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《『行革推進法案』関連情報》No.16=2006年4月11日

     国立大学人件費5%削減に関する国会での質疑について

              国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

1. はじめに

 「行政改革推進法案」による人件費5%削減の国立大学への適用について、
2006年2月24日の衆議院文部科学委員会、および4月7日の衆議院行政改革特別委
員会において質疑が行われた。質問者はいずれも石井郁子議員である。本来、
国立大学法人法案を審議した国会は、自らの責任において決定した法案の主旨、
附帯決議等の実施状況について繰り返し検討を行う義務を負っている。にもか
かわらず、国立大学にかかわる重大問題に関して両委員会における議論が極め
て貧弱であることは甚だ遺憾であると言う他はない。しかしながら、両委員会
での答弁の中に現在の政府の考え方が示されていると思われるので、簡単に紹
介したい。なお、「 」内は要旨であり、発言を完全に再現したものではない。
詳細は会議録(現時点では2月24日分のみ公開:
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm)や委員会の
実況ビデオ(http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.cfm)を参照していただきた
い。

2. 2月24日の文部科学委員会

 2月24日の文部科学委員会においては、石井議員からの、国立大学法人法の審
議の際に、「定数管理も自由になるんだ、国家公務員の定員削減の対象にはな
らない、これは政府答弁だったと思いますが、それには変わりはないでしょう
か」という質問がされ、これに対し、政府参考人の石川高等教育局長から「国
立大学法人の法人化後の定員等の考え方の御質問でございますけれども、法人
化後の国立大学法人の教職員につきましては、行政機関の職員の定員に関する
法律、こういったものの適用対象外となりますので、国立大学法人については
国の定員削減計画の対象とはなっておらないわけでございます。こういったこ
とから、各国立大学法人におきましては、それぞれの中期目標、中期計画に掲
げる事業の遂行に必要な人員管理を適切に行っていくということになるわけで
ございまして、このことにつきましては現在においても変わりはないものでご
ざいます」と答弁を行っている。

 その上で石井議員は、2月2日に文科省が各国立大学に示した『総人件費改革
の実行計画に関する情報提供について』という文書について、「情報提供など
という体裁をとっているけれども、2月中に中期目標、中期計画を書きかえて文
部科学省に提出せよ、こういう文書ではありませんか」と先の答弁との矛盾を
追及している。(文科省からの同情報については本事務局の《『行革推進法案』
関連情報》No.8=2006年2月3日「2月2日付「情報提供」にみる文科省の姑息な
態度」http://www.shutoken-net.jp/2006/02/060203_6jimukyoku.htmlを参照の
こと)。

 これに対して、石川高等教育局長は、「これらの文書につきましては、総人
件費改革に関しまして、各国立大学法人が自主的な検討に資するための必要な
情報につきまして、各法人からの要望にこたえるために、その時点での政府部
内である程度方向性が定まった事項につきまして、各法人にできるだけ早くお
知らせしようということでお出ししたものでございまして、したがいまして各
法人の取り組み等を強制するような趣旨のものではございません」と答弁して
いる。

 石井議員からのさらなる追及に対しては、「今回の人件費改革といいましょ
うか、昨年の12月24日、行政改革の重要方針といったようなものが閣議決定さ
れておるわけでございまして、今回のこの閣議決定の趣旨は、簡素で効率的な
政府を実現ということで、独立行政法人であります国立大学法人を含めました
公的部門全体のスリム化を図る、こういった趣旨でございまして、国立大学法
人につきましてもしかるべき対応が求められているところでございます。こう
いった方針の中で、国立大学に対しましても、そういった方向で検討していく、
そしてまた対応していただくということが期待されているものでございます」
と、国立大学法人においても対応の必要があると答えている。

 このように、2月24日の質疑においては、「国立大学法人は国の定員削減計画
の対象にははいっていないが、行政改革の重要方針の閣議決定での要請に対し
てはしかるべき対応が求められている」というのが文科省の答弁であった。

3. 4月7日衆議院行政改革特別委員会での質疑

 4月7日の衆議院行政改革特別委員会においても石井議員は引き続きこの問題
を取り上げている。石井議員からの「国立大学法人が人件費削減は不可能で取
り組まないとする場合はどのようになるのか」との質問に対して、中馬規制改
革担当大臣は、「罰則規程はないが国を挙げての方針であり、取り組むよう強
く要請する」と答え、人件費削減は義務であるとの見解を示した。

 石井議員からの「評価という一種のペナルティもあり、定員削減の押し付け
である。法人化によって定員削減の枠からはずされ、定員管理が自由になると
した法人法審議の際の政府答弁と矛盾しているのではないか」との質問に対し
ては、中馬大臣は「文部科学大臣の関与できる範囲内であり、国立大学法人法
の趣旨に抵触しない。人員数や給与水準の具体的な取り組みは各法人が実情に
応じて選択することができるので、人員削減を押し付けているものではない。
用務関係や直接研究に関与していない職員をアウトソーシングするなどして研
究者を手厚くすることも可能である」と述べた。

