http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/108/honbun.html

科学・技術・イノベーションの中期政策に関する提言

2009年12月15日
(社)日本経済団体連合会

I.はじめに

現在、わが国は大きな転換点に直面している。世界同時不況の影響を強く受け、雇用や経済情勢は依然厳しい状況にあるだけでなく、人口減少・高齢化が本格化している。他方、世界的には人口増加、新興国の成長が加速し、グローバル競争が激化しており、このままでは国際競争力の低下は避けられない。また、地球温暖化、資源・エネルギー・食糧制約、感染症等、グローバル・レベルで克服すべき課題が深刻化するとともに、知識経済化・オープン化の流れが一層加速し、20世紀型の経済社会、事業モデルの弊害も露呈しつつある。

わが国は長期にわたり経済の停滞を経験し、未だ新たな成長の源泉を見出せずにいる。将来に対する不確実性や不安が増す中、こうした環境変化を的確に捉え、新たな価値観や行動様式に基づく経済社会を構想し、活力の源泉を確保することなくして、わが国の繁栄、さらには世界の持続的な成長への貢献はおぼつかない。資源に乏しいわが国において、かかる状況を克服し、新しい時代の扉を開く原動力こそが、科学・技術を基点としたイノベーション #1 である。

欧米・アジアでイノベーション政策が加速する中、わが国の科学・技術面での国際競争力が今後相対的に低下する懸念が高まっており、わが国は科学・技術・イノベーションを成長戦略および国家的な課題解決の柱に据え、ものづくりや環境・エネルギー技術をはじめとする強みを活かしながら、内外の個人、組織、国家等あらゆるレベルの英知を結集しなければならない。とりわけ、地球環境問題は人類が抱える最重要課題の一つであり、主要国が大幅な投資増を打ち出す中、グリーン・イノベーション創出に向け総力を挙げて取り組み、世界を主導していくことが求められる。

わが国は、2006年度からの5ヵ年計画である第3期科学技術基本計画に基づき、科学技術等の振興に取り組んできたが、この大きな構造変化を捉え、従来からの科学技術政策を抜本的に見直すべき時期を迎えている。新たな中期政策の策定が視野に入るこの機に、国家的な課題解決や成長力強化等わが国の将来を左右する科学・技術・イノベーションの中期政策の基本的な方向性について産業界として提言する。

#1 科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新(第3期科学技術基本計画)。新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入、新たな経営管理方法の導入等を通じて新たな価値を生み出し、経済社会の大きな変化を創出すること(研究開発力強化法)。
II.基本認識

1.これまでの科学技術政策の評価

3期にわたる科学技術基本計画に基づき各種施策が展開され、科学・技術の基盤整備が一定程度進展し、研究開発の成果の芽も生まれてきている。特に、第3期計画ではイノベーションを基本姿勢の中で謳い、研究開発力強化法(研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律)の超党派での制定、イノベーション創出総合戦略、革新的技術戦略、環境技術エネルギー革新計画等の戦略の策定が進められた。
しかしながら、オープン化や知識社会化への対応や個々人・組織が能力を最大限発揮できるイノベーション環境の醸成はいまだ途上にあり、また、国民一人ひとりが実感できるような成果を享受するには至っていない。例えば、OECDは、日本は研究開発投資の規模に相応しいアウトプットが必ずしも出ておらず、イノベーション・システムの効率性を高めることが成長力強化に不可欠といった指摘をしている。主要な政策課題としても、継続的な構造改革によるイノベーティブな活動の支援、とりわけ官民連携、国際連携、イノベーションに係る規制改革が重要としている。また、わが国においては、国全体の研究開発投資に占める政府負担分の割合が約2割と主要国と比べて低く、政府投資の多くが大学、研究開発法人に向けられている。他方、厳しい経済情勢が続く中で、企業は積極的な研究開発投資を控えざるを得ない。
これまでの科学技術政策は限界を迎えつつある一方、イノベーションにおいて政府が果たすべき役割が一層高まっている。今後は国民の視点に立ち、科学・技術力の強化に加え、イノベーション創出力の強化により、わが国研究開発投資の規模等に見合う成果の社会還元の効果的な推進が求められる。

2.中期政策の基本理念と目指すべき経済社会の姿

(1) 中期政策の基本理念

昨今の環境変化や時代の要請を捉え、今後の中期政策においては、以下の2つの趣旨を基本理念として掲げるべきである。

国力増進と国民生活の豊かさへの貢献(持続的成長と多様で豊かな社会)
人類の英知の創造を含め国力の増進は、科学技術政策の根幹である。同時に、科学・技術を基点としたイノベーションを通じた、経済成長と環境保護の両立、健康と安全・安心をはじめとする国民生活の物心両面での豊かさ向上への要請は極めて高い。国力の増進と国民生活の豊かさへの貢献を一体不可分の関係として捉え、イノベーションにより持続的成長と多様で豊かな社会の実現を目指すべきである。

