| 熊本大学における特定有期雇用職員の正職員化について熊本大学教職員組合執行委員長 伊藤正彦氏 |
| 2010年 7月 17日(土曜日) 21:41 |
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熊本大学における特定有期雇用職員の正職員化について
熊本大学教職員組合執行委員長 伊 藤 正 彦 看護師だけでなく医療技術職員をふくめて正職員化し,特定有期雇用職員という医療職の非正規職員制度を廃止した(パート職員は除く。したがって,2010年度以降,熊本大学医学部附属病院で採用される医療職員は,パート職員を除いて全員が正職員となる)のは,全国の国立大学附属病院において初めてのことである。今回の正職員化は,390名という規模もさることながら,この意味においてこそ画期的な成果といえる。全国的にもマスコミ(共同通信社など)や組合組織(全労連など)から注目を受けたのは,そのためであろう。 この画期的な成果は,どのようにして実現したのか。本報告では,実現に至るまでの取り組みと運動の特徴等を整理するとともに,今後の課題を確認することにしよう。 特定有期雇用職員制度と本格的取り組みに至るまでの経緯 特定有期雇用職員とは,2006年度に創設された医療職の非正規(有期雇用)職員である。月給・賞与については正職員と同等であるが,1年ごとの雇用契約の更新は4回まで(最長の雇用期間は5年)に制限されており,退職金はなく(退職金に代わり任期満了手当――1年ごとに月給0.3ケ月分を支給),介護・育児休暇も正職員の半分に制限されていた。この制度は,非正規職員の形以外では医療職を増員することが困難であった国家公務員時代の定員外職員,法人化当初の有期雇用職員の待遇を改善する制度であるとはいえ,正職員と同等の責務を担う職員を最長雇用期間5年という厳しい雇用条件においたままのものであった。 熊本大学医学部附属病院では,法人化前後から非正規の医療職員(定員外職員,有期雇用職員)が増加し,とくに2007年6月の7:1看護体制実施にともなう増員に際して特定有期雇用職員が急増した(2008年度段階で特定有期雇用職員の看護師は284名にのぼる)。しかし,上述した特定有期雇用職員の厳しい雇用条件は,医療職員の確保が困難となる――多くの優秀な看護師・医療技術職員が他の医療機関に流出し,逆に職員を募集しても十分に集まらない――という事態をまねく結果となった。これは,病院経営上はもちろんのこと,地域の高度先進医療という大学附属病院本来の社会的使命を果たしてゆくことも危ぶまれる深刻な事態である。 熊本大学教職員組合は,特定有期雇用職員制度の創設当初から待遇改善と正職員化の必要性を指摘してきたが,附属病院における人材確保の危機的な状況と,40名を超える特定有期雇用職員の雇い止めが2010年度末(2011年3月末)に迫っていることをうけて,2008年度からは組合の最重要課題に位置付けて雇用期限見直しと正職員化に取り組むことに至った。 運動の特徴 特定有期雇用職員の正職員化実現までの取り組みの全容は,末尾に付した「特定有期雇用職員の雇用期限見直し・正職員化の取り組み等一覧」を参照されたい。ここでは,正職員化を実現するうえで重要であったと考えられる要素ごとに区分して運動の特徴を整理しよう。 特徴の第一は,特定有期雇用職員の雇用期限見直し・正職員化の必要性について附属病院と共通認識を形成したことである。大きな画期となったのは,2009年2月の附属病院長交渉である。この交渉において,附属病院長が高度先進医療機関に適った人材の確保と病院経営の観点から雇用期限見直しの必要性を明確に認め,附属病院からも大学本部に対して雇用期限の見直しを要望すること,ならびに正職員化の可能性を探ることを確約した。この点は,同年5月の附属病院長懇談でも新たな附属病院長が同じ認識をもっていることを確認している。また,2008年度の大学本部との団体交渉では,附属病院長交渉の結果をうけて特定有期雇用職員の雇用期限見直しと正職員化を要求し,人事制度改革検討WGにおいて雇用期限の見直しを検討することを確約させた。 第二は,節目ごとに機敏に運動を展開したことである。とりわけ,2009年7月9日に人事制度改革検討WGが「見直し案」を決定した直後に説明会を開催し,かつ当事者に対する緊急アンケートを実施したことの意義は大きい。アンケートの結果,「見直し案」が示す条件(5年ごとに雇用期限を延長することを可能にするものの,5年の雇用期限は維持され,かつ実質上,毎年勤務評価を受けて1年ずつ更新するもの)で特定有期雇用職員として再契約すると回答した方はわずか18%にとどまり,「見直し案」の内容が人材確保策には値しないこと,人材確保には,雇用期限の撤廃,正職員になれる時期の提示が最低限必要であることが明確となった。これをうけて組合は,7月30日の定期大会で「特定有期雇用職員の雇用期限『見直し案』の再検討を求める特別決議」を採択し,8月5日の団体交渉に臨んだ。この交渉において熊本大学使用者は,組合の要求――特定有期雇用職員の正職員化に必要な退職金積み立ての試算額の提示,3年の雇用契約を結べない根拠の提示など――に何ら答えることができず,「見直し案」を人事制度改革検討WGの継続審議とし,再交渉を行なう結果となった。 こうした運動を支えたのは,7月7日の「学長あいさつ」で附属病院と当事者の意向をふまえて「見直し案」を最終決定することを学長に確認しておいたこととならんで,特定有期雇用職員当事者自らが声をあげたことにほかならない。アンケートは,わずか10日余りの期間であったにもかかわらず,特定有期雇用職員の70%を超える方から回答していただいた。