独行法反対首都圏ネットワーク

「学際的基幹大学としての新潟大学」上(下はこちら)
(1999.11.10 [he-forum 332] 「学際的基幹大学としての新潟大学」文書 上)

東職の佐々木です。
長い文章ですので、上、下に分けて送信します。

新潟大学構想「学際的基幹大学としての新潟大学」文書について

 以下に紹介するのは、新潟大学が99年1月に公表した「学際的基幹大学としての新潟大学ー日本と地域の未来のためにー」の第I章の抜粋です。全体は6章から成る大部のものですが、この章に、大学当局の問題意識が濃厚に出ているので、紹介します。この新潟大学の構想は、98年6月の大学審議会の「中間まとめ」を受けて、部局長のみによる検討会を設けて議論してきたものをまとめ、公表したものです。直接的には、98年大学審答申に対処する新潟大学の方針ですが、これがそのまま独立行政法人化への対処方針ともなっている点が重要です。一読すれば明らかなように、先頃明るみに出た外語大、一橋大など5大学連合の構想と共通するものが見えます。眼を引くのは、「国立大学の選別必至の状況」という状況認識の下で、戦後新制大学の「1県1大学」原則を否定し、この体制の存続の根拠は、「もはや、著しく乏しい」と断じ、「存続をかけての競争」において、仙台地域と首都圏を除く「東北関東甲信越」地域に覇を唱え、戦前の「北陸帝国大学」構想の再版を夢見ていることです。大学審答申への殆ど無批判なすり寄りの中で、ひたすら自己の生き残りを策しており、従って、独立行政法人化問題へも同様のスタンスを必然的に取るに至るでしょう。このような問題意識において、大学が自己を規定するとすれば、大学は根底において、世界における問題の発見者であり、批判者である本質的存在を自ら投げ捨てるに等しい。ここに紹介するとともに、分析と批判を呼びかけたい。なお、全文は、東京大学職員組合にあります。入手希望の方は(500円切手同封で)御連絡下さい。

目次

「学際的基幹大学としての新潟大学一日本と地域の未来のために一」
(21世紀を生き抜く新潟大学) 新潟大学長 荒川 正昭

第I章 学際的基幹大学としての新潟大学 一研究教育組織の柔軟な設計―
I−1 20世紀の科学万能思考に対する反省と21世紀への展望

I−2 新潟大学は「総合」大学である
(1)総合性の追求
(2)全国の国立総合大学
(3)「総合大学」の意味
(4)基幹大学型としての新潟大学−総合大学の第一の意味
  表1−I わが国の高等教育機関としての大学・大学院の類別
  表1−II  基幹大学型(A型)の大学・大学院の類別
(5)地域拠点性と学際的基幹性一総合大学の第二の意味
(6)「総合大学」選別の緊急性
  表2 国立大学・総合大学の分類表(1998年4月現在)

I−3 新潟大学は「地域拠点大学」一新潟大学の占める地域的地位
(1) 「地域拠点」総合大学への道
(2) 新潟県の将来性
  表3 地域経済ランキング(新潟日報1998.5.31)

I―4 「学際的基幹大学」の意味
(1) 柔軟な学部組織と柔軟な大学院組織構想による「学際的基幹大学」構想
(2)過渡期としての独立専攻の構想
(3)教員養成系の将来像
(4) 特化された大学院(プロフェショナル・スクール)の可能性
(5)「9年間一貫教育」の意味一大学と社会との循環一
(6)学部教育と大学院教育とはクロスオーバーさせること
  表4  学際的基幹大学としての新潟大学への展開
   表4−I  現在の新潟大学の機構 1998年11月現在
   表4−II  新潟大学の短期的将来構想
   表4−III  新潟大学の中長期的将来構想
(7) 学部の学生定員の圧縮と大学院の学生定員への振替
  表5 現状:地域拠点として新潟地区の担当するべき学生定員総数

I−5 新潟大学の目指すべき道
(1) 新潟大学の現状に対する自己評価
(2)存続を賭けての競争への登場者
(3)研究条件と教育環境の保持の問題
****************
「学際的基幹大学としての新潟大学―日本と地域の未来のために―」
(21世紀を生き抜く新潟大学)1998年12月25日  新潟大学長 荒川 正昭