グローバル社会における競争と協力(グローバル社会における日本)
グローバル化への対応は、国力増進と国民生活向上を実現する上で不可欠となっている。わが国はかつてないスピード感の厳しいグローバル競争にさらされており、イノベーションの不断の創出を通じて国際競争力を一層強化することが求められる。世界におけるイノベーションの中核となるべく、ヒト・モノ・カネ・知のあらゆる側面での国境を越えたつながりを強化しオープン・イノベーション環境を整備するとともに、深刻化する地球環境問題をはじめとするグローバル・イシューの克服に向けた国際協力を主導していく責務がある。

(2) 目指すべき経済社会の姿

科学・技術を基点としたイノベーションには中長期的な視点が不可欠であり、上記基本理念を実現する上で、個人、組織を問わず多様な主体が、わが国が目指すべき中長期的な経済社会の姿を共有することが重要である。目指すべき姿については国家的な議論が不可欠であるが、科学・技術が貢献し得る経済社会の姿として、以下の5つの社会像を想定し得る。

世界のニーズに応え持続的に成長する社会
国民一人ひとりが生きがいをもって働くことができる強固な経済基盤は、国民生活の根幹を成す。科学・技術を基点としたイノベーションを成長戦略の柱と位置付けた上で、地球環境、安全・安心、健康・長寿、さらには中国、インド等の新興国の成長等の新たな需要を的確に捉え、わが国の強みであるモノづくりとサービスの融合により新たなソリューション・ビジネスを創造し、雇用創出と成長力強化を実現する。

経済成長と環境保護を両立する社会
温暖化や環境汚染、生物多様性等の環境問題、資源・エネルギー・食料・水の制約の克服は、日本の強みを発揮し世界をリードし得る人類共通の課題である。最先端の環境・エネルギー等の技術開発とのその普及を通じて、新たなライフスタイル、環境調和型の社会システムおよび産業を創出し(グリーン・イノベーション)、経済成長と環境保護、さらには資源・エネルギー・食糧安全保障を同時に実現する。

安全・安心・快適な生活を実現する社会
安全・安心は、国家が保障すべき根本的な生活環境である。防災・防犯・ライフライン保全等のセキュリティに係る技術、インフラ・システムの開発により、国民一人ひとりが日常生活の不安から解消された社会を実現する。同時に、モビリティ、ロボット、ICT等の技術の活用により、世界がつながり、個々人の能力の補完・強化された快適な生活空間を実現する。

健康・長寿な生活を実現する社会
健康・長寿は、安全・安心と並ぶ人間の基本的な要求である。近年は、わが国が世界に先駆けて本格化する人口減少・高齢化や、感染症の拡がり等の世界的な課題も生じている。健康管理・予防、診断・治療に至る質の高い医療、食、介護等に係る技術開発・システム構築により、国民一人ひとりの疾病等の不安や苦痛を解放するとともに、年齢等を問わず活き活きとした生活を実現する。

国民の知的豊かさを実現する社会
人口減少や知識社会化を背景に、価値創造の源泉としての人材の重要性が一層高まっている。同時に、知的活動が個々人の生活の豊かさを彩る不可欠な要素となっている。教育の充実により国民一人ひとりの知的創造能力を高め、人類の英知や社会変革に資する科学・技術の創造をリードするとともに、そうした取組みが社会で尊重・評価され多様な人生を送ることができる環境を実現する。また、国際的に開かれた、世界の知が集まる魅力ある社会とする。

3.「科学・技術・イノベーション政策」の基本的方向性

前述の基本理念に基づくわが国のあるべき経済社会実現の観点から、科学・技術・イノベーションの中期政策は、以下の基本的方向性に基づき策定されるべきである。

(1) 総合的な科学・技術・イノベーション政策の推進

わが国の科学技術政策は科学技術の振興を主眼とし、イノベーションは、第3期計画において取組みが強化されたものの、その重要性に相応しい位置づけがなされていない。中期政策においては、科学・技術・イノベーションを一体として捉えた政策展開が求められる。あわせて、わが国全体の国家戦略に基づき、経済、産業、厚生、労働、環境をはじめとする出口政策、教育、知的財産、規制改革等の関連施策を整合的に推進する体制を整備する必要がある。

(2) グローバルなオープン・イノベーションの促進

グローバル化や知の高度化・複雑化の進展によりオープン・イノベーションの重要性が高まっており、日本の強みであった自前主義・垂直統合型事業モデルが弱みとなる局面も見られる。アジアをはじめグローバル・レベルでのヒト・モノ・カネ・知の交流・循環を一層深め、個人・組織あらゆるレベルで競争と協働が展開される環境を整備すべきである。同時に、国家的目標の実現あるいは地球規模の課題解決に向け、競争領域・非競争領域を適切に見極めつつ、産学官による戦略的な連携体制を構築すべきである。

