『河北新報』社説 2010年1月25日付

科学技術予算/「仕分け」契機に足元見直せ


行政刷新会議による事業仕分けで「必要性に乏しい」などとやり玉に挙がり、多くが「廃止」や「縮減」の宣告を受けた科学技術関係費。ふたを開けてみれば、見直し対象になった事業は復活し、即廃止となる事業はなかった。

2010年度政府予算案の科学技術関係費は予算編成前の大幅減額予想に反し、ほぼ前年度並みの水準を維持した。先端技術につながる基礎研究を重視する鳩山政権が軌道修正した格好で、大学関係者らは安堵(あんど)の表情を見せる。

しかし、国の経済、財政状況とは無関係に巨額の予算がつぎ込まれていたことが明らかになり、納税者の目は一段と厳しくなった。漫然と予算を要求し、消化する行為は許されない。無駄の一掃が急務だ。

文部科学省によると、科学予算の中核である科学技術振興費は約1兆3000億円。前年度を3%下回ったが、ほぼ横ばい。研究者が申請する科学研究費補助金(科研費)は30億円増えて2000億円が計上された。国立大の運営費交付金は約1兆1500億円と0.9%減。

前政権時代に策定された科学技術基本計画は「資源がない国は科学技術で」とうたい、同振興費は毎年増額を重ねてきた。01年には「50年間にノーベル賞受賞者30人を輩出する」と勇ましい目標が掲げられた。

新政権発足後、「聖域」と見られてきた科学界に事業仕分けというメスが入り、初めて防戦に追われる。次世代のスーパーコンピューターをめぐるやりとりは象徴的だったが、地方の産業創出を目指す地域科学技術振興・産学官連携事業、大学院支援事業といった成果を挙げてきた項目まで切り捨てられた。

東北大など国立10大学の理学部長会議が反対声明を出し、著名な研究者が記者会見で「世界の国と戦えない」などと異を唱えたのは記憶に新しい。一方で、反論に抽象論が目立つなど説明能力の不足を露呈した。

旧文部省、旧科学技術庁時代から引き継がれ、中身が重複するものが多いことも判明した。国立大の幹部は「説明責任を果たしきれなかった。仕分けはいい刺激になった。項目の整理を進めたい」と話す。

科学の発展が不可欠なことは言うまでもない。地道な研究が続けられなくなれば特許出願や産業への実用化などで各国に後れを取り、取り返しがつかなくなることも事実だ。新政権もそこを考慮したからこそ、予算編成で配慮したと言っていい。

研究費の使い道を見直す好機ととらえ、次年度の予算要求までに必要な費用と削減できるものとを精査するとともに、納税者への説明能力をもっと磨くべきだろう。重い宿題に取り組む時間は長くない。