『山陰中央新報』2010年2月1日付

談論風発:医学部入学定員増の課題 幅広いキャリア形成望む


鳥取大学副学長 井藤久雄

2010年度大学入学試験で、医学部の入学定員が増えることになった。鳥取大学医学部は13人増の103人、島根大学医学部は5人増の110人である。医師数を増やすのは、社会の要請によるものである。

医学部入学の門戸は、ここ数十年で明らかに広がった。私が医学部に入学した1968年、医学部入学定員は全国で約4千人、この時の18歳人口は270万人。つまり、「同世代の医師数(医学部入学者)」は10万人あたり約150人だった。その後、入学定員は順次増加し、これにより医師の総数も増加した。83年には「全人口に対する医師数」が、当初の目標であった10万人あたり150人を達成した。

その後、政府は82年から医師養成数削減へと舵(かじ)を切った。2004年は7625人となり、18歳人口(138万人)10万あたりの入学者数は553人。それが2010年度入試では全国79大学医学部で360人増加して計8846人となり、18歳人口(121万人)10万人あたり731人となる。2030年からは医療需要が減少に転じる見込みであり、医師過剰状態となる可能性が高い。このため、医師養成数増員は10年間の処置とされている。

今回増員される医学部入学生のうち313人には奨学金が与えられ、卒業後は地域医療に従事することが義務づけられる、いわゆる「地域枠」である。この点に課題はないか。鳥取大学医学部の立場から論じたい。

国立大学はその設置理念から、入学生の地域性を考慮していなかった。ところが、医師不足、特に地域偏在が顕著となり、文部科学省は奨学金と組み合わせ、地域医療を担う医師養成を求めた。鳥取大学医学部は鳥取県との協議を重ね、06年度入試から地域枠(5人)、09年度からは特別養成枠(5人)を制度化した。これに10年度は前期日程地域枠(8人)が加わる。

制度は別々に設計されたため内容が異なる。地域枠、特別養成枠は推薦入試による。10年度増員分の前期日程地域枠はセンター試験の前期入試で選抜される。医学部を目指す受験生は制度の内容を十分に吟味した上で入学試験に挑んでほしい。鳥取大学医学部は高い学習能力と適性を備え、地域医療に意欲を持った学生を望んでいる。

さらに、鳥取県は岡山大学と山口大学に1人ずつ医師養成を負託する。卒業後は鳥取県内の医療機関への勤務を義務づけている。逆に鳥取大学医学部は兵庫県と島根県からそれぞれ2人、山口県から1人の学生を引き受ける。

10年度入学生が初期研修を終える8年後には、鳥取大学医学部で養成された18人に加え、県外大学で養成された2人、鳥取県出身者の自治医科大学卒業生2人を加えた22人の医師が鳥取県の地域医療に従事する。

地域医療のみならず、国内留学、研究活動など多種多様な経験を積ませることが若い医師には重要だ。県と医学部は彼らのキャリア形成には十分に留意してほしい。地域が必要としているのは義務年限6年もしくは9年を終え、十分な力量を備えた中堅医師なのである。

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いとう・ひさお 広島大医学部卒。鳥取大学医学部教授、同医学部長などを経て2007年同大副学長。日本癌学会評議員。米子市在住。