32大学理学部長会議の声明、教官有志や教授会での声明・決議も幾多にのぼる。また、吉川学術会議会長や、学長クラスでも数人の方々が公式に危惧を表明している。今、「第1常置委員会アンケート」に答えることは、こうした広範な疑念の声を無視し、文部省の用意する条件闘争へと落ち込むことに他ならない。結局、大学を基本的に通則法が貫徹する下に押し込めることを意味する。文部省の企図する「特例措置」すらその実現の保証は全くない。
 国立大学の独立行政法人化は、通則法の下での中期目標−中期計画−評価−措置と改廃勧告、文部科学大臣による学長任命、学長による教職員の任命、企業会計原則による財務運営というシステム自体が、大学の学問研究と高等教育に致命的な打撃を与え、国立大学のみならず公私立大学を含めた日本の大学制度全体の根本的転換と再編を強力に促し、減量化と効率化の推進によって、とりわけ地方にある諸大学の存立を危うくし、地方分権と高等教育の機会均等を揺るがす。日本社会の今後に大きく影響する。
 先の「談話」でも、高等教育総体の変革について、「そのための設計図はいまだ描かれてさえおらず、真の問題は、まさにそこにある」と述べている。ならば、国大協執行部のなすべきことは、国立大学の独法化の問題点を指摘し、これへの反対を表明し、国立大学制度の社会的意義を積極的に開陳し、然る上で、大学の変革の議論を提起することである。このための国民的な議論を起こすべくあらゆる行動をとることである。
 大学は、己の存立が問われている今、自らの心底からの声を発しなければならない。その声が人々の耳を傾けさせ、心に届く時、理不尽極まりない独立行政法人化を打破することができるであろう。
 国大協が、「その社会的、国際的な役割にふさわしい真の変革の実現を強く望んでいる」(「談話」)ならば、もはや崩壊した9.20文部省案に助け舟を出すような「1月政治決着路線」をとるべきではない。

【資料】首都圏ネットワークの国大協総会への要望書



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