(前略)
 新潟大学は,人文科学・社会科学, 自然科学・医学・歯学の生命科学,教育科学のすべての分野を包含する9学部. 4博士課程研究科. 4修士課程研究科, 1研究所‐ 2附属病院,および,その他多くの附置研究施設などからなる総合大学であります。このような総合的な組織をもつ大学として,人類と社会の輝かしい未来の幸福のため,優れた人材の育成と学術研究の推進に貢献することを決意し.21世紀において我が国の基斡的な総合大学として,さらに発展することを願っております。本学のこれまで歩いてきた道を振り返り,現状を厳しく見つめますとき、学際的な基幹大学として、また地理的あるいは社会的にみれば,地域拠点大学として,確実な地歩を占めるべき地位にあると考えます。とりわけ,
地域的には、日本海沿岸地域の、唯―最大の総合的な地域拠点大学として、一方では,国際的視野において,朝鮮半島・東北アジア・極東ロシアはもちろんのこと,広く東南アジア、あるいは,欧米圏をも視野に入れた国際拠点大学としての資格をもち、他方では,国内的視野において,新潟を中核としながらも東北関東甲信越という広い地域における.高度の教育と研究を可能とする,唯一の学術拠点として,その存在を確立するに十分な可能性をもっていると考えます。

(後略)

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第I章 学際的基幹大学としての新潟大学 一研究教育組織の柔軟な設計―

I−1  20世紀の科学万能思考に対する反省と21世紀への展望 ―(略)

I−2 新潟大学は「総合」大学である

(1)総合性の追求

《略》

(2)全国の国立総合大学
 現在(1998年10月),国立大学は,全国に99存在する。その内、我々にとつて、とりわけ問題となるのは,新潟大学をも含む、全国で50の,いわゆる「総合大学」である。何故なら,昨今の状況では,その選別が,必至だからである。→その現状については、表2「国立大学・総合大学の分類表」参照

(3) 「総合大学」の意味
 『答申」が語るとおりに,国立大学には,「総合大学」として、わが国の高等教育を指 導し,創造的な研究を開発する役割が期待されている。教育・研究の高度化を求める社会的な要求に対応するために,学際的な研究を可能にする「総合大学Jそのものは,時代の要求の中で,今後ますますその必要性と重要性を増してゆく。しかし,では,その「総合大学」とは,現代においては,いかなる意味をもつものか。そうして,新潟大学は,そのような意味において「総合大学」たりえているのか。これが,まず第一の問題である。

(4)基幹大学型としての新潟大学−総合大学の第一の意味《略》
  表1−Iわが国の高等教育機関としての大学・大学院の類別《略》
  表1−II 基幹大学型(A型)の大学・大学院の類別《略》

(5)地域拠点性と学術的基幹性−総合大学の第二の意味「総合」大学の第二の意味は、現代的なものである。従来のわが国の教育や研究の在り方に対する反省から登場した総合大学の第二の意味は,次の「地域拠点」性と「学際的基幹」性をもつ大学という意味において考えられる。このような従来の大学に対する教育や研究の側面における不満こそが、今回の『答申」による大学へのラディカルな批判の背景をなしていると考えられる。その意味で,この第二の意味の総合大学性こそが,我々の追求しなければならないものであろう。

A く「地域拠点」大学>
 戦後改革期に,新らしい高等教育の基礎的整備にともない.アメリカ型の州立大学に倣って各県に設置された総合大学は、(1)現在の情報手段の高度化や,(2)高速交通手段の発達や利用の容易化,(3)財源の経済的・効率的利用の観点等から考えて「 もはや,その立地条件のみによつては,その存在理由を語ることはできなくなっている。すなわち,現在では,「駅弁大学」 (大宅壮一)の存続の根拠は,著しく乏しい。あえてなお「各県に一大学」の存続を主張するとすれば,それを支える根拠は,おそらくは,現在では、「各県の面子」だけであろう。となると,かつての行政改革における道州制による広域行政圏を推進しようとした考え方と同様に,いくつかの県にまたがり,地域的な特性により,
ある種の統合性をもつ地域をまとめた高等教育。研究(アカデミー)圏を想定することが必要となろう。したがつて,現在における「総合大学」のロケーシヨン的な資格としては.すなわち,総合大学であるための外在的な要件としては. 「地域拠点」たる立地条件をもつことが要求される。
 その「地域拠点」となる資格は,次のようなものである。(1)地域としての,ある種のまとまりをもつことと、(2)日本全体の中での,学問的拠点を配置するに際して地域的バランスをとること,(3)と同時に,国際的・対外的にも,窓□になりうる広がりをもつ機関であることが必要である。すなわち, この「対外的な広がり」ということばには.県や市のさまざまの施設との教育・研究に関する関わりをも考慮することが含まれているとともに, 「国際的な広がり」ということばには,例えば,新潟大学の場合,東北アジア地域における,朝鮮半島,ロシア・中国の大学との学術交流協定:学生交換協定などを基礎にしての,さまざまの研究・教育施設との交流をゃ想定している。(4)さらに。 「地
域拠点」を語るためには.当該大学の,教育的・研究的力量などを考慮して設定されよう。すなわち,有体に言えば,空間的に隣接する.いくつかの大学との 間の力量、力比べにより、「地域拠点」校が設定されて行くであろう。

