『朝日新聞』2010年1月11日付

教育の予算案、大幅に伸びたけど… 明暗わかれた大学事業


大学病院を強化する予算や奨学金は増えたが、留学生の受け入れや大学の補助事業は大幅減に――。18日召集予定の通常国会に提出される2010年度の政府予算案で、教育予算全体の金額は大幅に伸びたものの、大学関連予算は事業によって明暗が分かれた。

■削減―文科省の支援事業・留学生受け入れ

今月7日、東京都江東区の東京ビッグサイトで、大学の優れた教育事業を紹介する「大学教育改革プログラム合同フォーラム」が開かれていた。その席上で、文部科学省の鈴木寛副大臣は「大学の事業は重要な岐路に立っている。事業仕分けで厳しい指摘を受けたが、今年は改革を最優先で議論していきたい」などと話した。

新年度の予算案は、マニフェスト項目の高校無償化を中心に編成された。文科省の10年度予算は総額で5兆5926億円。前年度より5.9%増え、過去30年で最高の伸びになった。ただ、高校無償化の3933億円を差し引くと、824億円を減らした計算になる。

大学関連の予算は、先端研究拠点を文科省が重点支援する「グローバルCOEプログラム」などの大学院支援事業が大きく削られた。行政刷新会議の事業仕分けで「3分の1程度の予算縮減」と判定され、予算規模は前年度の7割程度の287億円まで減った。前年度からの継続分の件数は維持されるが、事業に直接かかる経費は別として、補助的な作業をする職員の人件費など、ある程度自由に使えた「間接経費」を圧縮することになるという。

グローバルCOEで、7拠点が採択されている名古屋大は、4億円以上が削られる公算が大きくなった。ナノカーボンなどの化学研究拠点のリーダーを務める渡辺芳人教授は「ゆゆしき問題だ。世界中の大学で当たり前に行われていることができなくなる」と危機感を抱く。

研究チームによると、3億円強の年間経費のうち7千万円ほどが間接経費。この部分で、8人いる留学生の借り上げ寮費や授業料減免措置の費用、非常勤の事務職員5人分の人件費などをまかなっていた。渡辺教授は「世界との競争の中で優秀な留学生を呼び、研究に集中する環境を作るためにも、必要な投資だ」と話す。今後、寄付金などで埋め合わせできるかどうか、検討していくという。

留学生に魅力的な大学づくりを目指す「グローバル30」など国際化拠点整備事業も、予算縮減という仕分けの結果を反映して前年度より2割減の33億円になった。本来なら30大学を目指すが、09年度に採択された13大学の継続分だけに絞られた。そのうえ、今年度各大学4億円を上限に交付金が出されたが、新年度は3億円に減る見込みだ。

採択校の早稲田大は、5学部と大学院6研究科に英語のみで学位が取れるコースを設け、新年度に向けて20人以上の教員を雇う。大野高裕・国際部長(理工学術院教授)は「いきなりの削減は想定外で、非常に厳しい」と嘆いた。

■改善―運営費交付金・大学病院の強化 減額方針の撤回も

削減の一方で、大学の経営基盤となる国からの「国立大運営費交付金」の一律の削減方針が撤廃された。運営費交付金は、自民党政権下の「骨太の方針」で毎年1%ずつ削られ、法人化後の5年間で720億円減っている。小規模の大学なら約20校の配分額にあたるという。

今回の予算案をみると、総額1兆1585億円と、結果的に0.94%減になった。厳しい経営状況自体は変わらないが、それでも国立大学関係者は、削減方針の撤廃に、ひとまず胸をなで下ろしている。また、文科省も「09年度2次補正での計上分を加えると0.2%減にとどまる」としている。

また、私立大の経常費補助(私学助成)は0.1%増の3222億円で4年ぶりの増額になった。

大学生への奨学金事業も大幅に改善されそうだ。予算額は前年度と同じだが、財政投融資や返還金の増額分を含めた事業規模は6.1%増の1兆55億円に。貸与人数を3万5千人増やして118万人分とした。

医師不足対策では、医学部の定員増を受けて、医学教育や大学病院の機能強化のために25.3%増の68億円を計上した。そのうち、医師らの事務負担を減らすスタッフ雇用のために21億円が新しく盛り込まれた。

09年度の2次補正予算でも、医学部定員が増えたことに伴う整備事業に24億円が、周産期医療の整備には5億円が計上されている。

日本医学教育学会(会長、伴信太郎・名古屋大教授)は7日、教員の増員や教育施設の整備などを求める緊急提言を発表した。「単に『教室の拡張』や『機器や教材の追加』の対策だけでは医学教育の質を担保できない」と訴えた。(見市紀世子、石川智也)