(3) 個人・組織のイノベーション創出力の強化

人材がイノベーションの最大の源泉であることは論を待たない。初等から高等教育に至る一連の課程で、イノベーション創出を牽引する人材の育成を強化するとともに、そうした人材が年齢や性別等を問わず、自身の能力を最大限発揮できる環境と多様なキャリアパスを整備すべきである。
また、組織が果たすべき役割も大きく、政府、研究開発法人、大学、企業等の研究開発・イノベーション創出力を強化するとともに、グローバル競争に向け事業環境のイコールフッティングを確保することが重要である。

(4) 国民の視点からの「見える化」と国民参加の強化

科学・技術が国民に共感され、その有益性が理解されることが基本となる。PDCAサイクルや研究開発にかかる情報の共有・流通を再構築し、国民の視点から、研究開発の有用性、目標に対する進捗状況、社会への普及まで含めた具体的成果、リスクを含めた課題を「見える化」することで、国民参加の促進、説明責任の履行、多様なアクターの主体的な改革、イノベーション創出に向けた協働の促進につなげるべきである。また、欧米・アジアの主要国における科学・技術・イノベーション政策や研究開発の動向を絶えずベンチマークし、適切な比較を行うことにより、計画を柔軟に見直すことで、国際的にみても優れた政策を実現すべきである。

III.イノベーション創出に向けた戦略的取組み

中期政策においては、「課題解決型アプローチ」を基軸に「革新知創造型アプローチ」を有機的に組み合わせ、イノベーションを推進することが有効である。両アプローチは独立したものではなく、一方のアプローチの成果が他方のアプローチにおける成果を誘発する等、相互に影響を与える関係にある。同時に、グローバル・レベルでの戦略的な取組みを強化し、国際社会においてわが国ならではの貢献をしていくべきである。

1.課題解決型アプローチ

(1) 特徴(シナリオ・ドリブン、バックキャスト型戦略、選択と集中)

目指すべき経済社会の姿、克服すべき課題を明確にした上で、技術開発と複数技術の統合による社会システム化を想定し、その実現に向けた戦略を、時間軸をもって策定する。トップダウンでの選択と集中の下、産学官の共通認識に基づき連携し研究開発や制度改革等を総合的に推進する。

(2) 基本的な方策

政策課題別戦略の策定
成長力強化、環境と経済の両立、安全・安心、健康・長寿等の国家的課題を構成する、より具体的な政策目標に対応した「政策課題別戦略」を、社会科学の視点も交えながら産学官協働の下で策定する。その際、競争領域・非競争領域の峻別を念頭に置きながら、わが国競争力の源泉となる技術を見極め、複数技術と制度改革等のパッケージ(具体的な社会システム、製品・サービス)としての「社会システム」の構成を設定し、プログラム管理により機動的に推進する。また、必要に応じて、既存の学問体系に捉われない横断的研究開発領域を新たに設定する。
とりわけ、地球環境問題の克服は喫緊の課題であり、革新的な技術の開発およびその世界的な普及等が大きな鍵を握る。環境エネルギー技術革新計画や、総合科学技術会議における現在の検討等も踏まえつつ、中期政策に先行する形でグリーン・イノベーション戦略の策定に着手し、他の政策課題別戦略のモデルとすべきであり、産業界としても積極的に貢献していく。
短中期的に、既存技術のさらなる低コスト化・効率向上等を図るとともに、複数技術と制度改革を組み合わせた社会への実装を推進し、国民生活の向上と両立したライフスタイルおよび社会システムの変革、成長力強化を実現していく必要がある。同時に、温暖化ガス主要排出国や途上国における技術およびシステムの普及を促進すべく、公的資金メカニズム等の活用によるビジネス・ベースでの取組みを促進していくことが有用である。また、2050年までの世界全体の温室効果ガス半減に向け、新たな科学的・技術的ブレークスルーが不可欠であり、安定的な資源配分を行っていくとともに国際的な連携を強化していくべきである。

産学官対話・連携の場の形成
政策課題解決の観点から必要となる基礎研究、技術、国際標準化等に係る戦略等を産学官で策定・共有する場を、EUにおけるテクノロジー・プラットフォーム等も参考としながら構築する。国際的な研究開発動向を絶えずベンチマークしつつ、産学官における研究開発上の課題等を共有し、機動的に戦略を見直す。
必要に応じ、戦略の遂行に向けた非競争領域におけるトップランナー間の協働を可能とするナショナル・プロジェクトや、先端融合領域イノベーション創出拠点等の成果・課題を踏まえた研究開発拠点の形成を推進する。

選択と集中による資源配分
政策課題別戦略に基づき、選択と集中による資源配分を実施する。その際、いわゆる目的基礎研究、実証研究に必要な予算を確保するとともに、研究開発からイノベーション創出までの切れ目ないファンディングを実現する。

社会システム実証の推進
研究開発の成果を、システムとして社会に実装すべく、社会還元加速プロジェクトやスーパー特区等の既存の取組みを検証し、規制改革、インフラ整備、初期需要創出(政府調達、助成・税制措置等)、さらには国際標準化活動等と連動させた社会システム実証を推進する。

2.革新知創造型アプローチ

(1) 特徴(フォワードキャスト、多様性と融合、マーケティング)

