若手研究者問題:情報と意見交換
「2011年度概算要求」と若手研究者問題

8月30日に文部科学省から2011年度予算の概算要求が公表された。中期財政フレームのもと、財政立て直しが目標とされているため、文部科学省の予算、とりわけ高等教育、科学振興関連予算の大幅な減額が予想されていた。

国大協をはじめとする国立大学からの要望が効を制したのか、国立大学法人運営費交付金(1兆1,909億円:324億円増)や私立大学等経常費補助(3,329億円:107億円増)と、概算段階では前年度を上回る予算が計上され、科学研究費補助金も100億円が上積みされた。

文部科学省の予算総額も、5兆8,348億円に上り、2,422億円(4.3%)の増額となっている。一部報道では、このような文部科学省の「強気」な予算計上を評価する向きもある。

しかしながらその内訳を見ていくと、おそらく喜ぶのは早計であろう。なぜならば今年度の場合、各省庁から出された概算要求の要望分は、政策コンテストなるコンペによって査定され、最終的に政治判断によって予算額が決定されることになっている。

またシーリングのために、今年度予算から10%の削減が各省庁には求められており、今回の文科省のように予算を増額して要求するためには、従来、「要求」として請求していた予算を削り、「要望」の項目を増加させている。従って、予算項目のどの部分が「要求」で、どの項目が「要望」なのかを、見極める必要がある。

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「新しいテニュア・トラック制」(2)

しかしながらこの「新しいテニュア・トラック制」は、すべての大学、領域が対象となるわけではない。また分野も当面は「新成長戦略」などにおいて投資を集中することになっている「ライフサイエンス」分野での募集が提案されている。なにより、大学・研究機関も受け入れ申請の公募に通じて決定されるために、若手研究者と大学・機関とのマッチングがどのように行われるのか、未知数である。

また4月に発表された「科学技術政策策定の基本方針(素案)」においても、「新しいテニュア・トラック制」が提案されている。ここでは「競争的に選考した若手研究者を、同じく競争的に選考した大学および研究開発機関に配置して人件費と研究費を支給し、後の安定的なポストへの布石とする「新たなテニュア・トラック制」を実施する。」と説明されている。

ここでは旧来からのテニュア・トラック制と合わせた数値目標として「全大学の自然科学系における若手の新規採用教員総数のうち30~50%に相当する人数をテニュア・トラック制とすることを目指す」と、されている。(「科学技術基本政策策定の基本方針(素案)」(平成22年4月28日) p. 22.   http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu90/siryo3-2.pdf)

「全大学の自然科学系」の「新規採用教員総数」の「30~50%」とは、どの程度の数であろうか。文科省による学校基本調査(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001017860&cycode=0)によると自然科学系(理学、工学、農学、保健領域)の40歳以下の教員総数は、3万3642人となっている。

当初は「ライフサイエンス」で試験的に実施されることが提案されている。「保健領域」の40歳以下の教員総数は約2万人。例えばこれを5年間で30%のポストをテニュア・トラックに置き換えるとすると、年間1200人が採用されることになる。

人件費、研究費の総額を一人当たり800万円と単純化して試算すると年96億円の予算が必要となる。これが毎年度倍増していく。運営費交付金など基盤経費が毎年度削減されている現状において、この巨額な資金はどこから捻出されるのであろうか。

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「新しいテニュア・トラック制」(1)

ポストドクター問題、非常勤講師問題に象徴されるように、若手研究者がおかれている現状は不安定なものである。例えば日本学術会議が発表した『日本の展望―学術からの提言2010』では、若手研究者の状況を次のように説明している。

「若手研究者の状況は国際的にも劣悪で、博士号取得後のポスドク1万6千人が将来に大きな不安を抱きつつ「非正規労働者」として低収入に甘んじている。」
(『日本の展望―学術からの提言2010』p.43 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-tsoukai.pdf)

このように若手研究者問題は、専門領域を超えた問題として日本のアカデミア共通の課題として認識されるようになってきた。しかしながら現在、政府支出の大幅な見直しが進められているなか、抜本的な解決策は見いだされていない。

そのような中、注目を浴びているのが「新しいテニュア・トラック制度」である。以下、この「新しいテニュア・トラック制」の概要と問題点について、検討していく。

 

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