『毎日新聞』社説 2010年2月28日付

職業指導 体系的なキャリア教育を


大学、短大教育で「職業指導」(キャリアガイダンス)が義務づけられた。文部科学省が設置基準をそう改め、11年4月から施行する。

既に大半の大学、短大には、学生の相談を受けて情報も提供する就職支援センターや講座などがある。

しかし、不況による就職難に加えて、大卒就職者の3人に1人以上が3年以内に辞める離職率の高さが大きな課題になっている。

このため学内が連携して、学生の社会人としての資質を高め、職業的自立に必要な能力を培う指導を教育課程に位置づけようというのである。抽象的だが、一部の部署が担ってきた就職活動支援だけではなく、正規の教育として目的意識や主体的な選択能力を育てるということだ。

各校はもともと建学の理念や文化が異なるのだから、職業指導もその個性や実情に即して創造、工夫されなければならない。文科省も画一的な内容の押しつけはしない。各校が腐心することになるが、取り組み実態と成果は定期的に外部の認証評価機関にチェックされ、結果は志願者数を左右する可能性がある。

大学がそこまでやらなければならないのか、という嘆息もあるかもしれない。だが、大学、短大進学率が5割を超して久しい今、必ずしも学生たちが入学先の選択で将来の職業を思い描いているわけではない。目的がはっきりしないままだと、結局高い離職率の一因になる。

今回の措置は政権交代後の昨年10月、政府の緊急雇用対策本部が打ち出した新卒者支援策に基づく。現状からは、このようなテコ入れは産業界からも歓迎されるはずだ。

しかし、大学入試の段階でさえ目的意識が乏しい若者が少なくない現実を考えれば、こうした指導は高校や中学校にもさかのぼって、もっと体系的に行われるべきだろう。

中央教育審議会は学校教育の早い段階から勤労観、職業観をはぐくみ、関心や意欲、適性を引き出す「キャリア教育」について審議しているが、学校現場にも論議を広げたい。

また継続的な進学率の高まりで、今の学校体系は、大学受験を主軸に“単線化”した観がある。それを見直し、多様な進路選択の幅を広げる職業教育のあり方を探り、新しい可能性も論議すべき時ではないか。

今回の大学、短大教育での職業指導の義務化は、こうした課題へ大きな一石を投じるかもしれない。

なぜなら、突き詰めていけば、論議はカリキュラム全体の見直しや入試の改善にも及び、さらにはその前の段階での教育のあり方にも広げざるを得なくなるはずだからだ。

そうした相乗的な教育改革効果も期待したい。