『読売新聞』社説 2009年12月6日付

予算編成作業 科学・文化を衰退させるな


科学技術や文化、教育などは、費用と手間がかかる割に成果がすぐには見えてこない分野だ。それを費用対効果で仕分けしてよいのだろうか。

知的創造活動の基盤整備や人材の育成は、長期的視野から取り組むべき課題である。

行政刷新会議の事業仕分けの結果、この分野の多くの事業が「廃止」や「縮減」と判定されたが、大胆に判定を見直して適切な予算措置をとることが必要だ。

科学技術関係では、次世代スーパーコンピューターの開発が「事実上の凍結」とされたほか、大学の研究成果を地域の産業育成に生かす地域科学技術振興・産学官連携などが「廃止」とされた。

これに対しノーベル賞受賞者の江崎玲於奈博士らは「科学技術創造立国」に逆行する作業だと批判した。当然であろう。

長期的戦略を欠いた予算削減は知の探究の基盤を崩すもので、日本の国際競争力維持の観点からも大きな禍根を残しかねない。

2000年の「子ども読書年」を機に超党派の国会議員が提唱して創設された「子どもゆめ基金」と、子ども読書応援プロジェクトも「廃止」と判定された。

基金は読書の街づくりや読み聞かせなど、年間約2000件の民間事業を支援してきた。

衆参両院で全会一致で採択された決議により、来年は「国民読書年」と定められている。活字文化推進の重要性を踏まえ、これらの事業は存続させるべきだ。

また日本芸術文化振興会を通じた芸術支援の予算は、「圧倒的縮減」と判定された。

バレエやオペラ、演劇の制作で国際的評価も高い新国立劇場の運営費や、優れた文化芸術活動の支援費用を中心とした予算だが、国庫負担を将来はゼロにするよう求める仕分け人もいた。

だが、商業ベースに委ねていたのでは文化・芸術は育たない。欧米諸国も国が積極的に支援をしたり、寄付税制を整備し民間による支援を促進したりしている。

文化振興は地方に委ねるべきだとの主張もあるが、自治体の文化予算は厳しい財政事情により削減される傾向にある。国が筋道を示し支援に取り組む必要がある。

教育予算では、英語教育改革総合プランが「廃止」とされた。

11年度から小学校5、6年生で必修化される英語の補助教材の予算が否定され、現場は困惑している。混乱が拡大しないよう、政府は早急に事業継続の方針を明確にすべきだ。