 石井議員は「国立大学においては既に9次にわたる定員削減で職員の削減は限
界で教員の削減に手をつけざるをえない状況である」と述べ、3月15日に放映さ
れたNHKクローズアップ現代「大学大競争時代〜生き残りをかけた戦い〜」を例
に挙げて国立大学の実態を示した。

 これに対して馳文部科学副大臣は、「クローズアップ現代のビデオを2回見て
寄付金を集められない地方の大学の厳しい状況など複雑な思いを持った」と述
べた。また、「国立大学法人の定員は国が管理するものではなく、基本的には
各国立大学法人の経営陣の判断によるものである」との見解を示した。

 石井議員は「外部資金の導入ができなければ予算のしばりがあるので定員を
削減せざるをえない状況に追い込まれる。教員養成系の大学など、定員を減ら
すと基準に満たされなくなる大学が出てくることもある」と追及した。

 これに対し、参考人の石川高等教育局長は「小規模の大学においては退職者
不補充や一人当たりの賃金水準などによって対応している。各大学では設置基
準を割り込むことのないよう対応していると理解している」と述べた。

 石井議員は、北海道大学では平成16年度から18年度までの19億円の運営費交
付金削減に対応して職種別に削減計画を作り、教員も平成18年度で98名削減と
なっている例をあげ、このような異常な事態をどのように捉えるのかを政府に
質した。

 中馬大臣は、所管でないので個別大学の問題については答弁できないとした
上で、「日本の人口減少、少子化が進み数年後に大学全入といわれる中で教員
数削減も対象になりうるだろう」と述べた。また、「大学の様々な職種の中で
車の運転手などアウトソーシング可能な部分もあり、必ずしも教員を削減しな
くても柔軟に対応できるのではないか」と繰り返し述べた。

 石井議員は「事務系技術系職員はすでに削減され、大学という性質上簡単に
アウトソーシングできる状況ではなく、やむなく教員に手をつけざるをえない
状況である」と反論した。さらに、運営費交付金削減によって学部ひとつの支
出に見合う経費削減を迫られているような実態を示した。

 馳副大臣は「文科省は現状把握しており、苦しい実態も聞いている。中期計
画・目標については各大学の意見を尊重しているし、特別研究教育経費の増額
にも取り組んで各大学の意欲的取り組みは下支えしている。質問も理解できる
が文科省としては大学を充実させている」と述べた。

 石井議員は「中期計画の途中で出てきた5%人件費削減によって書き換えさせ
られており、大学の自主性とはいえない。従来以上の国立大学の教育研究の充
実を求めている国会の付帯決議が守られていない」と指摘した。

 中馬大臣は「人件費を強制的に削れとはいっておらず、削減を基本とすると
している」と述べた。

 石井議員からの5%削減に見合う国立大学の人件費削減の総額の質問に対して、
石川局長から「国立大学全体の人件費は一兆円程度であり、5%は500億円にあた
る」と述べた。それを受けて中馬大臣は「今回の行政改革推進法案において聖
域はなく、国立大学法人にも対象となる。具体的な取り組みについては実情に
応じて最適な方法を採用できるので、自主的自立的に対応してもらいたい」と
答えた。

 石井議員は「この500億円は10億円規模の小規模な国立大学18大学の運営費交
付金の総額にあたる」と述べ、「行革の名による大学つぶしである」と指摘し
た。

 中馬大臣は「日本全体の効率化、民間移転の流れの中で大学も例外ではない。
定員割れの大学もできはじめている中で聖域のように守らなくてはいけないと
いうものではないのではないか」と述べた。

 石井議員は大臣の姿勢を批判するとともに、「運営費交付金1%削減を廃止す
るとともに、人件費削減もやめるべきである」と述べた。

 馳副大臣は「法人化には積極的な面もある。一方、非常勤講師の削減や期待
していたカリキュラムができないという実態には心が痛む。しかし、各大学経
営陣の取り組みを期待し支援したい」と述べた。

 中馬大臣は「法人化で増した自由度を生かして、時代に合わせた効率的な人
材育成を行ってほしい」と述べた。

 石井議員は「大学の自由度は増すどころかきゅうくつになっている。今回の
方針は大学のみならず日本の発展にとってマイナスである」と述べ、質問を終
えた。

4. 政府の中での姿勢の相違

 以上、質疑の詳細を述べたが、政府の姿勢は、中馬大臣の発言に明確に現れ
ているように、「少子化」や「定員割れ」「大学全入」というようなキーワー
ドを使って現在の国立大学全てを守るという考えを否定するものである。一方
で馳文部科学副大臣はそのようなキーワードを持ち出さなかった。また、同副
大臣の答弁には、外部資金獲得が難しい地方大学の問題などについて文科省サ
イドとしても悩んでいる様子もみえる。このように政府と文科省の姿勢は微妙
に異なっているように思われる。この点は今後注意深く見守る必要があろう。

 なお、石川高等教育局長は、5%人件費削減の総額として、国立大学の人件費
総額が1兆円、その5%で500億円という数字を挙げたが、文科省が公表した平成
16年度の国立大学の財務諸表の損益計算表によれば
(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/08/05090601/002.htm参照)、人件
費総額は1兆3051億円であり、その5%は675億円となる。この数字の違いが何を
意味するかについても注目しておきたい。

以上