パラダイム・シフト、研究者個人の能力や発想、異分野の融合に着目し、ハイリスクだがブレークスルーの可能性がある研究開発を推進することで、革新的な知を創造する。研究開発成果の萌芽後は「目利き」により、その活用価値や応用可能性等のアーキテクチャを描き、新たなビジネスモデルや社会システムの創造につながるイノベーションを創出する。

(2) 基本的な方策

多様な研究開発の推進
パラダイム・シフトを迅速に捉え、多様な評価軸、ピアレビュー等を通じて、人文社会科学の視点も交えながら多様な研究開発を推進する。また、国際的な研究開発動向等を踏まえ、必要に応じて重点分野、重点科学技術等を機動的に設定する。

安定的な予算確保
政府研究開発投資における割合を設定する等、安定的な予算を確保し、分散投資を基本とする。最先端分野のみならず基盤的研究の維持・拡大にも十分配慮するとともに、大学のみならず企業における有望な若手研究者への配分を厚くする。

異分野融合や挑戦を促すインセンティブ付与
ハイリスク研究、グランドチャレンジ研究、チーム研究に対するインセンティブを付与した競争的資金制度を充実する。同時に、内外の多様な人材の交流・連携を促進する環境を整備する。

成果をイノベーションにつなげる仕組みの構築
研究の進捗や成果の情報の共有・流通を促進する仕組みとともに、成果に対し集中投資を行い、イノベーションに結び付ける仕組みを構築する。研究開発成果の活用価値や応用可能性等のアーキテクチャを描き、新たなビジネスモデルや社会システムの創造に結び付ける「目利き」人材を育成し、活躍のための環境を整備する。その際、ユーザーとの交流やベンチャー起業促進等の機会を増やす。

3.2つの戦略的アプローチのグローバル展開

(1) 革新的な知の創造・融合を生み出す環境の整備

上記2つのアプローチを推進するにあたっては、世界におけるイノベーションの中核(イノベーション・ハブ)となるべく、グローバルなレベルで個人・組織が、競争・協力を展開し得るオープン・イノベーション環境を整備する必要がある。
海外からの優秀な研究者にとって魅力のある環境となるよう、従来よりも「国を開く」という国家意思を明確にし、在留資格要件の緩和、在留期間の延長、生活環境の整備、研究機関の外国人スタッフの充実等、受入れ体制の整備に努めることが求められる。また、海外で活躍する日本人研究者を含む優秀な研究者が、国内でも海外にひけを取らない研究環境や処遇を得られるような制度や仕組みについて検討すべきである。
同時に、国際的に遜色ない事業環境を整備すべく、法人税や規制等についても、イノベーション創出の阻害要因とならないようにすることが重要である。とりわけ知的財産法制は、そうした重要な事業環境のひとつである。オープン・イノベーションに資する知的財産の適切な保護や活用といった観点を踏まえつつ、柔軟性があり、国際的整合性のあるものにしていくことが期待される。さらに、経済連携協定等を活用したアジア等におけるビジネス環境整備(知的財産、各種規制等の整備を含む)についても検討すべきである。
また、個人・組織間の競争・協力の過程で形成される研究開発拠点やナショナル・プロジェクトも見直しが求められる。先端融合領域イノベーション創出拠点等の既存の取り組みを踏まえつつ、世界的な研究開発拠点の形成に向け、競争を通じた拠点の集約化やネットワーク化を戦略的に誘導すべきである。拠点の運営にあたっては、柔軟かつ厳格な知的財産・情報管理、優秀かつ独立したマネジメント体制等、強力なアドミニストレーション機能の強化が重要である。ナショナル・プロジェクトについても、国家戦略に基づく府省横断的な取組みやトップダウンによるテーマ選定、複数年度契約、予算の弾力的運用等に向け必要な改革を進めるとともに、わが国企業の競争力、安全保障に配慮しつつ、海外の研究者・研究機関の参加に係る基準、法的環境を見直すべきである。

(2) 地球規模の課題解決に向けた国際連携

環境・エネルギー、水、感染症、災害等、地球規模あるいは地域の課題解決と持続的成長に向けた国際連携を強化することが重要である。
とりわけ、経済成長と環境保護の両立に向け、国際的な技術ロードマップの共有・連携強化により革新的技術の開発を促進するとともに、既存技術を普及させるべく、途上国に対する技術支援を推進すべきである。企業は課題解決に役立つ製品・サービスを多く生み出しており、こうした成果を途上国で普及させるべく、知的財産の適切な保護に十分配慮しつつ、ODA等の公的資金による支援、人材育成等を適切に組み合わせて各種阻害要因を除去し、ビジネス・ベースの技術移転を促進することが重要である。
また、わが国発の社会システム等の世界的な普及に向け、例えば、東アジアにおける実証研究を積極的に推進し、東アジアを基点に世界への普及を目指すことも有用である。