B <「学際的基幹」大学>
 上記の「地域拠点」性とともに,現在では, 「総合大学」とは、学問内容においては、人文社会科学系, 自然科学系,生命科学系,教育科学系の各分野にわたる教育・研究組織を擁することを必要とする。すなわち,これが, 「総合大学」であるための内在的な要件である。何故なら,そのような各分野が揃ってはじめて,人間・社会を「総合的」に,学問的にいえば、「学際的」に把握できることになるからである。 『答申」が, 『答申・中間まとめ」に対して,新たに冒頭に書き加えた.21世紀の大学の基本的な課題として「知の再構築が求められる時代」(9頁)という表題の下に「幅広い視点から『知』というものを,総合的に把握してゆくことJの必要性を強調しているのも,まさにこのよう
な要請を表現するものであろう。したがつて,「地域拠点」校であるためにも、上記のすべての分野にわたって、当該地域の教育・研究についての高度の要求に十分に応えうるような組織、具体的には,大学院後期・博士課程までをも備えている必要があろう。

(6) 「総合大学」選別の緊急性
 国立大学「 とりわけ, 「総合大学」が選別される必然性と緊急性は,国家財政上の事情にもよる。現在のますます緊縮化される国家財政の中で,なお国家の活力を維持し,国民の福祉を増進するためにも,高等教育の充実と研究の高度化は、一刻も揺るがせにできない。そのために,さなきだに少ない国家財源を,重点的’効率的に配分することが必要であり,国立大学を選別してゆくことは,緊急に必要なことと考えられている。すでに,その傾向は,科学研究費の配分や, COEの配分・重点・拡大化などに頭著に見られるところである。国立大学の「独立行政法人」への転換を求める声も,そのもっとも主要な要因は、 この財源の窮届さによろう。

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表2 国立大学・総合大学の分類表(1998年4月現在):【引用者注:原図の枠を取り組み立て直した】

* 教育科学系(または教員養成系)は.すべての大学(一橋大学を除く)に設置されているため.本表からは除く。( )は,学部数。
A 人文/自然/生命系の学部、(4学部以上),院(DC)ともが, 3分野揃っているもの
B 人文/自然/生命系の学部(4学部以上)は, 3分野揃っているが,院(DC)が3 分野揃っていないもの
C 3分野の内の人文/自然系の学部(3学部以上)があり,生命系のみの学部を欠くもの(当該県には,医科大学として別置)
D その他・ 3分野の内の,人文/自然系のいずれかを欠くもの(欠くものを明示)

A(14校)
 北海道、東北、筑波、東京、千葉、新潟、金沢、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、九州

B(13校)
 弘前 (5)、山形 (6)、群馬 (4)、信州 (8)、岐阜 (5)、三重 (5)、山口(7)、徳島 (5)、愛媛 (6)、長崎 (7)、熊本(7)、鹿児島(8)、琉球(6)

C(15校)
 岩手 (4)、茨城 (5)、宇都宮(4)、埼玉 (5)、お茶の水(3)、横浜 (4)、富山 (4)、静岡 (6)、奈良女子(3)、和歌山(3)、島根 (4)、香川 (4)、高知 (4)、佐賀 (4)、大分 (3)

D(8校)
 秋田(3)(人文)、福島(3)(自然,生命)、一橋(4)(自然,生命)、福井(2 )(人文・生命)、山梨(2)(人文,生命)、滋賀(2)(自然.生命)、鳥取(4 )(人文)、宮崎(3)(人文・生命)

 以上 合計(50校)

その他、 45  医科系13、教育系11(内 新構想3)、工業系(内科学技術2)外国語2、商船2、畜産1,図書館1、芸術1、水産1、体育1、商科1、大学院4

 以上総合計 99

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