『毎日新聞』2010年3月18日付

大学大競争:国立大法人化の功罪/4 生き残りへ「改革」模索


「統合の話をどう思っておられますか」

03年秋、是永駿・大阪外国語大学長(当時)は、大阪大学長の就任あいさつに訪れた宮原秀夫学長(同)に切り出した。名刺交換の直後だった。1921年創立の「大阪外国語学校」に端を発し、司馬遼太郎、陳舜臣ら著名な文化人を輩出した大阪外大が「消滅」への一歩を踏み出した。

大阪外大は当時、年間予算に占める人件費の割合が87%と高い一方、25の専攻言語を維持するため人員削減もままならない、という袋小路にいた。

04年春に法人化されれば、収入確保は一層厳しくなる。「大阪外大単独では衰退の道が見えていた」(是永氏)。「看板」(大学名)を捨てても、「中身」(高度な言語教育)を残すため、苦渋の決断をした。

阪大側も法人化後の国内外の競争を勝ち抜くすべを模索していた。大阪外大と統合すれば、「専門性を持った国際人を育てられ、外部資金をとりやすくなる。海外の大学からの提携話にもつながる」(宮原氏)と期待した。

新「大阪大」は07年10月に誕生、学部学生約1万6000人と国立大最大となった。今年の入試(前期日程)では外国語学部の志願倍率が阪大で最も高かった。

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東北大は今年度、選挙で選ばれた各学部長らに学長の面接を受けることを義務付けた。「大学執行部との迅速な意思疎通」が目的だが、執行部の狙いは、さらに先を行く。学内の選挙で選ばれた候補者に学外からの推薦者も加えた中から、選考委員会が学部長らを選ぶ方法を検討している。

法人化で学長の権限が強まったが、今も教授会の影響力は根強い。選考方法の変更に反対の学部は多いが、井上明久学長は「選挙で選ばれた人では思い切った改革がしにくい。グローバルに見て大学の危機だという意識を持ち、世界でどれだけ認知されるかを考えなければ」と力を込める。

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生き残りを探る国立大よりさらに大胆な改革が、大阪府立大で実施される。11年度から文系学部を廃止し、理系4学域に再編する。橋下徹府知事は昨年2月の会見で「府民にとってなくなると困る大学か」と発言、存廃も含めた抜本的な改革を打ち出した。大阪市立大との統合や私学への売却もささやかれたが、成果が目立っていた理系に特化して存続を果たした。奥野武俊学長は「知事の発言は青天のへきれきだったが、 逆に好機ととらえ、時代の先取りができた」と話す。

4月から始まる国立大の第2期中期計画は、各大学の得意分野を伸ばす「機能別分化」が主眼になる。達成度に応じて、運営費交付金の配分が決まるため、各大学は特色作りに必死だ。

中央教育審議会大学分科会委員を務める黒田寿二・金沢工業大学園長・総長は「これだけ18歳人口が減ると、将来(国立大を)今のまま維持するというわけにはいかないだろう。各国立大が東大のマネをする時代は終わった」と話す。=つづく