(3) 国際標準化の戦略的な推進

イノベーションの成果をグローバルに普及させるという観点から、国際標準化は有効なツールであり、研究開発段階から国際標準化活動に積極的に取り組むべきである。わが国として効率的・効果的に国際標準化を進めるためには、産学官の話し合いを通じて、取り組むべき分野やテーマを戦略的に選定すべきである。また、国際標準化の実現に不可欠な他国とのネットワーク形成の一環として、国際共同研究や実証、共同で国際標準を提案する枠組み、途上国援助を行う際の標準化の視点の盛り込み等が求められ、とりわけアジアとの連携強化を推進する必要がある。
国際標準化を牽引する人材を、国全体で育成・確保することが必要であり、民間企業に対する研修制度の充実や、活動費用の支援、研究者の評価制度の確立、研究開発法人における標準化人材のプール等の施策の充実が必要である。

IV.イノベーション創出基盤の強化

イノベーション・プロセスは高度化・複雑化している。政府、地方自治体、大学、研究開発法人等の役割と取組み状況(人材、予算)を俯瞰した上で、それぞれの機能と相互連携、人材育成、予算等の措置といったイノベーション創出基盤を強化することが不可欠である。

1.推進体制

(1) 政府

イノベーション推進に向けた法制度の見直し
現状、科学技術関連法制については、科学技術の振興を主たる目的としていることから、科学・技術・イノベーションのあるべき推進体制の議論とともに、その裏付けとなる関連法制を一体的に見直すことが求められる。
とりわけ2008年に制定・施行された研究開発力強化法は、研究開発システムの強化を通じたイノベーション創出を目的とする法として高く評価される。同法は施行後3年以内に見直すこととされており、中期政策の検討にあわせて、効果的かつ総合的な科学・技術・イノベーション政策推進の観点から必要な法的措置を講じるべきである。

司令塔機能の強化
総合的な科学・技術・イノベーションの推進にあたっては、現在、総合科学技術会議が担っている司令塔機能の強化が不可欠である。この機に、科学・技術・イノベーション政策の司令塔が有するべき機能・役割を精査し、必要に応じ法的措置を含めた改革を進めるべきである。精査すべき項目としては、国家戦略策定機能と連動した科学・技術・イノベーション戦略の策定・評価・見直し、実質的な資源配分、教育・規制・知的財産等関連施策との連携、関係府省・研究開発法人等に対する実質的権限、ナショナル・プロジェクト等に対するチェック機能、調査・分析、産業界はじめイノベーションを担う多様な主体の意見を反映し得るメンバー構成・仕組み等が挙げられる。

府省連携、関連施策との整合性確保
国家戦略策定機能と連動した総合的な科学・技術・イノベーション政策の遂行にあたっては、司令塔の下、関係府省が緊密に連携する必要がある。政策実施段階での重複による無駄を排除するとともに、関係府省の共同提案や共同予算化、研究開発から社会実装に至るまでの切れ目ないファンディング、規制官庁との情報共有等、縦割り行政の弊害打破のための方策を検討する必要がある。

地方自治体
わが国の活力の向上において地域が果たす役割は大きい。産業振興、クラスター形成、イノベーション、教育等におけるきめ細やかな施策を展開するための地方の権限・予算を拡充するとともに、広域連携に向けた自治体間の連携を強化すべきである。地方自治体は、規制改革や住民参加等の各種便宜供与による研究開発・システム実証の円滑化、価値創造に資するスタートアップ企業や中小企業支援、産学連携支援、社会システムの海外展開等にきめ細かく対応することが期待される。

(2) 企業

わが国企業は、社会のニーズを適切・迅速に見極めながら知を実用化し、低廉で多様かつ高品質なサービス・製品を市場に提供することを通じて、イノベーションの一翼を担っている。
研究開発投資は中長期的な利益の源泉であり、企業はわが国研究開発投資の総額の約8割を負担している。しかし、世界同時不況の影響により、企業のリスク負担能力が低下する中では十分な投資が行われず、将来の成長が犠牲になることが懸念される。諸外国が研究開発促進税制を拡充する中、わが国としても研究開発促進税制を拡充・恒久化すべきである。さらに、政府投資による成果を効果的に民間に橋渡しすべく、マッチング・ファンドやハイリスク研究支援、産学連携に対する競争的資金の拡充等、企業の研究開発への支援を充実すべきである。
また、わが国においても、起業にかかる制度環境が整備され、大学発ベンチャーの量的拡大が図られたが、わが国の成長力に寄与する程には至っていない。カーブアウトを含め、研究開発ベンチャーの創造からその後の発展(IPO、買収等も含む)にかかる実態を精査し、必要な施策について議論すべきである。