また,8月5日の団体交渉には,特定有期雇用職員の組合員自らが出席し,特定有期雇用職員が正職員と同等の責務を担っていることを使用者に改めて認めさせるとともに,特定有期雇用職員制度のもとでの人材流出によって最も不利益を被るのは地域の人々(患者の方々)にほかならないことを訴えた。この職業倫理に照らした主張の前に,熊本大学使用者は顔をあげることができないままであった。 第三は,2009年度の賃金切り下げ問題について労働協約を締結し,特定有期雇用職員を正職員化できない根拠を喪失させたことである。法人化後2度目となる賃金切り下げについて,組合は賃金切り下げの合理的根拠を明示できない以上,不利益変更の違法性を回避する方途は代償措置を講ずる以外にはないことを明確にしたうえで,特定有期雇用職員の正職員化に備えた退職金の積み立てを組み込んで代償措置を要求した。交渉の結果,“2009年度の給与引き下げによって生じた余剰金(約3憶円)は,人件費として使用することを基本とする”旨の労働協約(2009年11月24日「組合員の給与に関する労働協約」)を締結し,これによって熊本大学使用者が特定有期雇用職員を正職員化できないと言い逃れし得る根拠=正職員化によって必要となる退職金を積み立てる財源がないという理由を根絶させた。 実現の条件――組合の力量の向上と地方切り捨ての社会情勢―― 以上のような運動を可能にした条件は,何よりも,法人化後の新たな労使関係のもとで,組合が職場における存在感と当事者能力を向上させてきたことにある。元来,熊本大学教職員組合は,その時々の労働条件問題はもちろんのこと,大学「改革」や法人化問題等の課題について毅然と運動してきたが,とりわけ2005年度の賃金切り下げ問題(「給与構造の見直し」)の取り組みの経験の意味は大きい。そこでは,国立大学法人が人事院勧告に準じて賃金を切り下げる法的根拠と合理的根拠はないこと,また賃金切り下げの不当性とデメリットを徹底的に明らかにしたうえで,全国の国立大学法人で最も激しい闘い(赤門前の立看板設置,2度の学内集会と学内抗議デモなど)を展開し,賃金切り下げが強行された後も粘り強くその違法性を追及しつづけた。その結果,組合に対する期待と信頼は,非組合員の間でも高まっている。今回の取り組みのなかで,短期間のうちにもかかわらず特定有期雇用職員の70%を超える方がアンケートに回答を寄せたこと,附属病院との間で雇用期限の見直し・正職員化の必要性について共通認識を形成したことなどは,その反映であろう。 もう一つの条件としてあげるべきは,小泉「構造改革」が生み出した格差拡大・地方切り捨ての情勢である。熊本大学の場合,人材確保の課題は医療職員のみに限定されるものではなく,事務職員や教員についても共通している。度重なる定員削減・予算削減,大学「改革」等によって繁忙を極めているだけでなく,法人化によって国家公務員身分は剥奪され,かつ「給与構造の見直し」によって賃金も全国の国立大学法人で最低水準とされたままである(熊本大学職員の2008年度の対国家公務員のラスパイレス指数は83.3%)。その結果,大学事務職員の採用希望者は減少し,教員では人材流出(大都市圏の大学への異動など)が相次いでいる(教員について具体例を示せば,教授選考の合格者が賃金条件を聞いた途端に辞退するといったことが複数起こっている)。 大都市圏の病院の場合,高度先進医療機関,大規模病院の間を転職できるため,非正規雇用であっても医療職員の確保は可能な状況にある。これらに照らせば,熊本大学医学部附属病院での正職員化は,小泉「構造改革」によって疲弊する地方だからこそ,高度先進医療機関の機能を維持するための施策の一環として可能となったものといえよう。 今後の課題 今回の正職員化は,高度先進医療機関の機能を支えつづけている職員の差別的待遇を解決するという熊本大学教職員組合の宿願を達成したものであるが,重要な課題も残されている。最後に,今後の課題を確認しておこう。 上述の通り,熊本大学の職員は低い賃金水準におかれており,医療職員は高度先進医療機関に見合った手当(夜間看護手当,危険手当,主任・師長・副師長への職務手当など)が未整備なままである。また,夜勤回数の多さ(2008年度月平均9.1回),年休取得日数の少なさ(2009年12月の調査結果は4.7日)に示される過酷な労働条件を改善していくには,さらなる医療職の増員が求められる。今回の正職員化は,高度先進医療機関の社会的役割を果たしてゆくうえで不可欠なものであり,今後の増員の障碍となるようなことが断じてあってはならない。そのためには,正職員化した職員の退職金積み立ての責任を医学部附属病院に負わせている現行の仕組みを,大学全体で責任を負う仕組みへと改善してゆく必要がある。 我われはこれらの課題を解決し得る大きな糸口をすでに手にしている。それは,いうまでもなく“2009年度の給与引き下げによって生じた余剰金は,人件費として使用することを基本とする”旨の労働協約である。いかにこの労働協約を活用して上記の課題を解決してゆくか――これは労働協約締結の真価が問われる取り組みでもある。
特定有期雇用職員の雇用期限見直し・正職員化の取り組み等一覧
2007年11月 附属病院長に要望 7月9日 人事制度改革検討WGの「見直し案」決定 7月10日 「見直し案」の説明会開催,緊急アンケート実施 7月30日 定期大会「特定雇用職員の雇用期限『見直し案』の再検討を求める特別決議」 8月5日 団体交渉 11月5日 団体交渉(賃金引き下げ問題) 11月24日 「組合員の給与に関する労働協約」締結 12月22日 組合への説明 2月4日 附属病院長交渉 3月23日 正職員化の説明会開催 |












