『朝日新聞』2009年12月21日付

大学発ベンチャーに淘汰の波 起業急減、倒産・休止も増


大学の研究成果をもとに起業する「大学発ベンチャー」について、朝日新聞が全86の国立大学にアンケートしたところ、起業数が2005年度以降急減し、08年度はピーク時の4割弱に落ち込む一方、全体の約1割が倒産・休止するか、存続不明になっていた。国は数千億円を投じて起業を進めてきたが、ここ数年は予算を絞っており、淘汰(とうた)が始まっている。

大学発ベンチャーは、01年発足の小泉内閣が「3年で1千社起業」を目標に掲げた。04年度に法人化した国立大の多くは運営計画に「起業促進」を盛り込んでおり、来春の計画見直しを前に、01〜08年度の起業数や経営状況などを尋ねた。

起業数は1081社で、東京大(138社)▽筑波大(63社)▽京都大(57社)▽大阪大(55社)▽東北大(53社)の順。04年度の178社をピークに下降を続け、08年度は70社にとどまった。理工系学部を中心に、バイオやIT系が半数以上を占める。

一方、廃業を含む倒産と休止は49社。05年度は3社だったが、8社(06年度)、10社(07年度)と増え、08年度は過去最多の13社に。09年度もすでに8社が確認されている。「連絡がとれない」など実態不明なのは67社あった。

経済産業省と文部科学省は01年度以降、ベンチャー企業に返済不要の研究開発費を補助し、割安で入居できる施設を建設してきた。経産省は当初「5年後には1兆8千億円の需要と約14万人の雇用創出効果が生まれる」としてきたが、08年度時点で経済波及効果は4803億円、雇用誘発効果は3万3千人にとどまる。同省は07年度から「費用対効果が十分ではない」と関連予算を大幅削減している。

01年度以降の支援額を両省とも把握しておらず、朝日新聞が予算書などから概算した。経産省の大学発ベンチャーの関連予算(私立大を含む)は01〜08年度に少なくとも2940億円、文科省の産学官連携の関連予算も同時期、最低3118億円あり、多くが大学発ベンチャーに関連していた。国の調査では起業数の6割以上を国立大で占める。(増田啓佑、吉田啓)

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谷明人・経産省大学連携推進課長の話 厳しい経済状況や、国が補助金を絞り込んだことなどが、起業数の減少や経営破綻(はたん)の増加に影響している。タックスイーター(税金を食べる存在)という批判もあり、予算の見直しを進めた。補助金を、経営継続のための「生命維持装置」にしてはいけないと考えている。