(3) 大学、研究開発法人

大学
大学は、人材育成とともに、イノベーションにつながる革新的な知の創造、多様な知の融合等において中核的な役割を担うことが期待される。大学のあり方は多様であり、世界トップレベルの研究、地域振興、専門職教育、生涯教育等、大学毎に重視する機能を明確にし、特色ある運営と政策的支援が行われるべきである。とりわけ、運営費交付金については、大学機能の底上げの観点から適正な規模を見直すとともに、研究型であれば分野別評価、教育型であればユーザー側評価等、大学の特色に応じた評価・配分基準を設けるべきである。
また、大学は、道州制を睨んだ広域連携による地域活性化の核ともなり得る。地域の自主的な取組み、大学間の競争と協働を促し、地域毎に特定領域で世界トップレベルの拠点を形成するとともに、大学の連合・再編・ネットワーク化についての検討も重要である。
近年、大学が短期的な成果を求めるあまり、大学ならではの革新的な研究や、基盤的な研究が敬遠されるケースがある。大学運営においても、こうした研究が奨励・評価されるよう取り組むべきである。

研究開発法人
研究開発法人は、政策目的の実現に不可欠かつ民間企業や大学等では実施が困難な研究開発を担うべき機関であり、主外国同様、当該領域において中核的な役割を担うことが期待される。諸外国の類似機関をベンチマークしながら、政策目的遂行の観点から各機関のミッション・機能を見直し、必要に応じて再編・統合、政府への移管、公設民営への転換等、そのあり方を検討すべきである。その上で、各法人の独立性に十分配慮しつつ、国家戦略との整合性の確保、個々の役割に応じた柔軟な資源配分と組織運営、研究開発法人間の連携強化等がなされるべきである。加えて、産業界からは、大規模共用施設に対する期待も大きく、施設の効率的な運営とともに、産学への開放につき、一層の充実が求められる。
なお、諸外国では、イノベーション創出を目的とする機関を設立し、産業界出身者による運営、産業界とのマッチング・ファンド、他公的機関との連携、プラットフォーム機能等を提供しており、わが国においても、産業界との連携強化や、基礎研究から実用化までの切れ目ないファンディング等によるイノベーション創出支援機能の一層の充実が求められる。

2.予算・資源配分

(1) 総額目標

グローバル競争が激化する中、資源に乏しく本格的な人口減少社会を迎えるわが国が将来にわたり繁栄するためには、イノベーションの不断の創出により他国の追随を許さない競争力を保持し続けることが不可欠である。そのためには、前述のとおり、「課題解決型アプローチ」を基軸に、国家的課題の解決や成長力強化に向けわが国が世界をリードすべき研究開発を、選択と集中により戦略的に推進するとともに、「革新知創造型アプローチ」により、将来の成長の源泉たる革新知の創造に向け多様な研究開発を推進する必要がある。
政府研究開発投資は、両アプローチを推進する上で、産業界では担うことが難しい基礎研究やハイリスク研究、大学等における人材育成など、イノベーション創出基盤を支える予算として、いわばわが国の将来の生命線を握っている。
わが国の科学、技術、産業競争力の水準は、今後多くの分野において欧米・アジアの主要国と比べ相対的に低下していくと予測されている。わが国が強みを有するとされるモノづくりや環境・エネルギーの分野でさえ、一層の梃入れなしには欧米等と戦っていけない状況にある。近年、主要国は、政府研究開発投資の大幅な拡充を掲げており、わが国のみが予算を縮減するような事態が生ずることになれば、国力の中長期的な弱体化は避けられない。研究開発や人材育成は、長期にわたる継続的な営みであり、とりわけわが国が世界をリードすべき分野における事業等の廃止・縮小にはマイナスの影響が極めて大きく、国の将来に禍根を残す結果となりかねないものと強く懸念される。#2
わが国政府においては、冗費削減に関する不断の努力は行いつつも、科学技術が国家目標の実現等に向けた未来への投資であるとの認識の下、政治主導によって政府研究開発予算の拡充を打ち出すべきである。政府研究開発投資の具体的予算規模は、諸外国との競争に鑑みれば、官民合わせた研究開発投資の大幅拡充を念頭に、少なくとも対GDP比1%は安定的に確保されることが求められる。

#2 先の行政刷新会議の事業仕分けにおいて、科学技術関連事業は総じて大幅予算削減の判断を下される結果となった。また、次年度予算の概算要求額についても3兆6,635億円となっており、ここ数年前年度比2割程度の増額を要求してきたことと比較すると非常に低い水準にとどまっている。とりわけその主要費目である科学技術振興費については1兆3,667億円と、対前年度比マイナス0.8%という状況になっている。
(2) 資源配分方針

国の将来を見据えた課題や社会システムへの重点配分を視野に、わが国研究開発投資を戦略的に配分し、持続的成長と多様で豊かな国民生活を実現することが求められる。国家戦略策定機能とも連携し、官民全体の投資状況および欧米・アジアにおける資源配分の動向等を総合的に判断した上で、政策課題、研究分野、科学/技術/イノベーション、基盤的経費/競争的資金等の計画期間中の望ましい配分に係る中期方針を提示すべきである。
とりわけ近年は、環境保護と経済成長の両立、安全・安心な社会の実現等に向けた革新的な技術の創造や、技術の普及・移転の重要性が高まっており、特にグリーン・イノベーションの創出が、わが国の最重要政策課題の一つとなっている。資源配分にあたっては、こうした課題の解決に資する予算を抜本的に拡充すべきである。
なお、基礎研究の重要性は産学官で共有されているが、その定義が関係者により異なる。基礎研究を性質別に類型化し、性質に応じた資源配分方法を検討すべきである。とりわけ、わが国の産業競争力を支える基盤的な研究が先端性につながることも強く認識し、安定的に資源が配分される必要がある。

