『中日新聞』社説 2010年2月24日付

教職大学院 設置の意義を問い直せ


教職大学院のうち、半数近くが定員割れに陥っている。「教員養成政策の大きな柱」として二〇〇八年に発足したが、役割を果たしているか疑わしい。設置した意義を問い直さなければならない。

文部科学省の調査によると、教職大学院は全国に二十四校あり、本年度の入学者が定員割れしたのは十一校にのぼった。このうち、六校は二年連続で定員に満たなかったという。

教職大学院は、〇六年の中央教育審議会の答申に設置が盛り込まれ、「理論と実践の融合」を掲げてスタートした。大学新卒者や現職教員らを対象とし、専門性を高め、中核教員の養成を目指している。

文科省は「着実に実績を積み重ねている」と評価しているが、文科省の昨年調査でも十九校のうち八校が定員割れだった。二年目も定員を確保できない状況には根本的問題があると認識すべきだ。

その一つは、教職大学院を出てもメリットが乏しいことだ。教員採用試験で何らかの配慮があるなら、学部新卒者も進学を考えるだろうが、修了者だからといって試験で優遇されるものではない。

東京都教委の場合は教員採用試験で修了者に一定の配慮措置をとっている。一次選考の免除だが、大学からの推薦と書類審査通過が条件であり、狭き門といえる。

大学院に進学すれば、就職までに時間がかかり、経済的負担も生じる。教員を目指す新卒者が、高い学費を支払ってまで、さらに二年間も学ぼうとするだろうか。

いまは団塊世代の退職に伴い、教員採用の門戸は広がっている。採用試験は十倍を超えた年もあったが、昨年夏の東京都公立小学校教員採用では三・五倍だった。

現職教員が大学院に通う場合、多くは地元教委からの派遣だ。派遣となれば人員補充しなければならず、予算措置が伴う。財政難の自治体は苦しい制度だろう。

大学の多くが財政難に苦しんでおり、教員が充実していない教職大学院もある。教員がそろわないのに、既存の大学院との明確な違いや特徴を打ち出せているのだろうか。

教職大学院は何が教育目的なのか、いまだはっきりしない。このままでは廃止もやむを得ない。

教職大学院の問題は民主党が提唱している「教員養成六年制」にも通じよう。学ぶ者に時間とカネを使わせるだけで、教員志望者を減らしかねない。拙速な導入は避け、議論を重ねてほしい。