『朝日新聞』富山版2010年4月1日付

富山大 総合大学院 見送りへ


10年度 教員確保なお難しく

新設申請2学部のみに

文系の総合大学院の設置を目指している富山大学が、2010年度の国への申請を見送る方針であることがわかった。富山大は09年度、文部科学省に設置を申し出たものの、人材不足などを指摘されて取り下げた。10年度についても、国の基準を満たすだけの教員の確保は難しいと判断し、一部学部の設置申請にとどめる意向だ。(久保田一道)

富山大は、05年10月の3大学統合で、人間発達科学部(旧教育学部)や芸術文化学部(旧高岡短大)など新たな学部が発足したのをきっかけに、もともとあった人文、経済両学部も含めて、横断的なテーマに対応できる文系の総合大学院の新設を検討してきた。

新設された学部で1期生が卒業する今春のタイミングでの設置を目指し、昨春には文部科学省に設置を申請した。しかし、文科省は広いテーマを指導できる教員数の不足などを指摘。大学側が8月に取り下げていた。

それ以降も、10年度に再度総合大学院の設置を国に申請することを目指して作業を続けてきたが、横断的なテーマを指導できる教員の確保は現時点では困難と判断。10年度は、大学院のない芸術文化学部と人間発達科学部への新設の申請にとどめる方針を決めた。

大学側は取材に対し、教員確保のほかに「構想について学内の合意形成を図るのが難しい状況にあった」などと申請見送りの背景を説明した上で、「学部を横断する融合的な研究領域が必要という認識は変わらず、今後も実現に向けた対策を検討していく」と話した。

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学部間意識の壁

構想合意不十分

■解説  富山大が総合大学院の設置を見送らざるを得なかった背景には、テーマに適応できる教員数の問題だけでなく、構想のとらえ方についての各学部間の大きな温度差がある。総合大学院実現の道のりは、かなり険しいと言える。

90年代以降、旧帝国大学を中心に「大学院重点化」の方向を打ち出して、大学院の定員を増やす傾向にある中で、地方大学は大学院教育の改革を迫られている。グローバル化に伴い、学生のニーズも多様化。従来の専門分野にとどまらない学際的な領域の研究の必要性も指摘される。

富山大が総合大学院構想の検討を始めたのも、3大学統合で学部が増えたのをきっかけに「スケールメリット」を生かそうという考え方が強まったからだ。

だが、一方で学部自治の原則が強いこともあり、各学部間での調整は難航。学内の関係者によると、09年度の国への申請では計画案提出の直前になって、一部の学部から計画案の根本部分に大幅な修正が必要との意見が出された。申請には、各学部の合意を示す議事録の議決が前提となるため、執行部は学部に対し再議決を要請。修正が必要との意見は議事録には盛り込まず、「要望書」という形で執行部に提出されるなど、合意形成が不十分なまま設置を急いだことのひずみが顕在化した。

執行部側は「学部の独立性が強い中で、それを守ろうとする考え方も残っている」として、学部を超えた研究領域の構築が難しい現状を認める。学内の関係者も「従来の組織にこだわって既得権益を守ろうとする意識は、改革を進める上で大きな問題になっている」と強調。抜本的な大学院改革の具体像が描けない状況が続いている。