(3) 基盤的経費

第3期計画で掲げられたように、基盤的経費、競争的資金の有効な組合せ、研究開発フェーズや目的等に応じたファンディングのあり方について、制度論を含め抜本的な議論を行い、方向性を示すことが求められる。
基盤的経費の中核を成す運営費交付金は削減傾向にあり、大学や研究開発法人の効率的な運営や競争を促す一方、研究・教育基盤の劣化等の弊害が指摘されている。引き続き効率的な運営や競争を促進しつつも、一定規模の基盤的経費を安定的に確保する必要がある。

(4) 競争的資金

競争的環境の醸成は今後も重要であり、競争的資金については、金額ベースでは年々増加している一方、研究の短期化・保守化、競争の激化、事務処理の増加等の弊害も指摘されている。実証等のイノベーションに係る競争的資金を中心に引き続き拡充するとともに、予算の複数年度化、事務処理の簡素化・標準化、多様な評価軸の設定、中止・変更も含めたプロジェクト予算の弾力的運用等、必要な改革を推進すべきである。また、革新的な知の創造を促進すべく、若手やチーム研究に対する競争的資金の拡充、解決策を募集するコンテスト、ステージゲート方式、フロントランナー方式等、個人・組織の創造性を引き出すとともに、効率的な研究開発投資を可能とする方策を検討すべきである。

3.人材育成

(1) 大学・大学院教育

イノベーション創出基盤の中で最も重視すべきは優秀な人材の育成である。とりわけイノベーションを牽引する若手の優れた理工系人材を育成し、社会に輩出する場として、大学・大学院の果たす役割は重要であり、産業界からの期待も大きい。
今後は、昨今の基盤的経費の減少傾向が大学・大学院の教育機能にどのような影響を与えているか多面的な検証を行いつつ、イノベーション創出に貢献できる高度理工系人材の育成等に向け、大学・大学院の教育カリキュラムならびにシステムの改革を推進すべきである。

体系的コースワークの充実
技術の高度化・複雑化・システム化に伴い、単一の技術のみによるイノベーション創出は困難となり、異分野融合・分野横断技術の価値が一層増大している。こうした技術融合の時代にあっては、学部・学科・研究室単位での専門分化された高等教育体系ではなく、必須科目をはじめ極力幅広い知識を得られるコースワークのカリキュラムを体系的に構築し、大学院における教育課程において重視すべきである。これらの体系的コースワークは、学部・学科をまたいだ形での複数の指導教員による組織的なコ・ティーチングによることが望ましい。
コースワークの充実にあたっては、産業界等で活躍するための基礎的能力を備えるために極めて重要だが、昨今多くの大学・大学院で存続が懸念されている、「基盤的教育」とも呼べる科目を必須科目に含めるべきである。その際、産業の基盤となる技術を現場で学ぶ機会を提供することも有用である。併せて、論理的思考能力、マネジメント能力、語学力、プレゼンテーション能力等を養う科目の充実や、幅広い知識の修得を促す文理融合の教育の実施も重要である。また、産業界での多様なキャリアパスを念頭に、カリキュラムを複線化し、実践的なコースを提供することも有用である。
産業界としても修得を期待する科目について積極的に情報発信をし、充実したコースワーク構築に向け、積極的に協力すべきである。

多様な研鑽機会の拡大
優れた人材を養成するためには、内外を問わず優れた人材と切磋琢磨する研鑽の機会を拡大することが重要である。具体的には、優秀な海外研究者の積極的な招聘、質の高い留学生の増員、国内大学院生の海外大学院におけるトレーニングへの支援等、海外人材との切磋琢磨や、大学人と企業人との人事交流、とりわけ大学研究者の企業での研究活動を促進する大学の人事システムの改革等を積極的に進めることが必要である。例えば大学の研究者の採用にあたり、海外や企業における研究経験を必須条件とすること、海外において研究成果をあげて帰国した研究者に対して優先的に研究助成を行うこと、あるいは国際化を本格化させる大学に対して競争的資金を投入すること等も検討に値しよう。

博士課程における評価の充実と入口・出口管理の徹底
わが国産業界においても優秀な博士人材の採用が増加しつつあるが、海外の優れた企業では博士号取得者がより多く活躍している。今後、さらに博士人材のわが国産業界での活躍の機会を増やすためには、各大学が、学生の評価の厳格化等を通じて博士課程の学生に対する入口管理・出口管理に努め、博士の質を高く維持することが求められる。

