独行法反対首都圏ネットワーク

「学際的基幹大学としての新潟大学」下(上はこちら
(1999.11.10 [he-forum 333] 「学際的基幹大学としての新潟大学」文書 下)

「学際的基幹大学としての新潟大学」文書 下
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I−3 新潟大学は「地域拠点大学」一新潟大学の占める地域的地位
(1) 「地域拠点」総合大学への道
 では新潟大学は,いかなるロケーシヨン的状況をもっているのか。すなわち、端的に述べて,いかなる意味で、「地域拠点」性をもつ資格があるのか,あるいは,ないのか。少なくとも,新潟大学が, 「地域拠点」性をもとうとすれば.次に列挙する程度の県・地区における,国立、公立,私立の各大学の各学部の高等教育・研究の高度化の受け皿としての「拠点」大学としての体制を整える必要があろう。→ 戦前の「北陸帝国大学」構想,あるいは,戦争直後の「北日本総合大学」構想(参照,「新潟大学25年史 総合編』)の再版。

北陸 ・新潟,富山,
中部 ・長野,山梨,
東北 ・福島,山形、岩手,秋田,青森,
北関東・群馬,栃木,

(2) 新潟県の将来性
 新潟大学の「地域拠点」性を考えるに際して,参考になるのは,通産省産業構造審議会地域経済部会が,1998年5月20日に発表した「地域経済ランキング」による新潟県の位置づけである。それによれば.新潟県は,「産業実勢が高く(B),将来に向けての潜在力がある(A)」と評価されている。この推計にも表現されたように,新潟県および新潟大学の「地域的拠点」としての立地条件は,十分なものがある。もちろん、教育・研究は,経済的な背景のみによって支えられるものではない。しかし,今日の社会と密接な関連をもって行われる教育と研究について,このような経済的な「地域拠点」性をもつことは、高度の教育と研究についての「地域拠点」性をもつことに,非常に有利な条件であることは間
違いない。

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表3 地域経済ランキング(新潟日報1998.5.31)【引用者注:原図の枠を取り組み立て直した】
県名(産業実勢、産業将来性)の順に記す
新潟(A、B)、北海道(B、B)、青森(D、B)、岩手(C、D)、宮城(B、A)、秋田(E、D)、山形(C、B)、福島(C、A)、栃木(C、C)、群馬(B、C)、富山(C、C)、石川(C、B)、福井(D、A)、山梨(E、C)、長野(B、C)
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I―4 「学際的基幹大学」の意味

(1) 柔軟な学部組織と柔軟な大学院組織構想による「学際的基幹大学」構想《略》

(2)過渡期としての独立専攻の構想《略》

(3)教員養成系の将来像《略》

(4)特化された大学院(プロフェショナル・スクール)の可能性
 教育養成系について語った「特化」された大学院は, この度の『答申」において,大学院について, 「重点化」とともに強調されているポイントである。もちろん. この際に、研究科の内容の連いも考慮にいれるべきであろう。そこでは,人文社会科学系の大学院について,これからの社会的意義づけとして, 「特化J大学院が,強調されている。『答申』 (66頁以下)に語られる, 「特化された大学院」は,研究者の養成を意図した,従来のグラジュエイト・スクールと,基本的に異なるものとして構想されている。それは,基本的には, 「経営管理,法律実務, ファイナンス,国際開発・協力,公共政策、公衆衛生などの分野」にかかわる。これらの列挙からも明らかなように,公衆衛生関係を除くと、圧倒的に社会科学系に偏つて考えられている(参照, この問題についての特集を組む、lDE.No.402,1998/11.の説明もそうである)。「高度の職業人の養成」を念頭においたプロフェシヨナル・
スクールであるとされる, このような形の大学院(修士・前期課程)を念頭においた場合・現在,わが新潟大学において実現可能なものは,ロー・スクールやビジネス・スクール,あるいは,国際開発・協カコースであろう。もちろん,上述のように教員養成系の修士課程についても,この形の大学院が実現可能とであろう。

