『読売新聞』2010年3月8日付

岡大病院 女性キャリア支援…3年で離職防止、復職37人


先輩の助言/短縮勤務/実践訓練
地域医療機関と連携拡大へ

女性医師や看護師の離職を防ぎ、復職支援も行う岡山大病院(岡山市北区)のプログラム「女性を生かすキャリア支援計画」が、今月末で3年間の取り組みを終える。離職をとどまったり、復職を果たしたりした“先輩”に、女性の現役医師や医学生がパソコン上で相談できる環境をつくり、加えて復職に向けた実践訓練や短縮勤務の整備なども進めてきた。その結果、37人が復職を果たすなどした。県医師会などでつくる外部評価委員も「同じ境遇の女性たちの連帯感や、やる気につながり、大きな成果」と評価している。2010年度からは、地域の医療機関との連携を深め、活動の幅を広げる。

(黒田聡子)

プログラムの代表を務める片岡仁美講師(37)によると、同大学医学部では、1996年度の卒業生までは女性の割合が約1割だったが、年々増え、03年度からは3割を超えている。子育て期にあたる大卒後5〜15年に女性の働き手が減る「M字カーブ」は、医療界も同じで、同大学はこの現象をなくそうと、プログラムを作成した。

プログラムは、質の高い医療関係者の養成を目的にした文部科学省の07年度事業に採択され、スタート。院内10科の代表者でつくる「コア(核)メンバー会議」がアイデアを練り、同大学病院キャリアセンターが運営を担った。



活動の柱の一つが、結婚、出産を機に離職について悩んだり、復職について考えたりしている“後輩たち”に、復職を果たすなどした先輩医師が助言をするシステム「岡山MUSCAT(マスカット)」。学内外の女性の医師や学生計196人のほか、女性医師の夫や男性の医師、学生ら61人(いずれも2月15日現在)も参加した。

自宅で手軽に相談ができるようにと、パソコン上のサイト「岡山MUSCAT WEB(マスカットウェブ)」を設け、顔を合わせてのミーティングも、2か月に1度開いた。

女性たちは「勤務時間が長いうえに不規則。当直業務もこなしにくい」「職場の人数が少ないので、十分に働けないと、周囲に迷惑をかける」「一度、職場を離れると、技術や知識を取り戻すのが難しい」「子どもが病気になったら、対応に困る」などの悩みを打ち明けた。



これらの課題を解決しようという、活動のもう一つの柱が「MUSCAT WILL(マスカットウィル)」。離職について悩んだり、復職を考えたりしている女性向けに、自宅で緊急呼び出しに備える当番や当直から外し、勤務時間を▽週31時間▽週15・5時間以上30時間未満▽週15・5時間未満――から選べる制度をつくった。これを利用したのが37人(同日現在)で、離職をとどまったり、復職を果たしたりした。

こうした取り組みに関心のある学外の43医療機関でも、女性たちが復職を果たした。

挿管が難しい患者への気道確保など、緊急事態を想定し、医療用人形を使った1日数時間のトレーニングも実施、知識や技術への不安を取り除いてもらった。病院内に09年10月、病児保育ルームをつくり、子育て支援を始めてもいる。



09年末に、岡山大病院で行われた報告会で、森田潔・病院長は「日本では医学生の4割が女性で、今後は女性の医療関係者のレベルが日本の医療レベルを決める」と、活動の広がりに期待した。一方で、地域の医療関係者や弁護士らも加わる外部評価委員からは「男性や(検査技師など)院内の全職種も取り込み、公平性を担保できる取り組みにしてほしい」との声があがった。

片岡講師は「男性も含めて互いが支え合う職場になれば、患者にも、よりよい医療が提供できる」と話す。プログラムは、厚生労働省の10年度事業に採択されており、地域の医療機関との連携が求められることになる。メンバーらは「岡山大でできた女性支援の輪をさらに広げたい」と願っている。