『読売新聞』2010年4月1日付

熟練の技解析へ新拠点、工芸繊維大と企業連携


伝統産業、スポーツ、介護も

伝統産業のものづくりを探求する京都工芸繊維大(京都市左京区)の「伝統みらい研究センター」が、事務機器販売「ウエダ本社」(下京区)と連携し、職人技の動作解析を行う常設の研究拠点を同社内に開設した。研究に効率よく取り組んでいくことができ、同社は「職人の技や、熟練者の動きの解析が進めば、医療や介護の現場での快適な環境作りに役立てられるだろう」と期待している。

同センターは、伝統産業の従事者がもっている技や知恵などの「暗黙知」を数値化し、効率のよい技術習得や他分野への応用を目指し研究を進めている。京都に伝わる京漆器や京弓などの伝統工芸以外にも、茶道のお点前やスポーツなど対象は多岐にわたる。

これまでは、常設の研究拠点を持たず、大学内の空き室などを利用して計測。そのため、カメラの設置や微調整に丸一日かかることもあり、研究に取りかかるまでの時間の短縮が課題となっていた。

企業や製品を案内する映像作りも手掛ける同社が、同センターに注目し、協力を申し出た。新施設では接客業や、医療・介護の従事者の動きの分析などにも取り組み、岡村充泰社長は「ベテランと若手の動きを比較し、作業の効率化や単純化を考える材料を集めたい」と話す。

新施設では、細かく切った金箔(きんぱく)を2本の筆で仏像や仏画に張り付ける「截金(きりかね)」の動作解析がまず研究第1弾として行われた。赤外線カメラ5台と筋電図、心電図各1台などが用意され、20年以上の経験がある女性作家の心身のデータの推移を計測した。

また、介護士が高齢者を入浴させる際の動作を解析するなどの研究にも取り組んでいる。

新拠点について、濱田泰以(ひろゆき)・同センター長は「人間の様々な動きを、より精密に解析していくことで、疲れにくい作業環境などを研究し、介護やオフィス環境への応用に貢献できれば」と話している。