(5)「9年間一貫教育」の意味一大学と社会との循環一上記の将来計画において語られる「9年間一貫教育」は,必ずしも,18歳入学以来,27歳まで一貫して大学に在籍しなければならないという趣旨ではない。すなわち、「9 年間教育」というのは,理想的な形でのものであり, 4年間で一応修了して,社会に出る(「学士課程」を修了して「学士」として)ということも, 6年間で修了して、社会に出る(「修士課程」を修了して「修士」として)ということも,十分にありうる。すなわち,途中下車可能なシステムである。ただ。 この場合,すなわち,事情によつては, 4年閲,あるいは, 6年間で,それぞれの課程を修了後に,社会に出て働き,その後,また大学にもどってきて,勉学をつづけるという意味・可能性を合意している。もともと・生涯にわたる「大学と社会の循環サーキュレーション」を主
張している新潟大学としては、社会と大学とが交互に交錯するこの形が,あるいは,将来の学生像として,通常の形かとも考えている。したがつて,上記の「9年間一貫教育Jとは,最終的に,通算して9年間で,ひとつの教育、研究の学業システムが完結するという意味である。

(6)学部教育と大学院教育とはクロスオーバーさせること将来的には、学部学生は,いずれの学部からも、いずれの大学院への進学も可能ということを原則とすることが理想的であろう。そのことにより,学生の適性の判定に余裕がもたれ,人生の進路の選択に、より適切な選択が保障される。また機構的にも、学部の基礎教育性が強調され、学部と研究科との任務がより明確にされるからである。この際に、 『答申』 (第2章1−1)―■)の語る教養教育の重視に対応するために,基礎教育,すなわち,教養教育+専門基礎教育を学部レベルにおいて徹底的に実施、この課程における授業科目を、「リベラル・アーツ的なもの」(『答申』)として構成し、学部を「学士課程」として明確化する。(参照,戸田修三「日本におけるプロフェッショナル・スクールの可能性一大学審議会大学院部会の議論を契機として一」 lDE.No.402.1998/11.13頁)このことにより,大学審議会『答申」に言う。教養教育の
重視と、専門基礎教育と専門教育との有機的連関を考えるべきという提案に即応てきる。

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表4  学際的基幹大学としての新潟大学への展開
表4−I  現在の新潟大学の機構 1998年11月現在表4−II  新潟大学の短期的将来構想
表4−III  新潟大学の中長期的将来構想《略》
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(7) 学部の学生定員の圧縮と大学院の学生定員への振替
■ 表4−IIIの中長期構想の実現過程において、単純に既存の学部の学生定数を加算するのではなく、学部の学生定員を圧縮して,大学院の学生定員を拡大することが必要である。何故なら,現状においては.教員定員の純粋増加というものは困難である。にもかかわらず、大学院の学生定員を増加させることは.教育指導において,かなりの負担増となる。その点よりしても,研究の高度化や教育の深化に対応して,より細やかな指導が可能になるためにも,学部の学生定員の大学院の学生定員への振替の処置が是非必要である。とりわけ. このことは, 『答申」 (第1章3−(2))においてもぃ人文社会科学系は,大学院充実に際して,修士課程を中心とし,その際に学部の縮小を想定すべきことと,上記の方向が示唆されている。例えば、人文社会科学系については,学部学生定員5人:1大学院学生定員1人,
自然科学系については, 3人:1人、生命科学系については, 2人:1人として想定して計算してみるなどの思考実験が必要となろう。

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表5 現状:地域拠点として新潟地区の担当するべき学生定員総数
 山形、秋田、福島、群馬、宇都宮、信州の各大学の、学部、修士、博士の学生定員を総和し、これに新潟大学の定員を加えて、「地域拠点として新潟地区の担当するべき学生定員総数」としている。《表は略す》
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■〈地域拠点という観点から学生定員を想定する 〉「地域拠点としての新潟大学」という観点から考える限り,新潟大学のみの学生数ではなく,当該地域における受け皿として,地域全体の学生定員を考える必要がある(想定数字は,本報告書では省略した)。その場合、地域内の国立大学のみではなく、当該地域内の公立大学や私立大学をも視野に入れて,その受け皿として,新潟大学の各分野の学生定員を算定すべきであろう。その際に, 「地域拠点」大学として構想するために,当該地域の各大学よりの,新潟大学の各大学院への受入れ学生定員枠を,できるだけ適正に拡大しておくことが必要となろう。

■ 当該地域における傾向として。ここには,理学・農学系の私立大学は,零であり,文学・法学・経済学系の学部・大学、 しかも、大学院をもたない大学が,圧倒的に多い。これに比べて,医学系・歯学系は,当該地域においても、私立大学も自前で、大学院博士課程までもつのが常識的である。

