『毎日新聞』社説 2010年2月28日付

鳩山政権への手紙 川端達夫様 科学への情熱をもっと


子どものころから科学好きの少年だったそうですね? 文部科学相と科学技術担当相を兼ねる川端さんが、企業で海水を真水に変える研究をしていたのは、日本の科学技術に活気があったころでしょうか。

時代の雰囲気は変わりました。「科学技術創造立国」のかけ声はあっても、理系周辺はなんだか元気がありません。大学にも「このままでは国際競争に負ける」という危機感が漂っています。

だからこそ、川端さんら4人の理系出身者を擁する「理系内閣」への関心が高まったのではないでしょうか。経験を生かし力強い科学技術政策が打ち出されるのではないか。そんな期待感があったのです。

そこへ降ってわいたのが、「事業仕分け」です。いえ、「やり方が乱暴」などと、改めて文句を言いたいのではありません。科学技術予算は仕分けになじまない面もありますが、無駄や不透明さがないわけではありません。予算の必要性を説明しきれなかった文科省側の問題は見逃せません。

むしろ、仕分けには、「お茶の間の話題になるほど科学技術が注目を集めた」という歓迎すべき効果があったと思うのです。あわてた科学者側も、これまでになく政治に反応しました。

日本の科学技術には課題が山積しています。大学の基盤的な研究費は減り続けています。博士号取得者を増やしたのに、人材を生かしきれず、若者の意欲がそがれています。iPS細胞のような優れた基礎研究はあるのに、それをイノベーションにつなげる態勢にも弱さがあります。

仕分けをきっかけに、問題点を整理し、戦略的な政策立案に役立てることもできたはずです。それなのに、チャンスを生かせていない。そんな気がするのです。

総合科学技術会議の判定も経て、最終的に出てきた文科省の予算案は「仕分けほどの削減ではなかった」というものでした。にもかかわらず、どういう政策に基づいて、仕分け結果を取捨選択したのか、わかりづらく、十分な説明があったとも思えません。

政府は来年度から科学技術予算の編成の仕方を変えるそうですね。総合科学技術会議の改組も検討中と聞きます。こうした改革を経て、メリハリのある予算配分を実現するのは最低限の課題でしょう。

さらに、科学技術立国に向けた明確なメッセージがほしい。そのためには、かつての科学少年が、もっと「情熱」と「厳しさ」を持って日本の科学技術を語ることも大事ではないでしょうか。