『読売新聞』2009年12月6日付

事業仕分け 科学政策 国民的な議論必要…小林信一・筑波大学教授


行政刷新会議の事業仕分けで、科学技術分野の様々な事業が、「廃止」や「予算削減」と判定された。科学技術基本法の施行から15年近く、国を挙げて振興してきたはずの研究開発や理科教育が、なぜ国民や政治家に理解されていないのか。科学技術政策が専門の小林信一・筑波大学教授に聞いた。 (滝田恭子)

科学技術予算は研究振興と同時に、国民の生活を良くし、安心して暮らせる社会を作るための国のお金だ。だが日本では科学技術政策が科学者や産業界の方を向きがちで、国民は置き去りにされてきた面がある。

1996年から始まった科学技術基本計画のもと拡大した予算を、科学者は自分の研究を支えるお金と受け止めた。だが国民は研究成果がいずれ社会に還元されると期待し、両者にズレが生じた。予算化のプロセスが国民から見て不透明なまま大規模な研究が始まり、目標の達成に有効なのかという事前評価が十分なされていない。

政策決定に力を持つ総合科学技術会議も、科学界に向けてメッセージを発しているように見える。内向きの議論はやめて、国民に話しかけるように変わるべきだろう。予算も専門家だけで評価せず、社会全体で考えていくべきだ。

各国は基礎研究の強化に基づくイノベーション(社会改革)を志向している。科学技術予算が縮小し、研究に空白ができると、取り返すのにその何倍もの時間とお金がかかり、結局は国民に不利益が生じる。科学者は、今回の事業仕分けを、科学界にも社会にも有意義な研究の在り方を考える機会にしてほしい。