学生の自立を促す経済的支援の充実
わが国の高等教育に対する公的支出金額は、先進主要国と比較して見劣りしており、早急な拡充が求められる。とりわけ奨学金や授業料免除等を通じた優秀な学生に対する経済的支援は、学生の学習意欲の向上に資するものであり、充実が期待される。その中でも特に大学院生に対しては、生活費相当額程度を支給し、研究に専念できる環境を整備すべきである。米国等の事例を参考にTA(ティーチング・アシスタント)・RA(リサーチ・アシスタント)制度を整備し、研究者としての自立意識の涵養を図ることも極めて重要である。

(2) 初等中等教育

初等中等教育は、人格形成ならびに学力の基盤形成において極めて重要である。科学技術創造立国実現の観点からは、とりわけ理数教育の充実が求められる。そのためには、まず、教員自身が理数教育に対する興味・関心と正確な知識を有するとともにその重要性や面白さを実感していることや、生徒に対する実験等を通じた体験型教育を実施できる能力を有していることが必要である。こうした質の高い教員の獲得・養成に向け、優秀な学生が教職に就くためのインセンティブ付与、理工系科目専攻学生の教員免許取得への優遇、教員養成プログラムの見直し、教員免許取得後の再教育の充実、理科離れに危機感を有する民間企業の協力、ポスドク人材の採用等、様々な措置を講じるべきである。

(3) 研究開発法人の役割

研究開発法人においては、大学・大学院改革でも触れたとおり、優秀な海外研究者の積極的な活用や、研究者の企業との人事交流の制度づくり、あるいは研究者の流動性確保に向けた人事システム改革等に努め、研究者の切磋琢磨の機会の拡大に積極的な貢献を果たすことが期待される。併せて、法人の性格によっては、人材育成機能を付与することの検討も有益である。

(4) 企業の役割

企業においては、長期インターンシップ、共同研究の実施等によって、大学研究者との共同研究の機会の提供を図る一方、企業から大学、大学から企業の双方向の人材流動性確保に向けた人事システム改革等も検討すべきであり、政府は必要に応じ、こうした企業の自主的取組みを支援すべきである。大学・大学院における人材育成に期待する観点から、大学や学生に対して企業が期待する知識や能力について積極的に発信するとともに、採用に関する倫理憲章の遵守等を通じた節度ある企業行動にも一層努める必要がある。

4.国民参加

(1) 若者に対する魅力向上

国民一人ひとりが科学・技術・イノベーションに多様な形で参画することは、国力増進のみならず、知的に豊かな生活の実現にも資する。科学技術コミュニケーション等に係る取組みは強化されつつあるものの、科学技術に対する国民意識はいまだ高いとは言いがたく、若年層ほど関心が低くなっている。
日常生活の様々な場面での科学・技術・イノベーションに関するコミュニケーション・参加の機会を通じた教育・啓蒙の充実、理工系人材のキャリアパスの多様化・魅力向上等に産学官が協力して継続的に取り組み、とりわけ若い世代が科学・技術・イノベーションに対して共感し、夢と希望をもてるような環境を醸成すべきである。

(2) 国の説明責任の履行

短期的な費用対効果が見出しにくい科学技術分野においては、納税者たる国民の理解と支持を得るため、国による説明責任の履行が不可欠である。政府においては、国民の視点に立ち、科学・技術を基点としたイノベーションにより実現し得る経済社会の姿、政策の方向性、研究開発の有用性、成果等を分かりやすく説明するとともに、国民の意見をフィードバックし、国民の間に科学技術の必要性・重要性に関する意識の涵養を図るべきである。

(3) リスク・コミュニケーション

近年は、国民の安全に係る分野を中心に、科学的視点にたった政策決定の強化に向け、国民の科学技術に対する理解増進と対話が不可欠となっている。バイオ、ナノテク等の科学技術の社会的影響についての情報公開や、国民の主体的なリスク・コミュニケーションへの参加等を通じて、研究開発の成果の社会への円滑な実装を実現すべきである。

V.おわりに

科学・技術を基点としたイノベーションの創出は、個々人はもちろんのこと、政府、地方自治体、大学、企業等が各々の役割を果たしながら、有機的かつ複雑に競争と協働を行い実現するものであり、日本の強みを活かしたナショナル・イノベーション・システムの構築が求められる。

わが国産業界は、生活者や社会のニーズを適切・迅速に見極めながら、知を実用化し、低廉で多様、かつ高品質なサービス・製品を市場に提供することを通じて、持続的成長と多様で豊かな国民生活の向上に貢献している。今後とも、不断の改革を通じて競争力をより一層高め、イノベーションの主たる担い手としての役割を果たす所存である。

現在、総合科学技術会議を中心に、第4期科学技術基本計画に向けた検討が進められている。産学官の英知を結集し、本提言も踏まえながら、わが国の持続的成長と多様で豊かな社会の実現に資する総合的な科学・技術・イノベーション政策の中期政策が策定されることが強く期待される。日本経団連としても、検討の進捗に応じ、より詳細な論点に対する見解を示すこととする。

以上