■ 上記の表5において,何故,当該の地区が選択されたかというと、(1)ひとつは,地域拠点として選択され、存続される大学の規模が,あまりに違わなくするために,旧帝国大学であったところには、できるだけ合併をさせず,それ以外のところに吸収合併をさせるための処置であるためと,(2)ひとつの目安として・新潟大学法学部への過去4年間(1995年度〜1998年度)の入学者の割合をみたためである。もちろん.これは,あくまでも法学部における傾向であり,学部によって異なりうる。しかし,ひとつの傾向を示すものとして,いわばインデックスとして使用し,山形、秋田,福島,群馬,長野,それに地域的な理由から栃木における学生・大学院生を,新潟大学が地域拠点として引き受けると考えてみた。一口で言えば,仙台地域と首都圏とを除く「東北関甲信越」地域である。

■このような状況を前提にして,まず生命科学系にも, これまでの博士(4年制)課程とは異なり、大学院修士課程止まりの可能性を作りだすことが必要であろう。

I−5 新潟大学の目指すべき道

 以上より,わが国に現存する50の「総合大学」の中で,大学院大学型(T型)を含みながらも,全体としては,基幹大学型(A型)において将来を構想することが、新潟大学の緊急の課題となる。

(1) 新潟大学の現状に対する自己評価
 当初.独立の博士課程として設置された自然科学研究科は,1995年4月に,理学研究科,工学研究科、農学研究科の各修士課程を吸収統合し,3の基礎学部から独立した研究科独自の教員組織も確立し, 5年間一貫教育を実施できる,学際的な区分制博士課程として完成された。1995年4月に開投された人文社会科学系の独立の博士課程である現代社会文化研究科も,自然科学研究科の先例に倣って、現在,人文科学研究科、法学研究科、経済学研究科の各修士課程を統合する区分制大学院化を追求している。ただし,現状では,その区分制化ヘの方向づけは,未だ遅々たるものであり,現段階において、将来構想委員会を設置し、検討を開始したという状況にあり,その区分制化への努力の立ち遅れを自認せざるをえない。現代社会文化研究科の区分制化への第一歩として,博士課程を支える既存の修士課程を強化するために,1998年度には,人文科学研究科に、新たに「情報文化専攻」が設置され,1999年度に,法学研究科に「法政コミュニケーション専攻」が、経済学研究科に「経営学専攻」が新たに設置される。伝統的な形をもつ医学研究科(博士課程)においても,腎研究施設を中心にしての独立専攻系の設置計画などをテコに、同じく,歯学研究科(博士課程)においても,歯学研究科改編との絡みの中で独立専攻系を構築し, ともに全国の医学・歯学教育改革の動向を見ながら,現代に即応した形への再編成を意図している。これらの研究料の充実を背景に。上記の「柔軟な学部組織十柔軟な大学院組織」構想を基礎とする学際的基幹大学としての新潟大学の構想が,21世紀に向けて実現の歩を進めている。

(2) 存続を賭けての競争への登場者
 上記に述べた「総合大学」としての資格基準で考えた場合.別表2「国立大学・総合大学 分類表」に示すように,人文社会科学系, 自然科学系・生命科学系の学部,さらにそれぞれの系について、大学院博士課程までをも備えた,一貫教育・研究システムをもち,「地域拠点」+「学際的基幹」という役割を果たすことのできる「総合」大学に相応しいものとして、全国50の大学の中で, とりあえずは,次の合計27大学が,検討の対象となってこよう。

 Aランクに位置する................................................14大学
 Bランク13の内から、山形,信州,愛媛・長崎,熊本,鹿児島・琉球,...7大学
 Cランク15の内から、埼玉,お茶の水,横浜,静岡”奈良女子,.........5大学
Dランク 8の内から、一橋、..........................................1大学,

(3)研究条件と教育環境の保持の問題
 なお注意すべきは,大学存続の問題は,教職員の「生活保障」の問題ではなく、研究者の「研究条件の保障」の問題であり、学生の「教育環境の保全維持」という問題であることを確認しておくべきである。したがって「現状に安住する」 「断回現状を死守する」という態度が,まったく 「安住」にも「死守」にもならず, 「座して死を待つ」にすぎないことを,関係者全員が自覚しておくことが肝要である。



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