『読売新聞』2010年1月9日付

[解説]大学医学部の定員増


施設や教員不足の限界…「過酷な勤務」解消も不透明

医師不足の解消を目指し、医学部定員が来年度も増員されるが、現場からは施設や教員の不足を訴える声も上がっている。(医療情報部・佐藤光展)

[要約]

◇大学医学部の定員は医師不足解消を目指し、昨年度から増員されている。

◇急激な定員増に施設や教員の数は追いついておらず、長期的な視野が不可欠だ。

医学部の入学定員は、1980年代半ばをピークに、「いずれ医師は過剰になる」との理由で削減されてきた。しかし近年の医師不足問題から、2008年度と09年度は、計861人が増員され、現在は過去最大の8486人になった。

来年度はさらに360人増える。だが大学別の入学定員の発表は昨年12月に入ってからと、一昨年より約1か月遅かった。大学や都道府県からの増員要望が全体計画に満たず、調整に時間がかかったためだ。

背景には、急激な定員増のために、施設や教員不足がほぼ限界に達している、大学医学部の現状がある。

医学部校舎の多くは一学年最大120人を基準に作られており、留年者も見込むと、定員は110〜115人が上限という。ところが今年度までの増員で、過半数の43大学がすでに110人以上になっている。

文部科学省は、増員する大学が解剖台などの実習設備を購入する費用助成(約24億円)を今年度2次補正予算案に盛り込んだが、校舎の改修費用は含まれない。現在の110人から3人増える信州大学の事務担当者は「改修のため、卒業生に寄付を呼びかけ始めた」と明かす。

教員不足も深刻だ。

国は、大学設置基準を昨年10月に改め、最大140人だった医学部の専任教員を、入学定員が120人を超えた場合には最大150人に増やせるようにした。

国立大の7校では来年度の入学定員が120人を超える。だが教員増については、「地域の病院に勤める働き盛りの臨床医を大学に戻さなければならず、医師不足がかえって進む」「結局は大学勤務医の空き時間に講義してもらうケースが増え、負担がさらに増す」と懸念する声も強い。

国立大学は独立行政法人化した04年以降、国から支給される運営費交付金が毎年1%前後減額されてきた。来年度予算案でも、今年度より110億円少ない1兆1585億円の計上となったが、文部科学省は「医学部関連の予算は優先的に確保し、教員増の人件費相当額13億円を新たに盛り込んだ」としている。

ただし単年度の措置であり、山形大の嘉山孝正医学部長は「再来年度の予算次第では、いったん増やした入学定員を減らす大学が出るのでは」と話す。

教育内容の充実も課題だ。来年度増員される分の約8割は、奨学金を得て卒業後は一定期間、地域医療に従事する「地域枠」の学生だ。自治医大地域医療学の中村伸一臨床教授は「地域医療を教えられる教員を増やすことも急務」と指摘する。

医師不足問題は重要だが、定員を増やすだけでは、救急、外科、小児科など、特に過酷な勤務を強いられている診療科の医師増加につながるかは不透明だ。国は長期的な視野で、卒業後の研修に診療科別の定員を設けるなど計画的な養成に取り組むべきだ。