『信濃毎日新聞』社説 2009年12月3日付

科学技術予算 国民が納得できてこそ


政府の行政刷新会議による事業仕分けが科学技術の予算にも切り込んでいる。

その結果、次世代スパコンが見送りに限りなく近い縮減となった。GXロケットは計上を見送り、地球内部ダイナミクス研究は見送りまたは半減、大型放射光施設スプリング8や世界トップレベル研究拠点は縮減、感染症研究国際ネットワーク推進は廃止または縮小−とされた。

科学技術予算はこれまで未来を託すものとして、なかば聖域的扱いを受けてきた。それが崩れた。科学者らの反発は強い。

ノーベル賞受賞者らがそろって会見し、「若者を学術・科学技術から遠ざけ、海外流出を引き起こす」と批判している。

信州への影響も大きい。地域科学技術振興・産学官連携事業の廃止に伴い、信大などの炭素繊維カーボンナノチューブを使った商品開発にも影響が出る。

研究者や産業界の落胆は分かる。だが、科学技術関連の予算は必要性や効果について、十分な検証がされないまま枠が確保されてきた面がある。予算を使う側からの情報発信も不十分だった。

事業仕分け全体の手法について世論調査で国民の多くが肯定的に評価しているのは、国民の目にみえないところで予算が配分され、無駄遣いされているのではないかとの不信感があるからだ。

削られた側が復活を目指すなら、研究の意義を分かりやすく説明すべきだ。「一緒くたの仕分けは見識を欠く」と反発するだけでは、国民の支持は得られない。

政府も、仕分けで削ったものを今後復活する場合は、丁寧な説明で透明性を高めねばならない。

今回の仕分けだけでは、民主党政権の科学技術政策の全体像が見えてこない。科学技術政策全般で次の点を要望したい。

一つは、研究者の意欲をそがないことだ。限られた財源をどう有効に使うか工夫が要る。今は予算化できなくても長期的な展望を示すことが求められる。

二つには、宇宙の平和利用を明確に示すべきだ。宇宙基本法で防衛省が独自の偵察衛星を開発、運用できるようにしたが、宇宙を軍拡の場にしないことが大切だ。

三つ目には、基礎分野も重視する必要がある。昨年ノーベル化学賞を受賞した下村脩さんはオワンクラゲの研究から緑色蛍光タンパク質を発見し、今や医学にも大きく貢献している。すぐには利益に結び付かなくても、思わぬ用途を開くことのいい例である。